四、夢喰い。
「──ねえ楓、夢魔って知ってる? あ〜あ、私も夢魔になれないかなあ」
「はあ? いきなり何を馬鹿げたことを言い出しているのよ、恵?」
「だって素敵じゃない、夢魔って。好き勝手に眠っている人の夢の中に入っていけて、その人の精だろうが何だろうが奪い取ることができるんだよ?」
「……それのどこが素敵なのよ。だったら夢魔ではなく、貘だって構わないじゃないの」
「うん、そうよね。何といっても貘って、夢そのものを食べることができるもんね。でも私、実は夢魔と貘って、本質的に同じものだと思っているの」
「へ?」
「言うなれば、精だろうがその人自身だろうが夢の世界そのものだろうが、すべては眠っている人の夢の構成物に過ぎないじゃない。つまり『夢を食べる』という意味においては、夢魔も貘も同じことをやっているわけなのよ」
「……はあ。それはまあ、そうだろうけど」
「それに小説とかいった創作物なんかも、元はといえば人の夢や妄想から創り出されたようなものでしょ? もしかしたら夢魔だったら物語の世界の中にも入っていけて、その世界そのものを──ひいては作り手の想いそのものだって、食べることができるんじゃないかなあ」
「──っ!」
「うふふふふ。私がもし夢魔になれたのなら、是非とも楓の小説の中に入ってみたいわ。楓の『物語』って、いったいどんな味なのかしらね♡」
そう言いながら、いかにもいたずらっぽく、私のうなじへと唇を寄せてくる、最愛の親友。
しかし、そのとき相手の夢を食べたいと渇望していたのは、むしろ私のほうであったのだ。
四、夢喰い。
「……それで、今度は実地訓練とやらをしてくれるそうだけど、この状況はいったい何なの?」
私は真っ昼間から自分の寝室へと我が物顔で乗り込んできた、裾の短い漆黒のキャミソール型のベビードールのみを身に着けた少女に向かって、そう問いかけた。
自分自身も、スケスケのバイオレットのネグリジェを、まとった姿で。
「何よ、そのいかにも不満そうな口ぶりは。物語の女神様が直々に、秘伝の小説創作テクニックを伝授してあげようと言っているんだから、もっと感謝の意を表しなさいよね」
「だから何で小説の創作テクニック講座をベッドの上で、しかもお互いに薄い夜着一枚の格好でやらなきゃならないのよ⁉」
「ちっ。いい歳して、何を恥ずかしがっているのよ? 別に今からしっぽりと、睦み合おうってわけでもないのにさ」
「──なっ⁉」
「いいからぐずぐず言わずに。ベッドに横たわりなさい。早くしないとあの担当編集がしびれを切らして、ドアを蹴破って乱入しかねないわよ。まったく、あのエロ眼鏡が。何が『女神様の秘術を映像として後世に残すため』よ。動画撮影機能付きの超高画質フルサイズ型デジタル一眼レフカメラなんかを持ち出してきて。どうせあとで個人的に楽しむつもりのくせに。百合でロリコンの『ユリコン』ともなったら、もはや人間失格レベルね」
……た、確かに。まさか長年つき合ってきた自分の担当に、そのような特殊な性癖があったなんて。
「いやでも、何で真っ昼間から、二人してベッドで寝なくてはならないの? 私は別にユリコンとやらではないわよ?」
年頃の娘がいる身としては、ここではっきりと否定させていただきます。
「何を言っているのよ、これから『ダイブ』をやるからに決まっているでしょ? この前ちゃんと予告していたじゃないの。機会があったら、あなたも一緒に連れて行ってやるって」
「……え。本当にあなた、そんなことができるの?」
「だからこれから、それを証明して見せようってわけよ。さあ、四の五の言っていないで、さっさとこっちに来て身を横たえなさい!」
すでに私のセミダブルベッドの上でしどけなく寝そべりながら、自分の隣の空間をビシバシと叩いて催促する少女。
「え? ダイブをするためには、直接一緒に寝なくてはならないの? ──はっ。つまりダイブとは文字通りトリップ状態になることで、お互いの感情を極限まで高めるとともに、心身共にエクスタシーを感じることが必要だとか⁉」
「何をアホな妄想を暴走させているのよ⁉ 実はあなたもユリコン編集者の仲間だったわけ? ただ単に手を繋いで寝るだけよ。それ以上のサービスは別料金だからね!」
……料金を支払えば、何かサービスをしてくれるのでしょうか?
