王宮にて
ーーーーーーーーラフィカーーーーーーーー
日が落ちて間もない王宮の一角で、珍しく黄昏れている男の背中を目にする。彼にはまったく似合わない。ふてぶてしく、そして、しぶとい。それでいてズル賢い。味方も多いけど、敵も同じぐらいいそうな男。
俺から見たエルドリッチはそういう男だ。
人が自分の顔を撫でたり触ったりするのは、やましいことがあったり嫌なことがあったりする時の無自覚のサインだとリョウタから聞いたことがある。
今まさにエルドリッチは自分の顔に触れていた。
「おう、ご苦労さん」
「なにかあったんですか?」
「……おめえに気取られるたぁ、俺のメッキも剥がれちまったなぁ。それとも、おめえさんが成長したか?」
「まだまだですよ。一週間も経ってないじゃないですか。あなたがそうなるなんてよっぽどのことがあったんですか?」
沈黙するエルドリッチは言葉を選んでいるのか、眉間に皺を寄せて唇をきゅっと結んだ。
正直、俺はエルドリッチが怖い。いつ怒り出すのか、ビクビクしながら過ごしている。彼は笑った時の顔以外全部いかめしいし、笑った時も底知れぬ恐ろしさを感じる時がある。
精鋭部隊に所属していた頃の仲間にもこんな人はいなかった。
だけど、決して怒らない。俺が鈍臭いことをしても、ヘマをやらかしても、エルドリッチは険しい顔こそするが、絶対に怒鳴らなかった。ゼフだってそれは同じだけど、加えてエルドリッチは俺をあらゆるところへ連れ回した。
この四日間寝る時でさえもほとんどエルドリッチと一緒にいたといっても過言じゃない。今日ウルリカ王女にエルドリッチのことで軽い尋問を受けた時以外は。
エルドリッチのことは嫌いじゃないけど本当に苦痛だった。精鋭部隊や冒険者でも一人になれる時間は存分にあった。彼は他人のパーソナルスペースを弁えずに、自分の意見を押し通す厄介な人だ。
「次やつらがここに来たら……俺がどんな存在なのか明かさなきゃならなくなった。まったく……ジークリット、迷惑な時に動きを見せたもんだ。いや、こんな時だからこそか?」
エルドリッチの言うやつらが一体誰なのか、すぐに見当がついた。俺のパーティーの面々だ。彼はひた隠しにしていた自分の正体を、あるいは敵になりえるかもしれない存在に教えなければならないほど必要に迫られ、打ちあけようとしているのだ。
俺もその秘密の答えを知りたくて堪らなかった。




