目覚め
ーーーーーーーーテューンーーーーーーーー
私たちが腰を下ろしたのは、行き止まりに直面した時だった。引き返せばまた奴らの襲撃に遭うかもしれない。ここは横にも広いが、極度の緊張を強いられた下位の冒険者たちは体力の限界だった。
だから、見つからないように明かりを全て消し、闇に紛れてやり過ごすぐらいしかできなかった。彼らを見捨てることはできない。上位の冒険者は彼らを雑用として扱うかわりに、彼らの身の安全を確保する義務がある。それがギルドが徹底的に指導している絶対遵守のルールであり、荒くれ者が多い冒険者に要求される最低限の教養であるからだ。
「せめて戦えない奴らだけでも逃せられればいいんだが……」
「おそらくこの調子だと運良く逃げ道を見つけたところで例のオオカミが退路を絶っているだろう。ドロテアは実験と言っていた。冒険者が戦えない者たちを犠牲にするような真似はしないことすら、彼女の計算のうちなんだろうな」
「一体何の実験なんだ?あのふざけた化け物どものことか?ありゃ一体なんなんだ?」
私とオーステア様の会話にジョルジュが疑問を投げかけた。
「ドロテアは錬金術師であることはどうやら間違いないらしい。そして、あれらには意識があって、彼女はそれを無視して強要できる立場にある。口振りから推測するに、あれはトリュンの王族の魂が入った器だ」
「ちょっと待ってくれ……なんでそうなる? 王族の魂だって? 話が飛びすぎじゃないか?」
ジョルジュの意見はもっともだった。だが、それはウルリカ王女が私たちに託した言葉を知らないからだ。
ーーー私は貴方を恨んでません。
それが誰に向けての言葉なのか、その時は考えもしなかった。だけど、今はとても重要なことだと理解できた。
オーステア様は空間収納スキルでエメラルドのブローチを取り出すと、それをジョルジュに見せた。ジョルジュが驚愕の表情を見せたことから、それが何であるか彼にも覚えがあるようだ。
「ジョルジュ、どうやら君はこれを知っているようだな」
「……これでも国に忠誠を誓ってる。それに、くたびれちゃいるが騎士としてそれなりの身分は持ってる。そのブローチを誰がつけてたかぐらいは覚えてるさ。あんたらにそれを渡したってこったぁ……ウルリカ王女はこのことをご存知なのか?」
「詳しいこと知らないだろう。彼女の中に流れる神の血が、それを予感させているんだ」
「神の血か……迷信だと思ってたがよ。ドロテアは実在していたわ、そいつぁ付け加えて魔族だわ。もはや信じるしかねーだろうよ。やつが人間を憎んでることも含めてな」
物分かりの良いじいさんだ。まあ、ここまでのことが身に降りかかって、目の前の現実が直視できないようでは話をするだけ無駄だ。気難しい性格をしているが、その点ではジョルジュに好感がもてた。
「オーステア様、だけど王族の人間はウルリカ王女を除いて全員……」
「サージェスが讃える神とやらに食われたな。しかし、やつが欲していたのはあくまで神の血をひく肉体だ。サージェスの肉体を乗っ取ったように、あの神にもこの世界に顕現するための血肉が必要だった。そして、そこに魂は含まれてなかっただけの話だ」
「そうか。ドロテアとサージェスが手を組んだのはそういうことだったのか。サージェスは神の血肉を求め、ドロテアは王族の魂を望んだ」
だが、それがわかったところでどうするというんだ。ドロテアがあの鎧に対して嘲るような言動をしたことから、人間だった頃の記憶が残っている可能性もある。だけど、そもそもあの鎧たちはドロテアに行動を強制されているんだ。情に訴えてどうにかできる相手じゃない。
「だからって、どうなる? あれの正体がわかりゃ勝てるようになるのか?」
ジョルジュが私と同じ意見を口に出す。そして、下位の冒険者たちも同様の眼差しをオーステア様に向けた。彼らは恐れおののき、悲鳴をあげる立場の人間だ。安心できる何が欲しいのだろう。
「すまない。君たちの感情を疎かにしてしまったな」
「ええ、でも気に病むことはないよ、オーステア。戦えない彼らにとって必要なことは、事実や勝利じゃなく生き残ること。悪いことじゃないよ。そのために私たちがいる。そして、私たちに必要なことは勝利を収めること」
その声の主はいつもの陽気な調子ではなく、疲労を滲ませた声色でゆっくりと喋り出した。血を補って傷も癒えたけど、まだ本調子ではないようだ。もしくは、気絶している間の出来事を察しているのかもしれない。
「早速リベンジしにいこうか。負けっぱなしは嫌いだからね」
目覚めたフリージアが死の淵から舞い戻ってきたばかりとは思えない気迫で再戦を宣言した。




