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一、虚像。

 いじめ小説を書くようなやつは、人間のクズだ。


 ──しかしクズでなければ、真の小説家にはなれないのである。

「──待って、めぐみ! 馬鹿な真似はやめて! お願い、私の話を聞いてえ!」


 遮るものが何一つなくどこまでも青く澄み渡った晴天の下、伝統ある女学園の純白の制服に身を包んだ二人の少女の髪やスカートの裾をはためかす、嵐を予感させる初夏の風。

 それは古びた校舎の屋上の鉄柵に背をもたれてたたずんでいる私の目の前の少女を、今にも吹き飛ばさんとするかのような勢いであった。


 こちらを静かに見つめている、まるで魂を失った人形そのままの、無表情の瞳。


「大嫌いなんて言ったのは、嘘よ! 私、あなたのことが好き。心の底から愛しているわ。だから戻ってきて! 私のことを許してちょうだい!」

 これ以上近づけば、今にも彼女が柵を乗り越えてしまうのではないかと思えて、二、三メートルほどの距離を残したまま、いつもの孤高の仮面をかなぐり捨てて必死に懇願する。

 まさにその刹那。これまで硬く結ばれていた少女の桃花の唇が、ゆっくりとほころんでいった。

「うふふふふ。何をそんなに慌てているの、かえで。許すも許さないもないわ。だって私もあなたのことを、心から愛しているのですもの」

 そのいつもと変わらぬ穏やかな口調に、張りつめていた緊張の糸が切れるの感じた。

「そ、それじゃ、私を残して行ってしまったりはしないんだね? また私の許に戻ってきてくれるんだね⁉」


 そのとき少女が、微笑んだ。

 まさしく純真無垢なる、女神ミューズのごとく。


「それは駄目。だってこれは『儀式』なのだから。──私たちの永遠の愛のためのね」


 そう言うやくるりと反転し、鉄柵へと飛びつき身を乗り出す少女。

「なっ⁉ 恵、待って!」


「さようなら、楓。私の唯一の魂の片割れ。『物語ユメの世界』で待っているわ」


 それが彼女が私に残した、最後の言葉だった。

 雪のように白い制服をひらめかせ青空へと身を躍らせていく、華奢な肢体。


「いやああああああああああああああっ! 恵────っ!」


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


 自分の叫び声で目を覚ませば、そこは見慣れた寝室のベッドの上であった。


 開けっぱなしにしていた窓から注ぎ込んでくる、明け方の涼やかな初夏の風が、寝汗まみれのほてった身体に心地よかった。


「……また、この夢か」


 そう。なぜだか私はこのところ決まって、同じ夢ばかりを見ていたのだ。

 これもあんな『偽りの小説』を、書いてしまったせいなのだろうか。


 だったら、その甲斐があったというものだ。

 この悪夢こそが、もうすぐ私の願いが叶うことの証しに違いない。


「儀式……か」


 約束の日は、近い。

 今度こそ私は、彼女のことを取り戻してみせる。


 もはや夢の中でしか逢えない、唯一の親友を。


 かつて私が殺してしまった、最愛の女神ミューズを。




  一、虚像きょぞう



 まばゆいスポットライトがステージの中央を照らし出したとたん、ざわめきが静まり、都心の一等地にそびえ立つホテルの広大なる宴会場のすべての視線が、一斉に集中する。


 そこにはあたかも女王のごとく毅然と眼下を睥睨している、漆黒のイブニングドレスにほっそりとした肢体を包み込んだ女性がたたずんでいた。


 とてももうじき三十代半ばにもなろうしているとは思えない、若々しく張りのある白磁の肌に、頬の辺りで切りそろえられたつやめく黒髪に縁取られた端整な小顔の中で怜悧に煌めいている、黒曜石の瞳。


