それぞれの事情
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
「へえ、フリージアからしたら退屈そうだけど」
「それがねー、あの王女様、人をその気にさせるのがうまいんだよね!ソフィアさえよければ王宮勤めもいいかもしれないね」
宮廷魔術師になることにかなり前向きな姿勢だ。自国が退屈だからと家を飛び出したはずなのに、そこまでに値する魅力的な提案をされたようだ。
ちなみに、ソフィアは篠塚に酒を片手に絡んでいる。篠塚は相変わらず困惑を顔に浮かべていたが、嫌そうにしているわけではなかった。
「ドロテアはこの世界の神に接触した可能性が非常に高いんだよ。あの昔話が本当ならね。牢屋に閉じ込めてから一言も口をきかないけど、彼女がこの世界の謎を解き明かす鍵を握ってる。最初の王、ドグラスにしてもそう。王女様は私にこの国にあるありとあらゆる書物を閲覧できる権限を与えると約束してくださった。本当はオーステアと冒険にでるのも悪くないな、って思ってるけど、こっちも重要なことだからね!」
フリージアは続けた。
「今、私たちは大きな渦の中にいる。サージェスだけじゃない。あの空中を漂う世界樹も、今は無害でも将来的には敵になりえる。私たちのあずかり知らぬところで、他の異世界の神々が良からぬことを企てているかもしれない。未曾有の出来事で自分の立ち位置がわからずにいる中で、自分の向かわなければならない先を理解した時、築き上げた全てを裏切らないといけないことだってありえる話だよ。それはリョウタにも言えることだよ」
「……俺にも?」
「リョウタはオーステアの弟子だけど、オーステアとはまた違う異世界の住人だからね。二人の事情は異なるよね」
確かに。そのことについて深く考えたことはなかった。だけど、同時に吸血鬼になる前に言われた師匠の言葉も頭をよぎった。
『好きなように生きていけばいい』
ジレンマに苦しまないように慮ってくれたのだろうか。思えば、師匠は一度も俺たちに何かを強要するようなことは言っていない。悪い言い方をすれば、俺たちは師匠の眷属で、隷従しているといってもいい。それなのに、全部俺たちの自由意志に任せてくれている。
「まー、この話をしたのは他にも理由があるんだよね」
「というと?」
「エルドリッチからオーステアとリョウタ、そしてトモエを呼んでくるように頼まれたんだよね」
俺は少しだけ息を止めた。
エルドリッチが名指しで俺とトモエを呼び出した理由には見当がついている。そもそも、エルドリッチが俺たちに用がある場合、自分で言うのもなんだけど師匠に声をかければカモの親子みたいに勝手についてくるのだ。それはエルドリッチも分かってるはず。なのに、俺とトモエを指定した。どうしても俺たちがいる必要があるからだ。
エルドリッチは日本のことを、地球のことを知っている。
だけど、明らかにあんな能力は地球上には存在しないし、エルドリッチの容姿は日本人離れしていた。俺はその疑問にある推論を立てている。それが正解かどうか、いよいよ答え合わせの瞬間が訪れたというわけだ。
「エルドリッチもまた、自分の立ち位置を探っている一人だからね」




