この世界への疑念
――――――――テューン――――――――
フリージアとその面々はさすが上級冒険者の資格を持っているというべきか、王宮ダンジョンにいたギルドの上位に位置する冒険者たちよりも遥かに鮮やかな立ち回りを見せた。
まず彼らは初見の、地獄から這い出たような見た目の敵でも一切腰が引けてない。
ディランの得物は片手に大盾、もう一方にトゲのある球体がついたチェインフレイルだ。あの巨体から遠心力をつけて放たれる一撃はまさに圧巻。オオカミたちをぐちゃぐちゃの肉片に変える。あの武器はディラン特注の品なのだろう。鉄球が従来のものより一回り大きく、鉄球と鎖の部分に魔力が感じられた。
ガナードも盾を所持しているが、こちらはショートソードを手にしている。背中には両手で持たないと振り回せないような大剣を担いでいるが、状況に応じて使い分けているんだろう。無骨にして不愛想な印象を与える彼だが、その剣捌きと立ち回りは繊細に他ならなかった。
「治癒術師というのはなかなか便利なものだな……」
あの二人が臆さずに前線を維持できている要因の一つ、治癒術師の活躍に私は喉をうならせた。
ソフィアは魔術師のスキルのように真っ白な光を飛ばして、それをディランとガナード、負傷したどちらかに当てていた。すると、どうだろうか。その光があたった二人は立ちどころに出血がとまり、それどころか傷口も塞がっていた。魔術師にも治療する術はある。だが、あれほどまでに利便性の高いスキルには仕上がっていない。さすがは魔術師の治癒術など真似事に過ぎないと口々に言わせるだけのことはある。
トモエに初めて治癒術の適正があると判明した時、私は物珍しさから何か役に立つかもしれないとトモエに治癒術師としての道を強く勧めた。だけど、正直なところ治癒術師自体が珍しく冒険者になるよりも上等な生活を送れるため、トリュン国全域にかけてもおそらく冒険者としての治癒術師はソフィアを含めて五人もいない。
だから、トモエにその道を歩んでもらったはいいが、治癒術師のノウハウを学習する環境が整っていなかった。ヒールと毒治療を覚えられただけでも幸いだったと言わざるをえない。
フリージアのパーティーはフリージアが強いだけと揶揄されることもあったが、実際のところその練度は王都のどの冒険者パーティーよりも上回ってると断言できる。要するに、次元が違うのだ。
オーステア様は私たちのパーティーが頂点を目指せるパーティーだと評価してくれた。だが、フリージアのパーティーを目にしているとその評価も霞んでしまいそうになる。
その一番の元凶がフリージア本人だ。
彼女はディランとガナードから漏れた変異したオオカミたちを指を差すだけで頭を吹き飛ばした。ただそれだけの動作で敵が一掃される。あれにどうやって勝てばいいというのか。その気になれば彼女一人であの群れを相手取ることができるかもしれない。何かタネがあるのだろうが見ただけでは分からなかった。
「さーて、落ち着いたみたいね! ちゃっちゃと移動しよっか!」
全ての敵を殲滅するとまたいつもの調子のフリージアが何事もなかったように前に進み出た。あの変わり果てたオオカミを見ても彼女には何の疑問も躊躇も浮かばないようだ。
「またアレと対面することになるなんてたまったもんじゃないですね」
リョウタのセリフにみな共感する。対処できるとはいえもう二度と会いたくない敵だ。
「私はアレがサージェスの配下の魔物ではないと知って心底納得しているよ」
「……師匠、それは一体どういうことです?」
「この世界について少しだけ疑問が深まったというべきか……私はこの世界に来てから違和感に苛まれていた。この世界の人間よりもサージェスの崇めた神のほうがより私に近い……なんというか構造、をしているような感覚があった。正直な話、リョウタとトモエがいなかったら私は君たちと眷属の契約すらできなかったかもしれない」
オーステア様には珍しく歯切れが悪く、慎重に言葉を一つ一つ選んでる様子が見て取れた。それが何を指し示すのは私にはいまいちピンとこなかった。
ゼフも同じように首をひねる。
マテはああ見えて頭は回る。なんとなく察したような素振りを見せていた。
「ヤンとツェーリを異世界人だと即座に見分けることができたのはそのせいですか」
「そうだ。そして、この魔物たちは混じりっけなしのこの世界の存在だ」
「なにやら面白そうな話をしてるね!」
フリージアが俺たちに向かって振り返り、冒険者じゃない研究者としての顔を覗かせた。




