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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第二章 天空城の住人と王家のダンジョン
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魔法帝国の情報

――――――――佐倉涼太――――――――


 馬車は二台。個室みたいになってるやつかと思ったら、天幕が張ってある軽トラの荷台みたいなやつだった。それよりもちょっと広いし、座れるところもあるんだけどね。だけど、勝手に頑強な造りのものを想像していた分落胆もでかかった。

 

 「あなたたちダンジョン潜るにしてはやけに軽装ね。そっちの二人しか武器もってないし! そういえば、王女様に名指しされたって聞いたよ! すっごいワクワクする!」


 フリージアは初対面にもかかわらずがつがつと接してくる、大きな声で楽しそうに。まるで今から旅行に出かけるみたいだ。テスラの頂点に立つパーティーのリーダーだというのに威厳もあったもんじゃない。それを諫めるどころかディランも便乗して話を盛り上げようとしてくる。

 なんていうか、まあ、邪険に扱われるよりはマシなんだが。

 俺たちの肩書は中級に位置するパーティーとはいえ辺鄙な村の冒険者だ。そんなやつらが王家主導のダンジョン探索に戦闘要員として大抜擢される。普通ならもっと俺たちのことを怪しむだろうし、嫌みの一つ聞こえてきたところでおかしくない話だ。彼らには警戒心というのがないのだろうか。


 「はい、それではみなさん! 親睦を深めるために馬車に同乗するメンバーを発表するね! 私が独断と偏見で決めたけど文句は言っちゃダメだから! あなたとあなたとあなた! そして、ディランと私が、こっちの馬車! あとはもう一つのほうね」


 ゼフと俺と師匠を指差してフリージアはにっこりと微笑みかけてきた。

 その人選に俺はうすら寒さを感じた。ちょっと世間ずれした魔法帝国の優秀な魔術師は、噂に違わず鋭い洞察力を持っている。最初から俺たち全員を興味深いものとして見ていた節はあったが、まさかピンポイントでこの三人を狙い撃ちしてくるとは。だが、何が狙いであれ、ここは素直に従っておくしかない。


 「私そっちに行ってもいいですか!」

 「却下! ここでは私が王様なのである! ハッハッハ!」


 マテは希望が通らず、がくりと肩を落とした。ツェーリを避けたかったんだろう。その様子をツェーリが凝視しているところからも頷ける。


 「まあ、なんでもいいが……」


 役人は呆れた様子で成り行きに身を任せた。

 そうして、馬車に乗り込み馬を走らせると、早速フリージアが口火を切った。


 「私がみなさんをこちらに乗せた理由は大体察してくれてるはずだけど、とりあえず改めて自己紹介するよ。私はフリージア。以前はゲルシュで研究者をやってたけど、今はテスラに身を置いてる」

 「俺はディランだ。フリージアとは一応ゲルシュからの付き合いだ」

 「また一応って言った!」


 ディランはキメ顔を作って、フリージアの指摘に耳を貸さないアピールをした。そんなディランにネコみたいなパンチを繰り出すフリージア。なんだか仲睦まじい光景を見せられてちょっとイラっときた。


 「オーステアだ。一応この二人の師匠だ」

 「いちおー!」


 ゲラゲラ笑いだすフリージアとディラン。こいつらの感性に初っ端からついていけそうになかった。笑いの沸点低すぎだろ。

 その点、師匠は二人にうまく合わせている。まるで会心のギャグを飛ばしたかのようなしたり顔も、おそらくフリージアとの距離を縮めるためのおべっかみたいなものだろう。そうだよね?


 「ゼフだ」

 「あ、涼太です。よろしくお願いします」

 「よろしくー! というわけで、異世界人同士で組んでる理由を説明してもらえるかな?あ、この質問にはゼフは答えなくていいよ。そもそも異世界人じゃないし。それに、別に敵意があるんじゃないよ? ただの純粋な好奇心だから!」

 「その前に聞きたいんだが、なぜ別々の世界から来たと確信した?たしかにリョウタと私は外見的特徴が異なるがそれだけではあるまい?」

 「んー、そうだねー。ゲルシュって異世界人を囲うことに積極的で、私自身家柄の関係で異世界人と話す機会が多かったのもあるかな。感覚的な話だから私もはっきりしたことは言えないよ!」

 「ちょっと待った。ゲルシュが異世界人を囲ってるって?」


 魔法帝国ゲルシュの意外な裏話がひょっこり出てきて俺は耳を疑ってしまった。以前から異世界人が度々この世界に出現していたことは、ゼフたちに多少の理解があったことからも明らかだ。だけど、それに対してゲルシュが国家ぐるみで動いていたのは機密性が極めて高い情報だろう。

 エルドリッチが泣いて喜びそうだ。


 「そうよ。だから、半年前に大量の異世界人がやってきたことも、テスラで起こったことも、空飛ぶお城のことも、かなり神経を尖らせて対応してるはずだよ。まあ、あいつらの興味は科学技術ないし魔法技術の進歩だけでテスラがどうなろうと知ったこっちゃないだろうけどね」

 「それじゃ、ゲルシュは多くの異世界の技術を吸収して発展してるってことか?それが事実だったらトリュン国は二歩も三歩もゲルシュに遅れを取ってるってことになるが」


 一瞬ゼフの言うトリュン国があまり馴染みのない単語なので、王都テスラの国名だと気づくのに時間がかかった。

 トリュン国から一度も出たことないし、周辺の主要な地域名ぐらいしか会話に登場しなかったから仕方ない、ということにしとこう。

 俺は自分の中で大いに反省したのちに少しだけ開き直った。


 「二歩三歩どころか年数にして二千年以上差があるね。その気になればトリュン国なんて一日で蹂躙されちゃうよ。でも、最初に技術を提供してくれた異世界人が魔法の誓約書で、伝承された技術は自衛にのみ使い決して他国への侵略は行わない、ことにサインしちゃったから、結局皇帝はせめて他国に技術が流れないように技術封鎖をするしかなかったって話。笑えるよね! しかもその誓約書、皇帝が代替わりしても有効って曲者らしいよ」

 「……それって結構知られちゃいけないことなんじゃないのか?」

 「あー、いいのいいの。私もゲルシュからトリュンに移ったときに魔法の誓約書かかされて、ゲルシュが不利になる情報を喋ったら死ぬ呪いかかってるから! 私が生きてるってことはゲルシュにとっては痛くも痒くもないってことよ! てゆーか、異世界人相手なら推奨されてるからね、スカウトしろってね!」


 得意げに胸を張るフリージアだが、本当に見ず知らずの人にその知識を披露して大丈夫なのかとこっちが不安になって仕方なかった。

 すると、急にフリージアの顔色が青ざめた。顔から表情がすっと消え、ハチドリみたいに忙しかった挙動が静止する。

 その目に見えて明らかな異変にゼフも俺も緊張を走らせる。

 まさか、死んだか!?


 「おええええ!!」

 「……乗り物酔いだ」


 手慣れた様子でディランが嘔吐物を外に吐き出すようにフリージアを誘導し、背中をさすって介抱する。

 まだ馬走らせて十分も経ってないんだけど……そんな調子でよく親睦を深めるためとか言えたな。ていうか俺たち質問の答えまだ返してないよな。

 それからの道中、俺たちはグロッキーなフリージアから仄かに漂う吐瀉物の匂いに耐えながら、釣られてゲロらないようする我慢大会が始まった。


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