 現在盛況を極めているこのパーティの主役であり、当代きっての人気小説家、まつかえで


 そう。今夜は()()最新作『夢魔むま告白レペンテンス』のベストセラーを祝しての、出版社とファンクラブ合同主催の祝賀会が盛大に催されていたのであった。

 当然会場を埋め尽くしている熱い視線も感嘆の言葉もすべて、ただひたすら私を褒め称え崇め奉るものばかりである。

 それに応えるようにしてわずかに唇に微笑みを浮かべるだけで、歓喜のどよめきに包まれていく、我が従順なる信奉者たち。


「ファンクラブ並びに出版関係者の皆様、今宵はこのような光栄なる席を設けていただき、心より御礼申し上げます。こうして私の拙い作品が世間様に認められるのも、皆様方の御支持のお陰でございます。これからも今まで以上に精進し、皆様の御期待に必ずや応えていく所存であります」


 そう挨拶をし終えるや、会場は再び怒濤の歓声に満ちあふれていく。

 そんな中で無粋なカメラフラッシュと共にマイクを突き付けてきたのは、三流大衆週刊誌の記者の面々であった。

「松戸先生、最新作『夢魔むま告白レペンテンス』のベストセラー化、誠におめでとうございます!」

()()()()()()()内容に、感服いたしました!」

「さすがは当代一の、人気小説家!」

「今し方のお話によれば、これからも読者の期待に応えていきたいということでしたが、すでに次回作の構想なぞもございますのでしょうか?」

 人の言葉尻を捉えるようにして、まさしく飢えたハイエナのごとく貪欲な探りを入れてくるのは、俗悪極まるゴシップ記事で有名な『女性ゼクス』誌のベテラン記者であった。

「ええ、もちろん。読者の皆様は常に、我々作家の『次の作品』をお待ちになっておられるのですから」


「──当然それも、『いじめ』を題材モチーフにしているわけですよね?」


 いかにも我が意を得たりといった感じで、にんまりとほくそ笑む女性記者。

 ……またか。どうしてこの手の輩の質問ときたら、毎度代わり映えしないのだろうか。

 せっかくの晴れやかなるパーティの感慨が一瞬にして吹き飛んでしまい、私は胸中でうんざりとため息をついた。

「しかし驚きました、先生の新作がまさか、御自身の実体験を基にしているなんて」

「何とそれも我が国指折りの名門女子校の中等部を舞台にして、赤裸々ないじめの実態の数々を明らかにするという、センセーショナルな内容だし」

「しかもそのいじめのターゲットにされたのが、先生の当時の唯一の親友であられた生徒さんとは」

「クラスの全員がいじめ側に回る中で、先生ただお一人だけが最後まで彼女の味方であり続けたということもあって、被害者側の描写の何とも生々しいことよ!」

「そして最後の校舎の屋上での飛び降りシーンの衝撃的でありながらも、どこか幻想的で透明感あふれる美しさ!」

「何よりもかつての親友を主人公にしながらも、いつも通りの一切容赦のない冷徹かつリアルないじめ描写の数々!」

「いやあ、これぞいじめ小説家松戸楓の原点にして、集大成とも申せましょう!」

 ギラギラとした欲望に満ちた、目、目、目。銃口のように突き付けられる、マイク、マイク、マイク。

 そしていかにもほめ殺しそのままの言葉の数々が鋭い刃となって切り刻んできて、私はどんどんと苛つきを高まらせていく。

「……いくら実体験を基にしているとは言っても、あくまでも小説フィクション小説フィクションに過ぎませんので、何もかも事実であるかのように受け取られるのは、どうぞ御容赦お願いします」

 怒りをにじませながらもどうにかそれだけ言い返すものの、少しも堪えずにますますボルテージをあげていくばかりの記者たち。

「何をおっしゃられることやら。現実の事件を題材にしながらも更にその深層に切り込み、『隠された真実』すら暴き出していくことこそが、先生の作品ならではの御家芸ではありませんか!」

「何よりも、その研ぎ澄まされた怜悧な筆致ととことんまで事実に肉薄していくリアリズムによって、今や先生の作品のほうが現実よりもよほど現実らしいと讃えられているくらいですし」