とにもかくにも私もベッドに上がり込み、おずおずと幼い少女の傍らへと身を横たえた。
「ちょっと、何よその、いかにもおっかなびっくりの態度は⁉ 生娘でもあるまいし! 何だか私のほうが、世間知らずの娘を金や権力を使って無理やり手籠めにしようとしている、エロ親父みたいじゃないの⁉」
「し、しかたないでしょう⁉ いくらベテラン小説家とは言っても、出版界における伝説の物語の女神と、実際に一緒にダイブをするなんて、当然初めてのことなんだから!」
「はあ? 何が初めてよ。これくらいのことなら二十年ほど前には、散々嗜んでいたくせに。──そう。あなたの最愛の親友さんとの、『秘密の遊戯』によってね」
──っ!
……やはりこの子は、私と恵との二人だけの『儀式』のことを、知っているわけなの⁉
「ど、どうしてあなたが二十年も前のことを、見てきたように言うことができるの?」
「それは私とダイブをしてみれば、自ずとわかるわ。そんなことはもういいから、とっとと右手を貸しなさい!」
そう言って引ったくるようにして私の右手をつかみ取るや、ベッドへと沈み込む少女。
しかたなく私も、彼女に寄り添うようにして目を閉じる。
するとまたたく間に私の意識は女神様のお導きによって、物語の世界へと吸い込まれていったのである。
◐ ◑ ◐ ◑ ◐ ◑
「──何をぼんやりとしているのよ、楓」
そのとき唐突に耳朶を打った少女の声に、妄想の海にどっぷりと埋没していた私は、すぐさま現実へと引き戻された。
「……恵」
「ひどいわ。せっかくこうして二人っきりになれたのに、自分だけ物思いにふけるなんて」
彼女の『二人っきり』という言葉にドキッとなり周囲を見渡せば、確かに雲一つない晴天の下の本校舎の屋上には、他に人影は見当たらなかった。
初夏の真昼の生暖かい風が、二人の純白のワンピース型の制服の裾と、最愛の親友の少女のふわふわとしたセミロングの茶髪を揺らしていく。
「ごめんごめん。いつの間にか、何か幻でも見ていたみたい。──あれ。でも、どんな内容だったっけ。何だか、とても懐かしい気持ちがしていたんだけど」
「まあ、もしかして一人で『儀式』をしていたの⁉ ずるいわ、私にも楓の物語を見せてちょうだい!」
「いや、いつもの儀式と言うよりも、むしろ白昼夢か何かだったのでは。う〜ん、何だか気持ち悪いな。何やら大切なことを、忘れてしまったような……」
「──だったら口直しに、これから二人で儀式をしない?」
いきなり耳元に吹きつけるようにしてささやかれた声に振り向けば、どこか意味深に煌めいている茶褐色の瞳が見つめていた。
「こ、こんなところで、アレをするの⁉」
「大丈夫よ、年中お肌の心配ばかりしているお嬢様方が、こんな晴れた日に屋上なんかに来やしないわ。だからこそここを、二人だけの秘密の場所にしたんじゃないの」
「で、でも、もう昼休みも残りわずかだし──」
「……楓は私と儀式をするのが、嫌になってしまったの?」
私のほうに覆いかぶさるように迫りつつも、どこか不安げな言葉をこぼし落とす桃花の唇。
だから私は、それ以上彼女に言葉を重ねさせることなく、力強く抱き寄せた。
「あんっ」
「何を言うの。私が恵と一つになるのを、嫌になるはずはないでしょう?」
そして間近に迫った互いの瞳をまじまじと見つめ合っているうちに、恵がおずおずと唇を近づけてくる。
気がつけば私たちは、物語の世界の中にいた。
そう。これぞ私と恵との二人だけの、『秘密の遊戯』の始まりなのである。
