ヤンとリョウタの酒場での回想
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
ヤンは世界樹との繋がりでツェーリの居場所がわかる。そして、師匠も血の繋がりがテューンとマテの位置がわかる。三人に危険が迫っているような兆候はまだない。
ジークリットとの接触は可能性に過ぎないが、俺たちは先を急いだ。
人数分の馬はレナート卿が迅速に用意してくれた。いや、彼はこうなることを予期していたのかもしれない。国に絶対の忠誠を誓っている反面、義賊ジークリットを評価している節がある彼は底が見えない。いや、彼が目指しているところも立ち位置も明白だ。だが、それだけで彼という人物を計ろうとすれば痛い目に遭う。そう思わせる腹黒さがあった。
ちらりと馬にまたがっているヤンを見た。ぶっ倒れていた割にはピンピンしている。今彼と顔を合わせるのは気まずい。なぜなら、葬儀の席で彼に言われたことが未だに俺の心に引っかかっているからだ。
「やあ、隣いいですか?」
「全然いいよ」
ヤンはその時にはだいぶ出来上がっていた。気の良さそうな顔をさらにだらしなくさせ、変な男に襲われそうなほど無防備だった、男だけど。
そういえば、ツェーリが悪目立ちしているので、ヤンの印象は優男のエルフというだけでこれといったものがない。もちろん、彼だって活躍していたし、そう思うこと自体が失礼にあたるのはわかっている。
「君も異世界から来たんですよね? トモエと一緒に」
「半年前にね。エルドリッチは巻き込まれたんじゃないかって言ってたけどよくわからない」
「世界樹の知識にありました。半年前、神々を召喚するためにこの世界に召喚術を扱える異世界人が大量に転移させられてきたと。僕たちには話し合う仲間がいましたから少しの動揺ですみました。あるいは、鬱積していたからかも」
「鬱積……?」
「僕たちは長い間、同胞のもとに帰るため、魔力の渦の中を彷徨ってきました。自分たちの世界に戻れず、何もない空間をひたすら漂い続ける……再会を果たすことだけが希望でした。そんな中、僕やツェーリが生まれてきて初めて外から、世界樹に光が差し込んだんです。あの時のことは今でも覚えてます。みな戸惑い、恐れる中、ツェーリの目はきらきらと輝いていました。未知に対する憧れだとすぐにわかりました。それまでのツェーリは世界樹の担い手になり、自分の力で同胞たちを見つけることだけが生き甲斐でした。あんな顔をしたのは初めてでした。だから、僕はツェーリの好きにさせようとおもいました。担い手になるよりも幸せなことがあるなら……彼女に幸せになってほしい」
きっと、ヤンはツェーリのことが好きなのだろう。恋愛に疎い俺でもわかるほどにその声には熱がこもっていた。酒の勢いで喋ってしまったことかもしれないけど、聞いてしまった以上俺はヤンを応援したくなった。
瞼が重くなってきたみたいだ。ヤンはうとうととテーブルに突っ伏して、すぐさま起き上がった。
「聞きたいことがあったんです」
「なんでもどうぞ」
「リョウタはトモエとどういう関係なんですか?」
いきなり踏み込んだ質問をされた。動揺をうまく隠せているだろうか。篠塚とどういう関係なのかってそんなこと考えたこともなかった。
「恋人とか、そういうんじゃないよ。転移する前の関係も微妙なもんだったし。だけど、何かがあったら篠塚を優先して守りたいぐらいには思ってる」
「……だったら、なんでお互い一度も顔を合わせようとしないんですか?」
俺がその言葉に驚いたのは、それが図星だったからだろう。篠塚を守るといっておいて、俺は篠塚に自分から触れようとしたことは一度もないのだから。