「もはや先生の作品は、新しい現実セカイすら生み出していると言っても過言ではないでしょう!」

 そんな過大評価と呼ぶには度を越した大絶賛に、むしろこちらの気分が萎えていくのに反比例するかのように、たちまち万雷の拍手に包み込まれていくパーティ会場。

 ──そこでまるではかったかのように突き付けられる、冷や水のごとき言葉。


「そのように先生のリアル過ぎる作品が好評を博している一方で、いじめ小説こそが現在の教育現場におけるいじめや不登校やスクールカースト制等の、いびつ極まる諸問題を助長していると言われていることを、いじめ小説の第一人者としてどう思われますか?」


 思わず目を向ければ、そこにはくだんの女性誌記者が、下卑た笑みを浮かべていた。

「たとえば先生の今回の作品の影響で、母校の女学園で当時同様のいじめが発生してしまい、現在同校に通われておられるという先生の娘さんが、万一いじめに遭われた場合、今作と同じく、それを題材にした作品を創られることがおできになられるのでしょうか?」

 今や水を打ったように静まり返ってしまっている、大宴会場。

 ふん、いい度胸よね。どうせこの会場に娘が来ていることを知っての上での質問でしょうよ。これは一つ、きついお灸をすえてやらなければならないようね。


「……あなたは先ほどから、いやしくも小説家の端くれであるこの私にむかって、何を失礼極まることばかりお聞きになられておられるわけなのですか?」


 表情を一切消し去り押し殺した声で問いかけるや、さすがに調子に乗り過ぎたことに気づいたのか、顔色を変え慌てふためていて弁明し始める女性記者。

「こ、これは少々言葉が過ぎました! いや、冗談ですよ、冗談。いくら松戸先生といえども、まさか御自身の娘さんまで、いじめ小説の題材になされるわけが──」

「だから、それが私のことをなめていると言っているのよ」

「──へ?」


「私たちの作品のせいで、世間のいじめの風潮が助長されているですって? むしろ光栄なことじゃないの。何せ己の拙い創作のたまものに過ぎない小説ごときが、読者の皆様にそれほどまでに深い感銘を与えて、現実世界にまで影響を及ぼし得ているということですからね。いやあ、これぞ小説家冥利につきるというものよ。たとえそのせいで自分の娘がいじめに遭おうとも、いっそ本望だわ。もちろんそのすべてをあからさまにして、新しい作品だって創りあげてみせましょう。これまで散々他人の不幸を題材にしていじめ小説を書いてきたのよ、どうして身内の不幸だけを作品にするのをためらう必要があるの? いい、間違わないでちょうだい。確かにいじめ小説なんかを書いて平気な顔をしている者なぞ、人間のクズと言えるでしょう。だけど元々小説を書くという行為自体が、何もいじめ小説に限らず、一般的なミステリィや不倫小説等を始めとしてそのほとんどすべてが、人様の不幸を己の名声や金銭を得るために食い物にしているようなものなのよ。すなわち他人の不幸はもとより、自分自身や愛する身内の傷や恥や罪すらも小説にして世に問うていくことこそが、小説家ならではの業なの。言わば小説家とはすべて卑しいクズ人間なのであり、むしろ自分自身をクズだと自覚していなれば、真の小説家にはなれないのよ。つまり人道主義ヒューマニズムや聖人君子なぞを気取る輩なぞは、単なるペテン師に過ぎないわけで、そういう奴らに限って、愛だの友情だのといった幻想ばかりを高らかに謳いあげる作品を書いて、人々をあざむき続けているけど、永遠の愛だの友情だのといった奇麗事なぞは、現実にはけして存在なんかしないわ。むしろ真実というものは、憎しみや裏切りの中にこそ存在するのよ。今回の私の作品を実際に読んでいただければわかると思うけど、私はあえてかつての唯一の親友を主人公であるいじめの被害者のモデルにすることによって、まさに彼女の清らかさや美しさや可愛らしさを際立たせていきながら、当時どんなに私が彼女のことを愛していたかを描き切ってみせたわけなの。──なぜなら、私は小説家なのだから。真の小説家にはお奇麗な思い出も幻想も必要ない。己の傷や恥や罪こそを包み隠さず書き上げることによって、作品として世の中にさらけ出すことだけが使命なのよ。私の小説が間違っているかどうかを判断するのは、法律でも道徳でも倫理でもなく、ただ読者の皆様が受け容れてくれるか否かだけ。確かに中にはあなたがおっしゃったような、批判的な意見もあるでしょう。しかし世間の圧倒的大多数の皆様は、今も私の作品を支持してくださっているのです。それこそがすべてであり、唯一絶対の評価なのです。お疑いでしたら、ここにお集まりの皆様にお聞きになられてはいかがですか?」


