転生したらLv99なんだけど戦闘毎にレベル-10
ノーブレーキで、坂道を下っていく。
愛車の調子はいい。メンテナンスは毎日欠かしていない。
山のふもとの街まであと10分ってところか。
吹き付ける向かい風が気持ちいい。
チャリ通学はやっぱり最高だ。
曲がり角から、トラックが見えた。
道幅は広くないが、十分な間隔はある。
俺は当然左側を走っている。
トラックは対向車線を通り過ぎていった。
この時間に山頂に登っていくトラックか、珍しいな。
この山を越えても、大きな街道へは合流できない。
大きな工事があるなんて話も聞いていない。
すれ違いざま見えた、トラックの側面には、でっかく異世界運送とペインティングされていた。
不気味だ、いやな予感がする。
俺は直感的にチャリのスピードを落とした。
また曲がり角から、トラックがやって来る。
そしてカーブを、ドリフトで曲がろうとしてきた。
トラックの車体が大きく振られて不完全な弧を描く。
トラックでドリフトとか、ふざけんな! しかも登りでとか。超高等技術だな。
警戒していたおかげで、間一髪かわせたが。
そして後ろから、またトラックが来た、
さっき通過したトラックが戻ってきたのか。
道を間違えた、訳ではないだろうな。
右車線に非難するしかない。
また曲がり角に差し掛かる。
ここで対向車が来たらアウトだ。
そして、対向車線からは当然のように3台目のトラックがやってきた。
これは避けられない。
終わったな。
この死に方には、悪意を感じる。
そして爆音とともに、俺の体は引き裂かれた。
いてぇ。
……。
どのくらい眠ってたのだろうか。
どのくらい意識がなかったのだろうか。
なんで、意識を取り戻せたのだろうか。
俺は全身を強く打って死亡したはずだ。
手足も頭もある。
五体も満足のようだ。
目も、見える。
俺の周りには宇宙が広がっていた。
前も、後ろも、右も、左も、上も、下も。
昔行ったプラネタリウムを思い出した。
ぬっと、何かが眼前にあらわれた。
それは、巨大な、人の形を模した、機械の塊だった。
「わたしは、神だ」
神様か、もしくは神様の皮を被ったお笑い芸人はそう言った。
思わず威圧された。
全身からしゅこー、しゅこー、とけたたましい音を立て続けている。
威圧感はダースベーダーの比じゃない。いや、ダースベーダーも相当なものか。そっちは会ったことがないんで、比較は出来ないな。
誰かが仕組んだとしか思えない、あの死に方。
こいつが諸悪の根源か。
この前トイレにトイレットペーパーが無かったのも、こいつが悪いのか。
巨大な機械仕掛けの神様は、俺に向かって語りかけた。
「おお、死んでしまうとは情けない」
うるせーな、あれで生き残るのは無理だよくそが。第1印象が地に落ちたぞ。
口がどこにあるのかはわからない。どこから声を発してるんだ?
声のほうはわりと普通。
ちょっと渋めのNHKのアナウンサーの声って感じだ。
つまり滑舌は、よい。
「そなたには、もう一度機会を与えよう」
一瞬だけ機械の体をくれるのかなと思った。神様あんな見た目だし。
しかし、たぶんチャンスのほうの機会だ。
正確にはオポチュニティーだけど。
「すみません、まず、聞きたいことがあります」
「なんだ?」
ちゃんと人の話を聞く耳はもってるんだな。意外と悪いやつじゃないのか?と思ってしまう俺は単純だ。
「俺を殺したのは、あなたですか?」
「ふむ」
神はしばらく考えていた。
「シンプルに言おう。私ではない。私の手の者でもない」
雰囲気的には、嘘を言ってる感じでもないが。
まあ50:50ってところだろう。
「そなたは、そなたの世界で死んで、その魂が私のもとへ送られてきた」
「ということは」
「そう、ここはそなたが元いた世界とは違う。そしてそなたは、ここで、新たな生命を得るのだ」
「なんてことだ!勝手なことをいわないでください!」
俺は鼻をほじくりながら言った。
「そなたの魂が送られてきたとき、メモもついていたな。読んで聞かせてやろう」
そして原始的な紙のメモを取り出して、言った。
「この子をよろしく頼みます」
「捨て猫扱いか!?ふざけんな!」
思わず感情が爆発した。
人を死なせておちょくってんのか?ふざけんな。
「そなたらの事情など知らん」
機械製の神は機械らしく冷たく言った。
「やって来た案件があったから、これから速やかに処理するだけだ。そなたの持ってる知識でいうなら、事務仕事だよ」
「神様が事務作業してるんだな、俺の世界の感覚ならそれはおかしい」
「別に人手が足りないわけではないのでね。そなたらの感覚でいうならね」
ああ、自分の処理能力を自慢してるのか。暗にわかりやすく。むかつくやつだ。
そういう態度だから誰からも尊敬されないのですよ?普段どんな扱いされてるか知らんけど。
