ダンジョン攻略開始!
――――――――ドロテア――――――――
ダンジョンの奥深く、私は来訪者を待ち望み、その牙を研いで静寂を切り裂いた。
サージェスとの同盟はエルドリッチの活躍によって潰えたが、私にとってそれは僥倖だった。奴の目的が正しく遂げられることがあれば、サージェスはすぐに掌を返して私を殺しにきていた。どちらがどのタイミングで裏切るか。その駆け引きこそがあの同盟の肝だった。
「やつが暴れてくれたおかげで良質な素材も手に入った。ウルリカ王女が生き残っているならば、すぐにでもこのダンジョンに冒険者を派遣するはずだ。そいつらでお前たちの最終調整を済ませる。私に使われることを至福に思え。そして、冒険者を殺し尽くしたのち、そのままテスラを滅亡させる。おまえたちはその一翼を担うんだ。なあ、神の血を引く者たちよ。自らの手で愛する者の命を奪うのはどんな気持ちだ?」
私は私自身が醜いと思う歪んだ笑みを浮かべて目の前の者たちを煽った。
そこには王の冠を象った兜が特徴のプレートアーマーを筆頭に、それぞれ王族の紋様が刻まれた人形が立ち並んでいる。
その中の一つがカタカタと震え、
「殺してくれぇ……」
と呻くような声を漏らす。
「だめだめだめだめ! 足掻け足掻け足掻け! もっと足掻くんだ! お前たちの先祖はしぶとかったぞ! だからもっと足掻くんだ! お前たちが足掻けば足掻くほど……私の復讐は満たされる! ははははははははは!」
私はぴくりと反応して、入り口のほうに目をやった。
「さあ、冒険者たちのおでましだ! 王都侵攻の前哨戦といこうじゃないか!」
その声に呼応して鬨の声を上げる人形たち。その雄叫びは自らを奮い立たせるものじゃなく、嘆きに満ち溢れていた。
――――――――佐倉涼太――――――――
ダンジョン前に到着した時には俺とゼフの表情はげっそりとしていた。だけど、それ以上にげっそりしてる人物を目撃し、俺は心配になって声をかけた。
「篠塚、大丈夫か?」
「だ、大丈夫」
「なんかそっちの馬車、騒がしかったけど何してたんだ?その様子じゃ楽しいことじゃなさそうだけど」
「あ、騒がしかった?ごめんね。楽しかったよ、ははは……うん、楽しかった」
全然楽しそうじゃないんだけど。
だけど、これ以上その話題に触れるのはやめといたほうがいいと判断した俺は、とぼとぼと歩く篠塚の背中を見送るしかできなかった。
「私の知的好奇心が乗り物酔いに勝ると考えたけどダメだった」
そうこうしてるうちに、本当に魔法帝国の優等生なのかと疑いたくなる証言が後ろから飛び込んできた。到着後すぐに駆けつけてきたパーティーメンバーの治癒術師によって治療を施されたフリージアは、先程までの青ざめた表情から一転して最初の得意げな表情に戻っていた。
ダンジョン前はいくつものテントが組み上げられ、不便がないように様々な備蓄や施設が用意されている。元々国の命令で資源を採取していた兵士や役人、労働者が利用するものだが、特例で俺たちも使える権利を与えられている。
まあ、使うとしたら帰ってきた後だろう。今はすぐにでもダンジョンに潜らなければならない。だが、せめてフリージアにはシャワーを浴びてもらいたかった。彼女からはゲロのにおいがまだプンプンしていた。
「おーい、みんな聞けえ! 引き続きあんたらを案内するために同行するジョルジュだ。わしはあんたらといち早くおさらばしたいと思ってる。あんたら全員狂ってるよ! だから、せめて俺のナビの邪魔だけはしないでくれ! わかったか?」
ジョルジュと名乗った役人のじいさんは真顔を一切崩さずに俺たちをそしった。
一体あの馬車で何があったんだ。
「わかりました!」
相変わらず小学生みたいなノリで返事をするフリージア。師匠は感慨深そうに何やら浸ってたが、旅の苦難を娯楽のように堪能してる傾向があるので、その点について師匠をアテにするのはやめることにした。
「さて、みなさん! ジョルジュさんからのありがたいお言葉をいただいたので、早速ダンジョンに向かおうではないか! えいえいおー!」
フリージアの掛け声に溌剌とした声で応じるパーティーメンバー。寡黙そうな男でさえその時ばかりは声を張り上げていた。
俺は近くにいるテューンに耳打ちできる距離まで寄った。
「テューン、王都の冒険者ギルドにいたころ、あのパーティーと顔見知りだったりしなかったの?」
「いや、相当な変人な集まりだと噂には聞いていたが実際に会ったことはない……私たちより人間をやめているかもな」
冗談めかしじゃなくマジの顔でテューンは言った。
一抹の不安を覚えながら、身の回りのサポートをする非戦闘員をたった五名だが同伴させ、俺たちはついにダンジョンに踏み入った。
草木が生い茂る森の中にある洞窟が入り口であるそのダンジョンの佇まいは、俺たちが日頃通っていた細々とした人気のないダンジョンと何ら変わりなく、とてもこの先に国を揺るがすような危険が潜んでいるとは想像できなかった。




