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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第一章 囚われしサージェス
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魔鉄錬成

 ――――――――佐倉涼太――――――――


 状況は想定よりも深刻である。まだ行動も起こしてないのにだ。

 だが、それはパーティー内での総合的な評価であり、俺自身は師匠をアテにしていなかった。俺は最初から望みは薄いと踏んでいた。だが、選択肢は他になかった。その点についてはテューンも同じだろう。友恵はどう思ってるだろうか。ともかく一番焦っているのはゼフだろう。

 彼はパーティーの生存率を上げる選択を常にしてきている。それはもう病的なまでにだ、本人は自覚がないだろうが。それについてテューンに聞いたことが一度だけあるが、憂いを帯びた表情で微笑むだけで要領をえなかった。俺には理解できない難しい問題なのだろうとその時は割り切った。

 師匠が陥ってる状況に関しては拙いながら説明すると、師匠自身は何でもできちゃうスーパーコンピューターだけど、ある日突然何の前触れもなくOSが入れ替わってしまってて、各種プログラムがそこに存在しているけど起動できなくなってしまっている状態だ。

 師匠には自らプログラミングできる技能がある。だけど、この世界でプログラム、つまりスキルを発現させるにはこの世界の未知のOSをもったコンピューターが必要だ。

 それが俺たちだ。俺たちがこの世界で師匠のスキルを使用することができれば、それはつまり師匠がスキルの互換性を獲得できたということであり、そうすることによって師匠が再びスキルを使うことができるようになる。

 それが師匠の立てた仮説である。

 だからこそ、俺たちは現状を打破する力を渇望しなければならないのだ。


 「魔力についてはいずれ自分で供給できるようになるが、今は六人の弟子から微量ながら徴収しているぐらいだ。だから、ここぞという場面でないかぎり私は手を出すことができない」

 「ここぞというのは……?」

 「無論、この異変の主であろう存在を退けられず全滅する恐れがある場合だ。もっとも死力を尽くして戦うとは約束するが、勝てるかどうかは正直分が悪い」

 「……まあ、お互いの認識に差異があったのは認めますが、結局やることは変わりません」


 ゼフは自分に言い聞かせるように言って腕を組んだ。


 「そういってくれると助かる。ときに、ゼフよ。かねがね思っていたが敬語が似合わないからくだけていいぞ?」

 

 うん、それは俺も思っていた。

 師匠から不意を突いてでた言葉に面食らってゼフは硬直する。本人は不本意なのか憮然としていたが、ほかのメンバーも黙しながらも肯定の雰囲気を醸し出していた。


 「……では、師匠。本題に移ろうか。俺たちは一体どういう存在に生まれ変わったのか」

 「よろしい、ゼフ。解説しよう。吸血鬼になった明確なデメリットは一つだけだ。私たちは人より鉄分を余計に消費する。この世界での食糧事情には疎いが、おそらく一番手頃な鉄分の摂取方法は血を頂戴することだ」

 「鉄分? それは血に含まれているのか?」

 

 尋ねたテューン含め、鉄分が何なのか知らないメンバーはそろって眉根を寄せた。


 「ああ、そうだ。その成分こそが私の世界での吸血鬼がもっとも必要としているものだ。野菜や果物の中にも含まれているが、その含有量では到底賄えないほどの鉄分が必要になる。鉄分の多い食事を安定して供給できるなら、そもそも血を求めなくてもいいわけだ」

 「それって……吸血鬼って呼べるんですか?」

 

 篠塚が直球な質問をする。俺も一瞬頭をよぎったが口をつぐんだ質問なだけに注目度は高まった。


 「そちらの世界の吸血鬼がどういうものか知り及ばないが、私の世界ではそうだった。ただそれだけのことだ。特に戦争で土地が荒れ果て、人々が飢餓に喘いでいた頃だったからな。生き残るためには人の血すらも啜らなければならなかった」