「さっきもいったが、そなたはこの世界で、あらたに人間として誕生する。今回は特別に、特殊な能力を与えてやろう」
「お、おう」
なんか当然のごとく言われた。人間なのは確定なんだね。
マニュアルどおりって感じの対応だった。
「なんで特別あつかいされてるんですか俺」
「それはな」
神は、重々しく言葉をつむぎだした。
「そなたがこの世界の通算1000人目の転生者だから、記念だ」
「自分の作った世界を、遊園地と勘違いしていませんか?」
やべぇつっこんでしまった。
不敬罪で逮捕されるだろうか。
「得られる特殊能力はランダムとなる」
神は突っ込みをスルーして説明を再開した。
「私がランダムでこれが選ばれた、と言って与えても、そなたは不正があったと思うかもしれぬ」
「いや、そんなこと考えもしませんでした」
「そこで、公正を規すため、こんなものを用意した」
巨大な円盤に、いろいろな文字が書いてある。
日本語なので俺でも読めた。
「そして、そなたにこの小さな投げ矢を投げてもらう。円盤に刺さった文字に則した能力を与えよう」
おいそれって。
「昔テレビで見たものを、真似して作ってみたのだ」
TBSの電波って異世界の神様のところまで届くんだなぁ。
「円盤を外したらどうなるんですか?」
「タワシでも欲しいのか?」
「いりません」
「よし、タワシを与えよう」
「かさばるのでいりません」
神様って性格悪いなぁ。
「では、回すぞ」
説明もなく、当然のごとく円盤を回転させた。
まあ投げるしかなさそうだ。
「パジェロ!パジェロ!」
神様は、ひとりで騒いでいた。
え、景品にパジェロあるの? はずれじゃね、それ?
なんかもうどうでもよくなってきたので、適当にダーツを投げて適当に刺さった。
「なんということだ!」
えっ。なに。怖い。
「それは大当たりだ。そなた、生まれたときからレベル99でスタート出来るぞ!」
「あんたの世界ってレベル制なのかよ」
「世界のシステムが、便宜的に数値であらわせるだけだ」
まあこれ強いんだろうなあ。
周りがみんなレベル99とか、カンストレベルが9999とかでなければ。
でもレベルで人間の価値が決まる世界とか、俺は嫌だ。
「さあ、付与は滞りなく終わった」
「あ、はい」
そしてあっさりレベル99に到達した。
「では、今度はマイナスフィートを与えよう」
「当然のようにやばいこと言い出した」
「長所があれば、欠点もある。生物とはそういうものだ。私もね」
ああ欠点だらけだよ神様。
「欠点もやりようによれば長所になる。前の人生でもよく言われたはずだ。長所は欠点になりうるし、欠点は長所にもなると」
あー兄ちゃんが就活してたときに、それよく言ってたなぁ。聞いてもいないのに。くそうざかった。
そんな兄ちゃんも、社畜になってからはめっきり口数が減ってしまった。
俺の葬式は、会社に行かずちゃんと来てくれたのかなぁ。
「では、このダーツを手に取るがよい」
また謎の円盤が現れ、回りだした。
これは、ダーツを外したらどうなるんだろう。
「意図的に外したので無いのであれば、マイナスフィートは免除しよう」
ああ、俺の心読まれてるんだね。今まであえて言わなかったんだね。
「意識して外すのなら、そうだな、今回は、この円盤に書いてある、全てのマイナスフィートを取得してもらおうではないか」
今回って何だ。今考えたな。
「つまり、そなたが今なすべきは、本気で的を狙いつつ、うっかり指を滑らせてしまうという、超高等テクニックを成功させることだ」
「いやそれあかんやろ」
「私を完全に騙せると思うなら、やってみるがいい」
円盤が回りだす。
意図的に外すリスクがひどいので普通にダーツを投げることにした。足がすべるとかアクシデントおこらんかな。
ダーツはまた普通に刺さった。
「おお、これは珍しい」
え。何。
「もうひとつのフィートは、1戦闘ごとにレベルが-10される、だ」
「なんじゃそりゃあぁぁぁ」
思わず叫んだよくそが。
「いやあ、能力の相性はいい。わかりやすい。つまり、戦えば戦うほど弱くなる。どっちのフィートも強烈だがな。もしかしたら、神のお導きかも知れんな」
「いや、あんた神様を名乗ってるだろ。つまり仕組んだって言いたいのか」
「いや偶然だよ、偶然」
もはや信用は0になった。1以上になることは今後ないだろう。
やはり、神というものは、存在を認めても、信じてはいけない。
「これで初期設定は終わりだ」
「あーもー人生はゲームじゃないんですよ」
「では、そろそろ旅立つがよい。あらたな生命を得んとする、冒険者よ!」
「あんた、いったいなにがしたいんだよ」
「ふん、わからないのか?」
このでかい物体は、つまらなそうに言った。
「余興がみたいだけだよ」
その言葉の後、俺の足元がパックリ割れ、ある星に向かって俺は投下されていった。