第17話
「えぇーー。元手がいらなくなった!?じゃあ、もう依頼は受けないってことですか?」
ガンゾとメゴールが声を揃えて叫ぶ。
受付嬢の心配そうな視線がすごく痛い。頼むから最後まで聞いて。
「いや。ギルド側もメゴールには依頼を受けてほしいだろう。依頼は定期的に受ける。ただギルド側に条件を飲んでもらう必要があるけどな。どうでしょう?交渉、していただけますか?」
俺は受付嬢に聞く。
「えぇ。ギルド側としては黒級冒険者のメゴール様が依頼をこなしてくださるとなれば大幅な戦力アップが見込めますので、多少の事ならば交渉はいたします。何をご所望でしょうか」
うん、話が早くて助かるな。やはり優秀だ、そしてある程度の決定権もあるな。ここまでは想定通り。
「単刀直入に言います。要求は2つ。1つ目は、俺たちはこの冒険者ギルドの近くにレストランを作る予定です。もちろんこれは冒険者向けのものなのですが、そこで、そこのシェフであるガンゾの料理の宣伝のために、お弁当を店の名前を出して、ギルドで販売していただきたい。お弁当は試作品を後でガンゾに用意させます。
もう1つは、俺がこれから開発するアイテムボックスをここのギルドの道具屋に卸させてもらいたい。これはそちらにもかなりメリットがあるものだと思います。完成品はまだありませんが、試作品もどきはできているので、ガンゾのお弁当の試作品と共に、後でお持ちします。それだけでも見てもらえればすごいものだと分かってもらえるはずです。これは誰でも空間魔法を使うことができるようになるアイテムなので。おそらく市場を騒がせることになるでしょう。特に冒険者にとっては荷物の大幅軽減になりますから、かなりの革新では?」
「お弁当の件は問題ないと思います。念のためギルド長にも話しは通して置きますが、メゴール様が依頼を受けてくださるのであれば、その程度でしたらいくらでも可能です。
ただ、そのアイテムボックスは、正直現物を見てみないとなんとも。もし誰でも空間魔法が使えるのであればそれはかなりの大発明ですが、夢のような話で...申し訳ありません。メゴール様の主人であられるあなたを疑うわけではないのですが、道具はほぼ直接的に冒険者の生死に関わってきますから、我々も品質には責任を持っております。なので性能が定かではないものを道具屋で売る事は出来ないのです。とにかく一度試作品をお待ちいただいてからという事で」
まぁ、付与魔法はメゴールですら使えないものだ。世界で俺しか使えないわけだから、信じられないのも無理はない。むしろこれで性能がギルドに認められて、道具屋に置いてもらえれば箔がつく。
それにガンゾのお弁当が売ってもらえることになったのはだいぶでかいな。匂いだけでも食欲をそそる腕前だ。食べてもらえれば客は絶対につく。
冒険者なら普通の市民より稼ぎもいいだろう。少し高めに設定しても美味しければ問題はない。
最初は店頭で実演販売もお弁当と同時に行なって一気に冒険者を客にする。
これだけでも十分利益は出るだろう。
しかし、俺たちには時間がない。最初に考えていたプランだけでは一年でのし上がるのは絶対に不可能だ。
一人一人の負担が増えるが、あれをやるしかない。
俺は二人にこれからの方針を説明する。
「ガンゾ、メゴール。これから俺たちは一緒に仕事をする事はしばらくしない。
当初の計画とは違うが、レストランは基本ガンゾ一人で切り盛りしてもらうことにする。もちろんお客が増えて回転率が悪くなれば人は雇おうとは思っているけどな。
そしてメゴール。お前は冒険者としての活動と、魔法の開発に取り組んでもらう。科学的な説明は毎度紙にまとめて渡すのでそれになぞったものを作ってもらいたい。
最後に俺はメゴールの開発した魔法や付与魔法を使った製品の製造販売をする。
ここからは完全分業だ。最短で黒級を目指すぞ。大変だと思うが頑張ってほしい。
それと、本当に申し訳ないが給料に関してはギルドの監査時までは待ってほしい。もちろん俺の分も無しだ。すまない」
「わかりました。任せてください。それと景様。彼女の受けた痛みに比べればこの程度のこと、なんの苦にもなりません。ガンゾも私も給料などもらう気はありませんよ。もらっても突き返します」
メゴールがそういい、ガンゾも頷く。
なんというか、かなりタチの悪いブラック企業みたいになってしまったな。しかし、本当に頼もしく、いい部下達だ。
これで、利益を全てサキアと、事業拡大に費やせる。
元々はレストランを全員で切り盛りして、この国の商会の商品に影響を与えすぎない程度に、俺が他の商品を売っていくくらいな計画だったのだがな。正直今はなりふり構っていられない。ここの文明を数段階上回る圧倒的で真似できない商品を作ってやる。
サキアを救うためだ。他の商会には容赦なく潰れてもらおう。