 「日光は大丈夫なんですか?」

 「日光か。確かに人より肌が焼けやすいし、多少のめまいを感じるが、取り立てて日常生活に支障をきたすことはないな。焼けた跡も不老不死の代名詞と謳われるだけあって治りは早い。だからそのあたりは気にする必要はないから安心したまえ」

 「あー、うちにそんなこと気にする女性いないっすよ」


 ラフィカの突然の暴言に隣にいたテューンが脇腹を肘で強打することで応じる。相当痛かったのはラフィカの顔面はテーブルに沈み、かすかなうめき声を発している。


 「おまえはまた余計なことを言うな!」

 「ラフィカくん、さすがに今の発言はひどすぎるよー!」

 

 マテがテューンとともに抗議の声を上げる。篠塚は軽蔑した視線を投げるだけで、男としては何か言われるよりもきついものがあった。


 「話の腰を折るな、ラフィカ」

 「いや、だってこんなにお腹すいてるのにまだメシがきてないし、限界よ!」

 「……さすがメシとトイレの化身なだけあるな。だが、おまえにも関係ある話なんだから大人しく聞いておけよ。後で何でしたっけって聞いてきたらぶっ飛ばすからな」

 「だってよ、マテ」

 「えっ、なんでそこで私!?」

 

 ゼフが諫めても動じないその胆力を別のところに使ってほしい。ゼフは目つきが鋭いから俺なんかは怒られなくても若干怯んでしまう。冗談抜きでラフィカのそういう誰にでも態度を変えずに接せられる能力は羨ましい。空気が読めないところは見習いたくないが。


 「話戻しますけど、師匠が吸血鬼として出来ることって何ですか?」


 篠塚は一連の会話の流れを興味なさそうに切って、話を本題に戻した。

 ナイスだ、篠塚。さすがクールビューティーなだけある。


 「逆に聞くが、トモエの世界の吸血鬼は何ができる?」

 「そうですね。私たちの世界の吸血鬼は空想の産物なので実在しません。創作物によって違うんですが、空間移動ができたり、動物に変身できたり、力持ちだったりしますね」

 「ふむ、力に関しては今後の努力次第だな。変身は残念ながらできない。空間移動はできないが、代わりに空間収納能力ならある」


 師匠はそう言って、何もないところからいきなり短剣を取り出した。

 俺はぎょっとしたが、手品みたいなわくわく感があり次の瞬間には感動に打ち震えていた。


 「すげぇ! これ俺もできるようになるの!?」


 そんな俺よりも食いついてきたのはラフィカだ。

 こいつさっきまでぐずってたのにこの切り替わり具合よ。こういう子供っぽいところがなぜか憎めなくもある。


 「そこまで喜んでくれると私も教え甲斐があるな。だが、驚くな? 私にはもっとすごい特殊能力があるのだ!」


 師匠もウケがよかったせいかノリノリである。

 

 「その名も、魔鉄錬成だ!」

 「うおおおおおお!」


 絶対よくわかっていないであろうラフィカが歓声をあげて拍手を送る。テューンもゼフもすでにラフィカをどうこうすることは諦めたようだ。


 「このスキルはな、自分の体内の鉄分を抽出して魔剣を作り出すまさに吸血鬼の最終手段だ。しかも、体内の魔力が溶け込んだ鉄なので切れ味は抜群! 極めることができたらアダマンタイトもぶった切れる!」

 「おおおおお! すげえええええええ!」


 ラフィカがより一層の歓喜の声を上げる。もはや突っ込みを入れることすら億劫だ。

 いや、そもそもそれどころじゃない。『魔鉄錬成』の説明を聞いて、俺ははっと息をのんだ。他のメンバーも各々の反応を示している。皆一様に師匠の説明したことを自分なりに整理しているのだ。

 『魔鉄錬成』めっちゃ強くね?


 「ただし、体内の鉄分を消費するので下手すると死ぬ」

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