それは時には、二人で一緒に読んだばかりの小説だったり、私の拙い自作だったり、恵のとりとめのない妄想話だったり、そのすべてがごちゃまぜになったものだったりした。
しかしたとえそれがどのような世界であろうとも、私の隣には必ず恵の姿があった。
そこでは常に私は主人公であるものの、恵のほうはお姫様になったり女王様になったり魔女になったり女戦士になったり天使になったり妖精になったり悪魔になったりと、様々に変化した。
だけどどんな物語だろうが、彼女が『私だけのヒロイン』であることに、変わりはなかった。
仮にそれが、愛であろうと憎しみであろうと慈悲であろうと蔑みであろうと友情であろうと敵意であろうと、恵のすべては、この私だけに向けられてきたのだ。
彼女に抱きしめられたとき、刃で貫かれたとき、卑しい下僕として足もとにひざまずかされたとき、呪いによって石に変えられたとき、こっぴどく裏切られてうち捨てられたとき、人生最期の際に死の口づけを受けたとき、そのすべてに私は、恍惚たるエクスタシーを感じた。
ああ、恵、私の女神よ。たとえそこが現実だろうが夢の世界だろうが、けしてあなたを放しはしない。
「──いい加減に放しなさいよ⁉ このエロ小説家!」
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
そのとき唐突に鳴り響いた幼い少女の声に目覚めれば、私の腕の中にいたのはかつての最愛の親友ではなく、漆黒のキャミソールに包み込まれた華奢な肢体であった。
「あ、あれ? 恵は……うぐっ⁉」
きつい膝蹴りをみぞおちに食らいたまらずのけ反れば、必死の形相でベッドの縁へと後ずさり、私から距離をとる少女。
「な、何が、『恵〜恵〜けして放しはしない〜』よ⁉ このユリコン小説家が! ああ怖かった。これまで物語の女神としてあまたの語り部とダイブをしてきたけれど、これほどの貞操の危機を感じたのは初めてよ⁉」
こちらを涙目になりながら睨みつけている、黒水晶の瞳。確かにその中には、本気の恐怖の色が浮かんでいた。
「ご、ごめんなさい。夢の中でも恵とトリップをしていたものだから、つい──って、ちょっと待ってよ。そういえば私たち、物語の世界へのダイブをやるはずじゃなかったの? それが何で、過去の世界に記憶がとんだりするのよ⁉」
そうだ、考えてみればこれはけして先日に引き続いての、『タイムトラベル実践講座』なんかではなかったはずである。
「いいえ、これは確かに、物語の世界へのダイブよ。それもあなたの、最新ベストセラー作品へのね」
「えっ………あ!」
「そういうこと。過去の事実を基に創られた作品の中に、原作者であるあなた自身がダイブして行ったんだから、この前のタイムトラベル講座で言うところの、『タイムトラベルとは夢のようなものである』における、夢を小説に置き換えたようなものなのよ。何せ元々小説等の創作物は、作者の夢や妄想によって創られたようなものですからね。とにかくこれで十分わかったでしょう? あなたは別にダイブをするのは初めてではなく、かつての親友さんとの『秘密の遊戯』によって、散々体験していたってことを」
──っ。そうだ、そうだった。
「……何で物語の女神であるあなたのダイブ能力と、私たちが戯れにやっていた子供の妄想ごっことが、こんなにも似通っているわけなの?」
そのとき目の前の少女はにんまりとほくそ笑むや、とんでもない『爆弾発言』を投下してきた。
「そりゃああなたの愛する恵さんには、物語の女神の力があったからに決まっているでしょう?」
………………………………………………………………………………………はあ?
