とある研究者の発表
――――――――テューン――――――――
「私がまだゲルシュにいた頃、とある研究者の自論の発表を拝聴させてもらったことがあってね。すこぶる評判の悪い研究者でねー、以前からも変わり者だって噂されてた」
「発表とはどういう内容なんだ?」
私の問いにフリージアは嬉々として答えた。
「異世界人と我々は似ているようで全く異なる生命体である、という内容よ」
「それは……そうなんじゃないか?」
「ゼフ、みな一様にそういう反応だったよ。異世界から来たから自分たちとは異なる生命体、ほとんどがその程度の認識ね。だけど、彼はもう少し踏み込んでいた。かいつまんで話すと、異世界人は私たちと子供を作ることができないの。前例が一つもない。ゲルシュは国の発展に貢献してくれた異世界人の血を残そうとあらゆる手を尽くした。でも、それは何一つ実らなかった」
フリージアは歩きながらも続けた。
あの魔物の襲撃にショックを受けたせいか、それともいとも容易くそれを退けた冒険者の腕を信頼してか、ジョルジュはうるさかった口を閉ざしたままだ。
「そもそも異世界の技術において、私たちに応用できる魔術というのは存在しません! 異世界人がゲルシュに遺してくれた技術は軒並み錬金術に系統されるものなんだよね。いちおー魔術に纏わる知識も保存されてるんだけど、それは異世界人にしか使えない代物なの。ちなみに、それを全く違う世界からきた人に習得できるか試したところ、問題なく魔術を会得したらしいよ。つまり、私たちと異世界人は出身地や知識や価値観、その他もろもろの文化的人種的特徴よりも遥かに深い溝……『区別』がある……と、その研究者は発表したわけ」
「ちょっと待って。その理屈だと……」
そこまで口にして、マテは失言だったと口を噤んだ。
フリージアは大体察していてそのことをスルーしたけど、ここにいる全員が知っているわけじゃない。俺たちがすでに人間をやめているってことを。
「私にはどうでもいいことだった。彼の主張は推測の域を出なかったし。それが正しかったとして、だから何? 私たちはどうしたらいいの? 正直興味の欠片もなかった。夜よりも暗い闇が訪れ、空飛ぶお城が横切り、このダンジョンの話を持ちかけられ、異世界人が徒党を組んでいるところを見るまではね! なんで行動を一緒にしてるのか聞いたのは本当にただの興味本位よ」
「その質問については残念だが、君の満足のいく答えを用意できそうにない。本当にただの偶然なんだ」
「さしたる問題じゃないよ。むしろ、そうなんじゃないかって思ってた。だからこそ、興味深い。類を見ない数の人智を超えた存在が一挙に出現した。その目的は? 不可能だと思われていた異世界のスキルの継承を可能にする存在が私の目の前にいる。そして、異世界の神を自称する超常の存在と手を組んだ何者かがこのダンジョンの奥にいる。言葉を理解してくれるかわからないし、ほんの僅かでも真実を握っているかもわからない。何というか……冒険者冥利に尽きるよね!」
純真無垢とはかけ離れているというのに、フリージアのそのいきいきとした笑みは非常に眩しいものだった。
なんだか私の背中をぞわりと何かが這いずるような感覚がする。それがなんなのかは分からなかったが、私は歯をくいしばり、歩く速度を少し上げた。
「ああ、異世界人以外のみなさん。今の話は口外しないこと! もし漏れるようなことがあれば私が責任を持って殺しにいかないといけませーん。話した人間全員ね」
「はっ、そんなくだらねえことでくたばってたまるか。俺には家族がいるんだ。世界の真実なんかよりもずっと大事なもんだ」
さらっと口からでたフリージアの脅しにジョルジュは厭味ったらしく答えた。
荷物持ちをさせられている他のメンバーは恐怖で言葉も発せられず、ただ首を上下させて肯定の意を示すことしかできなかった。
「非常に協力的で助かるね! だけど、ジョルジュさん。その真実は、あなたの些細な幸せすら脅かしかねない可能性があることだけは肝に銘じておいてくださいね」
ジョルジュの答えは沈黙だった。




