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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第二章 天空城の住人と王家のダンジョン
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ハグ

ーーーーーーーーマテーーーーーーーー


 とにかくもじもじしてるエルフの少女に対して何かしらの返事を返さなければ……それが礼儀というものだ。もはや私の中の彼女に対する劣等感や不快感は吹っ飛んだと言っていい。

 私は単純な人間なのである。

 私への嫌がらせや意地悪な態度も意地を張ってただけで好意の裏返しだと知れば愛らしく感じてしまう。むしろ、素直になれなくて悶々としていただろう彼女を想像しただけで私も悶えてしまいそうになる。

 ツェーリの両手を軽く触れるように握った。


 「とりあえず仲直りのハグでもする?」


 半ば冗談で私は小恥ずかしい仲直りの提案をした。といっても、自分で言っておいてそんな色々と飛躍したスキンシップがなんだか気まずいのですぐに訂正しようとした。

 だが、目を煌めかせたツェーリに冗談は通じていないようだった。制止も虚しく私は腰に手を回され、そのまま持ち上げられた。まるでヌイグルミを抱きかかえるような気軽さでいとも容易くツェーリは私を抱きかかえたままくるくると回り始めた。


 「やったー!初めての友達だ!」

 「ちょ、下ろして! やめて! なんでこういう風になるの……! 目が……目が回るう! やめろぉ! やめてくれえ!」


 私の必死の抵抗も歓喜に打ち震えたツェーリには意味を成さなかった。そして、こんな舗装もされてない場所で足元を見ずに回ってたら足を取られるのも当たり前なわけで、バランスを崩したツェーリに投げられるような形で私は背中からもろに地面に叩きつけられた。


 「ぐえ……!」


 肺の空気が一気に押し出されるような圧迫感を体が訴える。冒険者としての習慣か、頭部を打ち付けないようにとっさに手で保護したはいいが、そもそも吸血鬼となった今その程度のダメージでは死に直結するようなことはないと気づいた。

 でもまあ、痛いものは痛い。

 あともうボロボロになった服がさらに汚れてしまった。いや、ボロボロだからいいんだけどね。でも、汚れてしまった。いいんだけど。


 「もおおおお!バカァ!」

 「ご、ごめんなさい。仲直りできるなんて夢みたいで浮かれてしまったの」


 しゅんとした様子のツェーリに私はそれ以上怒ることができなかった。だって、あまりにも可愛かったから。さっきまで対立してたのに現金なやつだ、と言われても構わない。人間ってそういうもんだ。


 「もう……しょうがないなぁ」


 ツェーリの表情がパッと明るくなる。


 「ありがとう、マテ!」


 マテという名前は偽名なんだけど、ツェーリが眩しすぎてなんだかむず痒くなった。


 「とりあえず、みんなのところに戻る手立て考えよう? 確かここは多層構造になってるんだったよね」

 「そうね、でも心配ないわ。マテを抱えて飛べるぐらいの余力はあるもの」


 そうだった。ツェーリは飛べるんだった。この数日で非常識なものなど散々目の当たりにしているのに、まだ私は慣れていないらしい。


 「……変なとこ触らないでよね?」

 「マテがよければその豊満な胸に今すぐにでも飛び込むけど……」

 「それはやめて。そんな悲しい顔もしないで。大丈夫、私たちもう友達だから」


 ツェーリは嬉しそうにこくこくと頷いた。

 じゃあ早速飛ぼうか、としたところで何かの足音が聞こえた。振り返るとそこには、腰の位置まで舌をだらしなく垂らした人型の化け物がいた。口元以外の顔にあたる部分は全て真っ黒な布で覆われていて、身体の至る所に巨大なトゲがついている。

 あれがどんなコンセプトで製作されたかは見るからに明らかだった。そして、私とツェーリをこの場所に引きずり落としたのも漏れなくこの化け物だと察しがついた。


 「ツェーリ、前に出るから援護して!」

 「わかったわ!」


 ツェーリと競り合ってたせいで遠距離攻撃ばかりに手を尽くしていたけど、元々私の役目は遊撃だ。戦況に応じて、戦闘スタイルを変化させられる。ラフィカには遠く及ばないがそれなりのことはやってきたつもりだ。だから、私は迷うことなく前に出た。

 そして、やつの舌が目にも止まらぬ速さで私の首元に迫る。あの触手よりも機敏な動きだ。それを難なく躱すことができた。自分の調子が戻ってきた感覚に少しだけ喜んだ。あとは、あの化け物の懐に飛び込むだけ。

 だが、突然化け物の舌が蛇のようにうねり、私の腕に絡みついた。

 しまった!

 巻きつくこともできるのだからこの程度の動きは予測できたはずだ。自分の迂闊さに腹がたつ。どうにかしないと手遅れになる。

 舌が私を引き込もうとピンと張った瞬間、そのタイミングを狙いすましたかのようにツェーリの矢が頑丈なはずの舌を鮮やかに切断する。

 引っ張られて少しだけバランスを崩してしまったが、すぐに持ち直し私は化け物の懐に潜った。腕を取られている状態とそうでない状態とでは攻撃の主導権が違ってくる。私は万全な状態で私の出来る全てのことを実行した。

 まずは心臓部分を右手に持ったナイフで刺し、左手のナイフを相手のアゴから脳に到達するようにねじ込む。そして、別のナイフを取り出し、それを右脇の肋骨の隙間を縫うように突く。

 これが通用する相手なのかは不明だ。伝わってくる感覚も生き物を刺す時のものとは異なる。

 だけど、やるしかない!

 化け物の左腕が動く。動いた瞬間にツェーリの矢が関節部分を射抜く。ツェーリの弓の腕前はさっきまで嫌というほど経験させられた。だからこそ、信頼できる。攻撃に専念できる。

 私は持っている全てのナイフを空間収納スキルを駆使して取り出し、トゲが突き出している箇所以外のところにみっちりとナイフを突き立てた。ツェーリが化け物の足を矢で射抜いて、あいつが地に伏しても私はやめなかった。だって、どうやったら死ぬか分からない相手なのだ。やりすぎでも足りないぐらいだ。


 「マテ、もう動いてないわ!」


 一心不乱にナイフを振るい続ける私をようやくツェーリがとめてくれた。その頃には原型をとどめていないハードな死体が一つ出来上がっていた。いや、死体と呼べるのか疑問だけど。


 「わ、私たち勝ったのかな?」

 「ええ、そうよ。あの鎧のやつより全然弱かったけどね」

 「それでも、勝つことが大事だから!」


 そうだ。良いことの一つでもあれば、それを足場にさらに良いことを増やしていけばいい。だから、たとえこれが些細な勝利であっても喜ぶべきことなのだ。


 「よし、みんなのところに戻ろ」

 「その前にね」


 ツェーリが両手を私に向けて広げた。何がしたいのか不思議がって訝しんでいると、


 「勝利のハグは?」


 と言ってきた。


 「それはもういい!」


 ナイフを回収し終えると、私たちはみんなと合流できるよう先を急いだ。その間、私に向けられたツェーリの期待の眼差しを私は完全にスルーした。


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