復讐の糸口
――――――――テューン――――――――
なんてことだ。事態は悪くなる一方で依然活路を見出すことができない。次々と現れる新手に対して対応が後手に回っている。これが魔女の根城に不用意に踏みいった結果か。
ぎりぎりと歯をくいしばる。
敵は決して剣が届かない位置にいて、私たちは身動きをほとんど取れない。頼みの綱はマテの投擲武器とツェーリの矢しかない。だが、急所が存在しないであろうヤツに果たしてそれは通用するのか?
「え、なに……?足になんか……」
そう呟いたマテの右足に穴の中から伸びた何かが巻きついているのが見えた。最悪な事態が私の頭をよぎり、そしてそれが現実となった。
穴の中に引き摺り込まれるマテを助けようとツェーリがマテの右腕を掴んだ。だが、踏ん張りがきかず、マテもろともツェーリも一緒に穴へ落ちていってしまった。
「ツェーリ!」
「ヤン!気持ちはわかるが今は抑えてくれ!ここを乗り越えたら必ず助け出すと約束する!」
ツェーリを追って穴の中に飛び込もうとしたヤンを師匠が呼び止めた。
ヤンにとっての優先順位がツェーリに傾くのは仕方のないことだ。だが、ヤンは合理的な性格をしていて、自分がここで抜ければ部隊は機を待たずして崩壊することを理解していた。
だからこそ、ヤンは押しとどまった。
「テューン、フリージアを頼めるか?」
私の返答の有無に関わらず、ディランは背負っていたフリージアを私に託した。流されるままにフリージアを受け取った私はその真意を問い質そうとする。
「本来みんなを牽引する立場の俺たちがこんな体たらくで申し訳ない。フリージアが目覚めたら彼女が全員をここから無事に生還することを約束してくれる。こんな状況じゃ信用できないかもしれない。だけど、信じてくれ。俺はフリージアを信じてる、リーダーだからな、一応」
ディランは小さく笑うと、
「さあ、いけ!逃げ切るまで凌ぎ切ってやる!」
そう叫び、飛来する敵の刃を素手で鷲掴みにする。そして、触手をピンと張り詰めるまで手繰り寄せる。私たちに向かっていた触手たちが一斉にディランをめがけて方向転換する。
ディランはその攻撃を全て避けなかった。それ以上私は見るのをやめた。彼の覚悟を無駄にしないために今は逃げなければならない。
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
蘇生はしたがまだ叩き砕かれた箇所は痛みを訴えていた。だけど、甘えている時間はない。こうしている間も篠塚や師匠に危険が及んでいるかもしれない。
大丈夫、俺は吸血鬼だ。致命傷でも何度だって立ち上がれる。
「これは驚いた。死んだはずなのに息を吹き返した。しかも、完全に元通りの形で。興味深い身体をしているな。ちなみに、そっちの男もそうなのか?」
ドロテアの声が耳に届く。俺が復活したことに対して脅威を感じるわけでもなく、研究対象に向けるような好奇な目で俺を観察していた。
ゼフはあの鎧の猛攻に耐えてみせていた。だが、肩で息をしていて背中越しでも限界が近いと見て取れた。
「つれないな。少しぐらい答えてくれてもいいんじゃないか?」
「うっかり余計なことまで喋っちゃうから知らない人と話しちゃダメだって、おかあさんから言われてる」
「……さっきまで死んでたのに随分と余裕があるな。まあ、どの道死なないのなら次は動けないように縛り上げればいいだけだ。あとでじっくり実験させてもらうとしよう」
不穏な言動に身の毛がよだつ。捕縛されたら死よりも恐ろしい結末が待っている。死に対しての覚悟なら散々してきたが、果たして俺はそれに耐えられるのだろうか。いや、そうならないように立ち回らなければならない。
「当然勝つような言動だが、まだ戦いは始まったばかりだぞ。いつまでも強気でいられると思わないことだ」
「忠告痛み入るよ。だが、私は侮った覚えなど一つもない。この状況はおまえたち一人一人を分析して導き出した展開そのものだ。まあ、例外もあるが、それもすぐに修正される。ところで、気になっていたことが一つあるんだが……おまえ、ゼフだろう?」
名指しをされて頰をぴくりと動かすゼフ。
どういうことだ。たしかに師匠が呼びかけた時にゼフの名前を口にした。だけど、ドロテアに聞こえるような距離じゃなかったはずだ。だとすれば、ドロテアは以前からゼフのことを知っているということになる。
「……なぜ俺の名前を知ってる?」
「知っているさ。私はあの場にいたからな。あの火事の唯一の生存者がどういう奴なのか興味があった。なんてことはない。失意の果てに田舎に引っ込んだ腑抜けだと思ったが……何が起こるかわからんものだな、やはり」
感慨深そうにドロテアはゼフを見やった。対するゼフは、湧き出しそうになる感情を必死で抑えて理性的であろうとしている。
だが、どうしてもゼフは一つの質問を口にしなければ気がすまなかった。
「もしかして、あんた……犯人を知ってるのか?」
ドロテアは当然のように答えた。
「知っている。なぜならヤツは私と同じ魔族だからな」




