第9話
「部下、大きく出たものだな。私を従えようという事かな。声も若いように思うが、交渉というには私に何か利益をくれるとでも?
私の求めているものを君が持っているようには思えないがね」
「ふふ、さすが賢者様。話が早いですね。もちろん用意しています。ついでに言うのであれば、特典すらあります。賢者様は科学というのをご存知ですか?」
そう。知識だ。世捨て人のような生活を送っている老人。物や地位には興味がないだろう。しかし、この手の人間は知識を何に変えても得ようとする。そして俺の手には異世界の知識という宝の山がある。ここの文明レベルを考えるに、この賢者にとっては、喉から手が出るものだろう。
「ふむ。聞いたことがないな。して、一体科学とは何なのだ」
よし、ちゃんと食いついたぞ。とりあえず手土産一つ目はいい感じに効いてるな。
「科学とは自然現象や、世の中のあらゆるものを神や魔法といった概念とは違った見方から考える学問のことです」
神の国なんてものがある世界だ。学問のレベルも発達はしてないだろう。地球といろんな法則が違う可能性もないわけではないが、亜人の姿を見るまで地球出ないことはわからなかった。魔法などの謎のチートてきなものはあっても、それをうまく活用できてない世界だしな。科学と混ぜ合わせて活用法はいくらでも考えつく。
「ほ、ほう。そうすると、なぜ、落とした物が地面に落ちるのか、世には昼と夜があるのか、それを神が世界にかけた魔法だという曖昧なものではなく、解決するという事かね!?」
かなり食いついたな。これは第2の手土産使わなくてもいけるか?
「その通りです。話が早い。どうでしょう。私の部下になって、あなたのもつ知恵や知識を貸してもらえませんか。その代わりに、新しい知識とそれらとを組み合わせた魔法の新たな使い方までお教えしましょう」
「なるほど。確かに魅力的な提案だ。私を部下にしようとするだけの能力がおありのようだ。しかし、この老いぼれを動かすにはあと一歩足りませんでしたな。あと10年若ければ乗っていったでしょう。この森にこもってはや30年。今更誰かについて世界に飛び出そうと思えないのです」
やっぱ手土産2持ってきて正解だった。そして俺はガンゾに合図を送る。ガンゾが持っているのは鮎に似た魚だ。
盗賊がいた川沿いに戻って魚を取ってこちらに来たのだ。一応盗賊を警戒して行ったのだが、もうそこに盗賊の姿はなかったので、恐らく逃げたのだろう。
さて、この手土産は知識以上にシンプルだ。世捨て人でも、腹は減る。俺も多忙な日々を送ってサプリやゼリーで生きるのに必要な栄養を補給していたが、ガンゾのご飯を見て匂いを嗅いだ瞬間、驚くほどお腹が空いた。
もともと佐々木グループは食品関係から成功して行ったグループだ。料理に関しては特に俺の見る目は鋭い。その俺が太鼓判を押すガンゾの腕前だ。
賢者に自分も人間だという事を思い知らせてやる。少し経って良い匂いが漂ってくる。
よし、さすがガンゾだ。なんと美味そうな鮎の塩焼きだ。正確には鮎じゃないけど。
さて、食べたいのは山々だが、これを賢者の家の玄関に近づけて、ひたすらあおぐ。
そして、
「今、私の部下になれば、世界一の料理人ガンゾの料理を毎日食べれます、その生活でそんな美味しい物が食べれるでしょうかね」
と一言かけてやる。賢者は返事をしなかった。これはかなり揺らいでる。時期にくるな。
すると、1分もたたないうちに音が聞こえた。
「グゥ〜〜」
すると、バタン、と今まで絶対にドアを開けなかった賢者がついにドアを開けた。
「ふむ、科学。実に面白いですな。この不肖モリ・メゴール、あなたの博識に感動いたしました。喜んで景様の部下になり、力をお貸し致しましょう。では、早速、あなたのに力になるためにも腹ごしらえを」
おいおい、よだれよだれ。よだれなければかなり貫禄あるのに。ってか、こんな効くなら最初からこれだけでもよかったかもな。科学面白いとか言ってるけど、完全にこいつ飯目当てじゃねーか。
って、もう食ってるし。まぁいいか。
とりあえずこれで賢者は獲得だ。
ってかおい、俺の分も食ってんじゃねーか。
俺、昼食べてないんだからな!
結局全部食べられた...覚えとけあのクソジジイ