 その言葉に応えるようにして、万雷の拍手と大歓声が会場中に響き渡っていく。

 ばつの悪そうな表情となり、言葉をなくしてしまう記者たち。

「どうやらおわかりいただけたようですね。それでは時間も押してきましたことだし、インタビューのほうはこの辺で終了させていただきます」

 そう言って踵を返し壇上から下りようとしたとたん、慌てて声をかけてくる女性記者。


「ちょ、ちょっと、お待ちください! 最後に一つだけお願いいたします。『夢魔むま告白レペンテンス』の被害者の少女──つまりかつての親友の生徒さんは、先生にとっては、いったいどのような存在であられたのですか?」


 その瞬間。私の心の奥底に、にぶい痛みがはしった。

 それを悟らせないようにして、努めてそっけない口調で答えを返す。


「彼女は、私にとって言わば『女神』そのものの、神聖なる存在だったわ」


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


「──いやはや、今日は本当にお疲れ様でした、先生」


 パーティがつつがなく終了したあとで、ホテルの一室に設けられた控え室に戻ってきた私を出迎えてくれたのは、にこやかなる笑顔であった。


 華奢なれど女性らしいおうとつも目立つ肢体を包み込む、淡い萌葱色のパンツスーツに涼しげなオフホワイトの開襟シャツ。ショートカットの茶髪に縁取られたすっきりと整った小顔の縁なし眼鏡の奥で、理知的ながらもどこかいたずらっぽく煌めいている薄茶色の瞳。

 年のころは私より五、六歳ほど下の二十代後半で、いまだ大学出立ての女教師のような知的な初々しさを保っているものの、若いからといってけして侮れないしたたかな雰囲気すらもかもし出していた。


 天原あまはらひろみ。大手出版社()まちがわ書房一般文芸編集部期待のホープにして、私(まつ)かえでの現担当編集者。


 仕事上の関係とはいえすでに三年目に入り、最近では家族ぐるみのつき合いもしており、今やすっかり気心の知れた仲となっていた。

「ひろみさんこそ、今日はいろいろと面倒をかけたわね。おかげさまで予想以上に盛況なパーティになったわ。さすがは業界きっての仕切り屋編集者殿ね」

「いえいえ、これもひとえに、先生御自身の人気と人徳のたまものですよ。それにしても先ほどのインタビューの内容ときたら、少々目に余るものがありましたわね。これはきちんと各社の責任者にクレームを入れておかないと」

 冷徹な業界のフィクサーの顔となって、不穏なことをつぶやき始める編集者。

 人当たりのよさそうな外見に反して、何とも底知れないところが油断ならなかった。

「ふん、気にする必要はないわ。あれくらい別に構わないわよ。まったく、たかが俗悪三流週刊誌の記者風情が、私の崇高なる作品を、他の下世話なだけの平凡なるいじめ作品なんかと、十把一からげにしたりして。もう少し読解能力を磨いたほうがいいんじゃないの?」

