覚醒(テューン)
そこは雲と同じ高さにある山の頂だった。空は七色に彩られていて、とてもこの世の光景とは思えなかった。そう、まるで絵画の世界に迷い込んでしまったのかと錯覚する美しさ。そして、下には見たこともない荒れた大地が広がっている。その対比があの空の魅力をさらに引き立てていた。
「ここは……」
「私が冒険者として世界を渡り歩いて、もっとも美しいと思った光景だ」
傍らにはオーステア様がいた。彼女は懐かしむような表情を浮かべて天を仰いでいる。私は悟った。ここが、ゼフやリョウタが言っていたオーステア様の記憶の中であると。
「敵は千年もの間この山を支配下に置く巨大な怪鳥だった。やつのせいでこのあたり一帯の土地は荒れ果て、生き物が住める環境ではなくなっていった。そして、全てを喰らい尽くし、その鳥は新たな餌を求めて人里を襲った。もはや共存の道は絶たれた」
オーステア様は続けた。
「この光景はその鳥を殺した時、やつの体が燃え上がり、空中で四散したために出来上がったものだ。七色に輝く空はやつの断末魔そのものだ。だから、もう二度とお目にかかることはない。君はどう感じる?」
「確かに得難いものがある。ここは特等席だ。どこよりもあの空が鮮やかに見える場所なんだろうな。だけど、私はここに辿り着くまでの道を知らない。どんなに尊くても、私にとっての特別ではない」
「冒険者というのはそういうものだ。私が言うべきことも、君にはすでに伝えてある。君は結局フリージアから学んだが……まあ、よしとしよう」
「私の不敬を許してくれるだけでも有難いことですよ、師匠」
「ふむ、それを現実の私にも言ってほしいものだな」
「考えておくよ」
私は、きっと気恥ずかしくて言えないだろうな、と苦笑した。師匠は私たちに寄り添ってくれている。それはこれからも変わらないだろう。そのありがたみがやっと分かった。
「さて、君が覚えたスキルはかなり特殊だ。なにせ私もまともに扱えたことのないスキルだからな」
「……本気で言ってるのか?」
「話にでた怪鳥から奪ったスキルなんだが……私より神としての格が数段上だったようだ。スキルは『原子操作』と名付けられている。世界のありとあらゆる物質に作用し、自在に操ることができるスキルらしいが、全容は明らかになっていない。怪鳥は目視できる範囲全てが射程距離だったが、私は手で触れた物質にしか影響を与えられない。しかも、私の場合『鉄』しか反応を示さなかった。それがどういうことか理解できるな?」
私は即座に頷いた。師匠の口振りに一抹の不安を覚えたが、スキルの使い方は至極単純でわかりやすい。あとは私が使いこなせるかだ。
師匠はほっと安堵の色を浮かべた。
「テューン、私は常に君たちとともにある」
「ありがとう。こんな私でもちゃんと接してくれて。行ってくるよ、師匠」
私の体内に温かいものが流れてくる。師匠の感情、感動や達成感。師匠にとって冒険者は憧れるものではなかったが、冒険者であることを誇りに思っている。
それらの感情を受け止め、私は覚醒した。




