北東へ
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
「俺が直々に向かったほうが俺に利があるし、俺の秘密を晒すようなことしなくても済むわけだ。だけど、そうしなかった。それが俺のオタクらに寄せる信頼と受け取ってほしいとこだな。正直、ゼフの件がどう転ぶかわからねえけどよ。もしかしたら、やつらが関わったせいで余計にこじれるかもしれん」
「つまり、今回はエルドリッチのお願い聞けってことか?」
ゼフが皮肉げに言う。二日酔いで頭を押さえながらだとかなり機嫌が悪そうに見える。
「今回は私からの依頼でもある」
そう口にしたのはレナート卿だった。
「戴冠式がある以上、私とエルドリッチが王都を離れるわけにはいかん。それに貴族どもへの牽制もある。いくら神の血をもつ正式な後継者だったとしても、元々ウルリカ様がこの王宮で危うい立場にあったのは、欲に目がくらんだ貴族連中と口車に乗せられた第二王子の奸計によるものだった。そこに付け込まれた結果……その後のことは君たちのほうがよく知ってることだ」
ウルリカ王女以外の王族全員が異世界の神の生贄に捧げられてしまったわけだ。
「つまり、直接的に関与してなくてもウルリカを敵視している貴族がまだいる可能性があるということか」
「まあ、そのあたりは好きに受け取ってくれて構わん。我々にも事情があるということだけ理解してもらえればな。国内であれば君たちが自由に動けるように私の印をもたせよう。それがあれば辺境の兵士でも君たちを無下に扱うことはない」
「その言い方、まるで国外に出る可能性があることを示唆しているようだな」
「確実なことは言えん。だが、目撃証言などを考慮するとジークリットの現在の活動拠点は王都から北東付近にあると推測される。ゲルシュとの国境をまたぐ可能性もある」
「不味いな」
師匠の呟きにレナート卿は眉根を寄せた。
「不味いとは?」
「私が弟子と出会ったのは北東の森だ。テューンとマテがツェーリを連れてお世話になってるという村に向かってる」
「ジークリットの活動圏内にいるということか!」
「あ? それのどこがまずいっつーんだ?」
レナート卿は察したようだが、エルドリッチの頭の上にはハテナが浮かんでた。まあ、俺も師匠が言わんとしていることを分かってないんだけど。
「エルドリッチには初めて会った者の種族がわかる目がある。それはジークリットの味方をしている者には言えることだろう?」
「あ、なるほど。ツェーリはともかく、マテとテューンは……」
そこで俺は言葉を止めた。レナート卿に俺たちを吸血鬼だと俺の口から明かすわけにはいかなかった。だけど、それは杞憂に終わったみたいだ。そもそも、師匠の言葉の意図を理解した時点でその可能性はあった。
「君たちが吸血鬼だということは聞き及んでいる。事態は君たちにとっても芳しい方向に進んでいないようだ。欲しいものがあれば早急に手配しよう」
師匠が立ち上がったのを見て、俺と篠塚も立ち上がった。ゼフも遅れて席を立つ。
「ラフィカ、おめえさんもついていっていいぞ」
「……いいんですか?」
エルドリッチの言葉に今まで口を開かなかったラフィカが驚いた顔を見せた。
「場合によっちゃ長い間王都に戻ってこれなくなるかもしれん。俺からしちゃあ、まだまだ未熟だけどよ。仲間といるのが一番だろ?」
「……ありがとうございます!」
ラフィカは深々と頭を下げた。エルドリッチはむちゃくちゃな奴だけどラフィカはそれなりに感謝しているみたいだった。一体どんな洗脳教育を受けたというんだろう。
「ゼフ、ジークリットと因縁があるのは察するが、私は生け捕りを希望する。ただの義賊ならまだしも、彼女は魔族だ。この国の未来にかかわる問題なのは分かってくれるな?」
「……それは相手の出方次第です、レナート卿。みっともない言い訳を並べ立てるようならその場で切り捨てます。悪いがそこは譲歩できません」
ゼフはレナート卿に背を向け、これ以上議論するつもりはないと真っ先に部屋を出た。
「弟子がすまない、レナート卿」
「なに、ゼフの言う通りくだらない人物なら生かしておく価値もない。だが、私が刃を交えた相手はそうではない。妙な話だが、ジークリットを信じるしかあるまい」




