龍牙『稲妻』
――――――――マテ――――――――
早朝に出発して間もなく村に到着する。長い間常駐していた村で、離れてから一週間ぐらいしか経っていないはずなのに懐かしさを感じる。
本当に常識じゃ考えられないことが立て続けに起こったんだな、としみじみと思う。
この村は私たちが主な収入源にしていたダンジョンから近い地点にある。ダンジョンも村も辺鄙でこれといった特徴もないけど、競合がいないためそれなりに安定した収入はあった。
村側も魔物の脅威から守ってくれる冒険者が村にいてくれるのは心強いのだろう。快く迎え入れてくれた。今では私たちの家まで建ってる。
でも、そんな愛着すらある村に私たちはお別れを言いにきたのだ。
私は別にこのまま村に戻ってもよかった。だけど、異世界から召喚された神や、存在すら疑われていた魔族、色んなことが重なってみんなは王都に残ることを選択した。
私は自分の本当の人生がイヤでイヤで仕方がなくて抜け出してきた。だから、あそこに戻らなくていいならなんでもよかった。最初は冒険者になるつもりもなかった。目的もなく彷徨っているとテューンに声をかけられたし、私には断る理由がなかった。そんな薄い動機だったけど、私はみんなを仲間だと思ってる。みんなといられるならそれでいい。
私が思いを巡らせていると、村長の姿が目に入った。
「ご心配おかけしました、村長」
村長の顔を見るや否や挨拶をするテューン。だけど、村長の様子はおかしかった。何か慌てたような感じで、敵意がないことだけは確かだった。
「ご無事でなによりです。だけど、今は都合が悪い。申し訳ないが日を改めてくれませんか?」
テューンは訝しげな顔をした。
この村の周りには私たちが通い詰めた例のダンジョンぐらいしかない。日を改めるなんて簡単じゃないのだ。それは村長も分かってるはず。なのに、なぜそんなことを言うのか。答えはすぐに導き出された。
「おいおいおいおいおいおい! そんちょー、そいつらから離れてくんねーか?あぶねーぞ?」
少し離れた二階建ての屋根にそいつはいた。上腕二頭筋を強調するポーズをとって石像のように微動だにしない。何がしたいのか分からなかった。ただ一つ明らかなことがある。テューンの警戒が強まった。つまり、アレが異世界人であるということ。
「俺の名前かい? オレはなぁ! ロォールプレェェェィをこよなく愛ーすーるオトコォ!」
ここで背筋を見せつけるポーズにシフトする。筋骨隆々である。浅黒く光沢のある肌がそれを際立たせていた。
「龍牙『稲妻』様とは……ちょっと待って、言い方変えるわ。スゥー……ハァ! フン! リュウガッ!イ・ナ・ズ・マァ! サマとは、オレノコトッダッ! ジャジャーン! フン!」
鼻息がここまで飛んできそう。
「気をつけろ、二人とも!冗談みたいなやつだが、エルドリッチと似た気配を感じる!」
私とツェーリはその言葉に驚いて咄嗟に身構えた。緊張感のない自己紹介が嘘のような張り詰めた空気が流れる。それはリュウガと名乗った男も同じだった。
「……エルドリッチだぁ? まさかその名をここで耳にするとはなぁ!」
「……知ってるのか?」
「半年前からぷっつり見なくなったから、引退したもんだとばっか思ってたがよぉ……やつはその時代のトッププレイヤーでな、俺がどんだけ対人戦上手くなろうが、ネットの懐古厨どもはすぐにエルドリッチの名を出しやがる。鬱陶しいにも程があるってもんさぁ! だからよ、この世界にエルドリッチがいるってんなら、どっちがつえーか白黒はっきりさせたいってーもんだろ。まぁ、それはまた今度でいい」
トッププレイヤー? 懐古厨? ネット?
よくわからない単語の羅列を頭の中で整理する間もなく、リュウガが吼えた。
「エルフは置いといてさ。吸血鬼お二人さんがこんな辺境で何しようとしてるんですかねえ!?」
リュウガの闘気が凄まじいプレッシャーとなってのし掛かる。そして、私たちの釈明を聞かず、敵は襲いかかってきた。




