猫
筆者の家では、猫を飼っている。
現在は8kgもある、ふてぶてしい猫だ。弟と呼んでいる。
その馴れ初めは、今でも鮮明に覚えている。
或る朝の出来事だった。
部屋のドアが開く音、人の足音。
寝ていた私は目を覚まし、歩み寄る人物が母であることを知る。
枕元で足を止めると母は上着のポケットから子猫を出し、私の枕の上に置いた。
「ニー。」
その小さな子猫は、挨拶代わりに私の心を砕いた。
なんと小さいのであろう。なんと可愛らしい声であろう。
片手に乗ってしまうくらい小さなその毛玉を、私は持ち上げて頬に当てた。
頬をそよぐ柔らかな毛は、確かに感じる体温は、この子の愛おしい命そのものだ。
成猫なら雄はωがついているが、子猫では性別がどちらかは分かり辛い。
某猫動画にあやかって、その子の名前はエリザベス、通称エリーとなった。
実は雄だったと判明するのは、エリーがある程度育ってからのことであった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
何でもよく食べ、よく遊ぶエリーはすくすくと育っていった。
よく眠り、と書かないのは、子供の頃は睡眠を拒絶していたためである。
恐らく家に来る前に、眠るように死んでいく猫を見ていたのであろう。
頭をガックンガックンさせながら踏ん張り、可愛い雄叫びを上げ死を拒んでいた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
使い古した靴下の爪先を、丸く切り取る。
エリーの鼻先と目がギリギリで通るサイズだ。
そして両手、両足を通す穴を切り取る。
これは罰だ。
持って生まれた性分なのか、エリーは暴れん坊に育ってしまった。
今でもその爪が残した傷痕が三筋、左の腕に刻まれている。
子猫の首筋を摘み上げ、靴下で作った忍者スーツに頭を押し込む。
エリーは力の限り両手両足を踏ん張り、その罰を拒む。
だが私に容赦するつもりは無い。
逆さまにして靴下と猫を振り、振るごとに猫を詰めてゆく。
猫の悲鳴が響いた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
靴下を着た猫は、滑稽であった。
携帯を手に取り、ヘラヘラと笑いながら幾度もパシャった。
遠い目をして微動だにしなかった彼は、恐らく今も私を怨んでいることだろう。