「ちょ、ちょっと待ってよ⁉ 何てことをいきなり言い出すのよ? 確かに恵は生粋の文学少女で重度の妄想癖だったけど、あくまでもごく普通の人間の女の子で、出版界最大の都市伝説である物語の女神のような、不思議な業を使ったことなんかなかったわよ⁉」
「……あなた物語の女神のことを、化物か何かと勘違いしているんじゃないの? あのメガネ編集が言っていたように、女神といえどもダイブ能力等の超常の力を振るえるのは夢や創作物の世界だけなのであって、基本的には現実世界においてはただの女の子にすぎないのよ。それに恵さんはかつて確かに、女神としての最大の御業を実現して見せたじゃない」
「女神としての、最大の御業って……」
「もちろん何といっても、一人前の小説家を育て上げることよ」
「はあ? 恵は中学生の時に死んだのよ? 小説家を育てるどころか、個人的な面識すらなかったはずよ⁉」
「何を言っているの? ちゃんと育て上げているじゃない。今まさに私の目の前にいる、当代きっての人気ベストセラー作家様を」
え?
「──って。私のこと⁉」
「確かにあなたが現在こうして小説家としてそれなりの地位を築けているのは、あなた自身の才能や努力のたまものでしょう。でもそれと同時に、今もあなたの心を少なからず占め続けている、恵さんへの想いこそが、小説家としてのあり方や作品づくりの原動力の源になっていることも、事実のはずよ。──まさしく、今回の『夢魔の告白』のようにね」
「──うっ」
……そうだ、私が作家になったのも、今もこうして小説を書き続けているのも、すべては恵のためだったのだ。
いつの日か、彼女との『約束』を果たすために。
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「……まさか恵にも、物語の女神の力があったなんて」
その日の夜更け。私はベッドの上に横たわりながらまんじりともせずに、昼間黒衣の少女から聞いた衝撃的な言葉の数々を反芻し続けていた。
あの、ちょっと変わったところもあるけれど、ごく普通の女の子だった恵が、出版界における伝説の女神だったなんて、どうしても信じられないし、むしろ信じたくはなかった。
でも確かに最初に物語の女神の存在を私に教えてくれたのは彼女だし、他にも夢魔がどうしたとか夢とタイムトラベルは同じようなものではないかとか、まさしく歌音と似たようなことを言ったりもしていたっけ。
それに何よりも、私と彼女との間で何度も繰り返してきた『秘密の遊戯』こそは、まさに女神である歌音がやってみせた、物語の世界へのダイブそのものであったのだ。
「本当に、そうなの? 恵は物語の女神だったの? 女神だからこそ、私に近づいてきたの? すべては私を、小説家として教え導いていくためだったの?」
──あの日、私の目の前で屋上から飛び降りて見せたのも、そのためだったの⁉
ひどい! 散々甘い夢を見せておいて、結局私のことを見捨てて、一人で行ってしまうなんて!
あなたさえいてくれれば、小説家になんてなれなくてもよかったのに!
女神なんかじゃなくてもよかった。そんなことよりも、ずっと側にいて欲しかった。
とめどもなく唇から洩れ続ける、やるせなき悔恨の嗚咽。
それをどうにか押さえ込もうと、両手で顔を覆い隠した、その刹那であった。
『──いいえ。私はあなたのことを、けして見捨てたりはしないわ。今までも、ずっと側にいたのよ』
唐突に鳴り響く、鈴を転がすかのような懐かしき声音。
気がつけば、先日の夢同様にまたしても、布団越しに私の身体の上にまたがっていたのは、白いワンピースに包み込まれた華奢な肢体であった。
「……恵」
『さあ、もう泣かないで。小説家になれなくてもよかったなんて、哀しいことを言わないで。昔のように私と一つになって何もかも忘れて、物語の世界の中で微睡みましょう』
そう言うや、私のほうへと覆いかぶさるように迫り来る、茶褐色の瞳。
しかし私はそんな最愛の親友のことを、両手を突き出して押しとどめた。
「やめて! あなたは本物の恵じゃないんでしょう⁉ 私の偽りの物語が生み出した、『怪物』なんでしょう⁉ どうせ今このときも、夢か幻を見ているだけに過ぎないんでしょう⁉」
そう言って彼女のすべてを拒絶するように、再び両手で目を塞ぐ。
『うふふふふ。何を言っているの? 私は私よ、本物も偽物もないわ。前にも言ったでしょ? 物語の女神は同時に怪物でもあり、どちらの姿で現れるかは、それを望む小説家次第だって』
──あ。
おずおずと見やれば、相変わらず目の前には、にこやかな笑顔が輝いていた。
『あなたはどっちがお好みかしら? ただ奇麗なだけの思い出の中の女神としての私と、あなたのすべてを喰らい尽くして身も心も一つになることを欲している、怪物としての私と──』
そう妖艶にささやくや、私のうなじへと、艶めかしい桃花の唇を這わせてくる少女。
これが、この怪物が、私が望んでいた恵の姿なの?