「御もっともでございます。いやあ、何せ先生のお作は今や文壇においては、純文学にカテゴライズなされている方もおられるくらいですからね!」

 何だかよくわからないおだて方をする編集者。一応は中間小説家の一員としては複雑な心境であった。

「純文学なんかどうでもいいのよ。むしろそういうカテゴライズ自体が時代錯誤じゃないの? そんなことよりも、何か飲み物をちょうだい。インタビューのあともずっと立ちっぱなしで、ファンクラブの会長や出版社のお偉いさんたちと飲まず食わずで対談し続けていたんだから、もうのどがカラカラよ!」

「……」

「──おわっ⁉」

 そのときいきなり無言で、目の前に烏龍茶入りのグラスを差し出してくれたのは、何かと気配り上手な女性編集さんではなかった。


「も、紅葉もみじ? あなた、いたの⁉」


 私の驚愕の言葉にも何ら反応を見せることなく、グラスを手渡すやここが定位置とばかりに壁際にひっそりとたたずみ、またたく間に存在感を消し去る、十三、四歳ほどの少女。

 控え室と言ってもごく普通のシングルサイズなんだから、一目で部屋中が見渡せるはずのに、今の今まで全然目に入らなかったなんて。もしやこの子の前世は忍者だったりして。

 ……まったく。せっかくこの私譲りの、長い黒絹の髪の毛と黒曜石の瞳に人形みたいな端整な顔つきをしているというのに、いつも生気のない無表情ばかりをして、親の私に対してもほとんど口をきこうともしないんだから。そりゃあこんな狭い部屋の中に一緒にいながら、気がつかないのも無理はないわ。

 うん? それにしても久しぶりにまじまじと見てみると、何だか以前よりも増して痩せ細ってしまっているんじゃないの?

 いやいや、別にあなたにはダイエットは必要ないでしょうが。むしろもう少し肉をつけなさいよ。成長期にいい加減なことをしていると、あとで泣きを見ることになるわよ? 「この控えめな胸は母親譲りです」なんて、ふざけた言い訳は許さないからね!

 そんな小柄で華奢過ぎる肢体を包み込んでいるのは、今朝方の悪夢の中で見たのと同じく、現在紅葉が通っている名門女学園中等部において数十年来の伝統を誇る、純白のワンピース型の夏制服であった。


 そう。かつては私やめぐみも身に着けていた、あの夏の日の屋上での記憶そのままの。


「……先生、何を紅葉ちゃんのことを、そんなに熱い視線で見つめておられるのですか?」

「──え? あっ、いえ。ちょっとばかり、考え事をしていただけよ」

 怪訝そうに声をかけてきた編集者に、慌てふためいて言い訳をする小説家。

「そういえばあの女性インタビュアーときたら、紅葉ちゃんにも失礼なことを言ってましたよね。事もあろうに、もしも先生の娘さんがいじめに遭ったらどうするとか何とか」

 気のせいかその瞬間、紅葉の肩がわずかに震えたようにも見えた。

「言いたいやつには言わせておけばいいのよ。あんな与太話、真に受けるほうが馬鹿を見るだけだわ」

「あはははは、それもそうですよね。いじめ小説家の娘さんがいじめに遭ってしまったりしたら、しゃれにもなりませんからね」

 いかにも御もっともと言わんばかりに首肯する、いじめ小説家の担当編集者。

 いや。そういう言い方も、何だか癇に障るんですけど。

 ……ほら。あの氷の姫君(アイス・ドール)とも呼ばれている紅葉が、珍しく顔を蒼ざめているじゃないの。

「わわっ、これは失言でした。ごめんね、紅葉ちゃん。気を悪くしないでね」

「……」

 慌てて謝りだすひろみ嬢に対して、無言でふるふるとかぶりを左右に振る少女。


 いつもと何ら代わり映えもしない、日常の一コマ。


 ──しかし、そんな穏やかな空間に身を置ける日々も、残りわずかでしかなかったのだ。

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