そうだ。私は本当は、恵と身も心も完全に、一体化してしまうことを望んでいたのだ。
『おいしいわ。これが楓の、「物語」の味なのね』
「……うっ……くっ……恵……やめっ……あんっ!」
気がつけば、いつしかお互いに身に着けていたものをすべて脱ぎ去っており、親友の少女の熱く濡れた舌先が、私の全身をくまなく這い回っていく。
女盛りの熟れた肢体を一方的にもてあそび続ける、幼い怪物。
『ふふふ。こんなに感じやすくなってしまって、いやらしいわ』
「……ず、ずるい……私だって……恵の物語を……食べてみたいのにっ……」
尽きることのない快楽に耐えかねて、ついこぼれ落ちた、本心からの願望の言葉。
『だったら楓も、私と同じ怪物に──つまり、夢魔になってみない?』
──え?
『夢魔になってしまえば、他人の夢も妄想も、それらから生み出される物語や小説も、自由自在に食べることができるようになるのよ』
「で、でも、夢魔になるなんて、いったいどうやって?」
『簡単なことよ。ただこのまま夢の世界の中で、私と共に生きていくことを受け容れるだけでいいの。そうすれば夢魔の絶大な異能の力も永遠の命も、すべてあなたのものよ』
恵と共に互いの物語を食べ合いながら、夢の世界の中で永遠に生きていく──何てそれは、甘美な誘惑の言葉なのだろうか。
もはや我を忘れて、私が思わず頷こうとした、まさにそのとき。
『調子に乗るんじゃないわよ、偽物の女神のくせに。そこのメス豚は、今は私の獲物なんだからね!』
『──ぎゃああああああああああああっ!』
「め、恵⁉」
突然鳴り響いた新たなる少女の声と共に、何と黒い霧と化してかき消えていく、目の前の親友の身体。
「どうしたの、恵⁉ お願い、待ってちょうだい!」
慌てて腕を伸ばして彼女の右手をつかんだかと思った瞬間、世界のすべてが漆黒の闇に塗りつぶされてしまった。
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「……いつまで人の腕をつかんでいるのよ。とっとと放しなさい、このユリコン小説家!」
そのすでに慣れ親しんだ(?)容赦のない罵声に意識を取り戻せば、私の身体の下には黒いキャミソール姿の少女がいかにも不機嫌そうに横たわっていた。
「きゃっ、歌音さん? あ、あなた、人のベッドの中で、いったい何をやっているのよ⁉」
慌てて飛び退くや、女神の少女が苦笑混じりに肩をすくめた。
「もう少し感謝してくれたらどうなの? 何だかうなされていたようだったから、悪夢を食べてあげたのに。それともあのまま偽物の親友さんに、取り込まれてしまったほうがよかったかしら?」
「夢を……食べた?」
「ええ。夢やその派生物である物語等の中の人や物や世界そのものを喰らい尽くし、初めから何もなかったかのようにすべてをリセットすること。これぞダイブ能力と並ぶ、物語の女神の異能の力の一つなの」
あっさりと驚愕の事実を言い放つ、目の前の少女。
しかしそれは私にとっては、とても聞き捨てならない言葉であった。
「ちょ、ちょっと待って。夢やその派生物である物語等の中の、人や物や世界そのものを喰らい尽くすことができるって、それじゃまるで夢魔そのものじゃないの⁉」
「そうよ。夢の中の親友さんも言っていたじゃないの、『女神は同時に怪物でもある』って」
──‼
「つまり、物語の女神と夢魔は、元々同じものだったのよ」