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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第一章 囚われしサージェス
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王都へ

 ――――――――マテ――――――――



 王都テスラは南の森林地帯周辺を主に統治するトリュン国が五百年にも渡って他国の侵略を防ぎ、維持しつづけた歴史的色合いが濃い建造物が建ち並ぶ由緒ある都市だ。

 この都市はさらに南の方角に進むと出現する砂漠地帯へ赴く際の中継地点としての役割も担っており、冒険者や冒険者相手の商売をする商人で賑わっている。

なぜ冒険者は草も水も食料さえない砂漠を目指すのか。簡単な話だ、そこにダンジョンがあるからだ。長い道のりに限られる物資、難易度の低くない未踏破エリアの多い広大なダンジョン。つまり、砂漠にあるダンジョンはロマンに溢れていた。

 いつしか私がいるパーティーもそこに挑む日がくるのかなあ、と村の自警団みたいなことを生業にしてる面々の顔を浮かべながら、絶対にないだろうな、と一人で納得してたことがある。

 今の状況はそんな妄想と同じぐらい私には現実離れしてて、これから先どうなるかなんて私なんかでは到底想像がつかないことだった。


 「気配が消えましたね」

 「自分の存在を嗅ぎつけられて慌てて隠匿したようだ。敵の細かい位置を把握するのは困難になったな。思ったより早く勘づかれてしまったな」

 「想定の範囲内ですよね? そんな顔をしておりますよ」

 「一筋縄ではいかないことを生きてるうちにうんざりするほど経験しただけだ」


 ゼフとオーステア様のやり取りが耳に入る。

 ゼフは私たちのパーティーの元リーダーだ。今はオーステア様の弟子として対等な立場にあるけど、いまいち私にその実感はない。だって、そうなってまだ間もないし。それに、平等だといっても私たちそれぞれの役割は変わらない気がする。

 私は自分のできることしかできないし、自分の出来ることだってやっとのことで覚えたことばかりだ。だから、肝心なことはいつもゼフに頼ってたし、テューンにフォローをいれてもらうこともしばしばあった。そして、誰より私の気が合うのはラフィカだ。彼のいつだってゆるい感じの物腰には心底助けられてる。緊張感が足りないとテューンに叱られることもあるが、彼はあのままでいいと思う。たまに空気が読めないのが玉に瑕だけど。

 私たちのパーティーの中で、真っ先に弟子入りに志願したのはトモエちゃんだった。

 彼女はこの界隈では珍しく、治癒魔術の適正があって僅か半年弱で私たちと肩を並べて戦闘できるレベルに達した天才だ。田舎ってこともあるから自慢じゃないけど、この地域での私たちはそれなりに上位の冒険者だ。それだけに若干の嫉妬が混じったのはご愛嬌だと思う。それに女性陣は男より前線にでる脳筋しかいなかったので、その意味でもトモエちゃんは貴重だった。

 その次に、名乗りをあげたのはテューンだ。

 彼女はメンバーを危険に巻き込むことには異論を唱えたが、自分がオーステア様の眷属になることに関しては迷いがなかった。トモエちゃんとリョウタくんは意外そうに驚いていたが、テューンのストイックな側面を知ってる私は違和感を抱かなかった。

 続いて、リョウタ、ラフィカ、ゼフ、私の順に承諾した。

 そうして、オーステア様に弟子入りを果たした私たちは、オーステア様の血を受け入れて晴れて吸血鬼となった。


 「検問では何か身元を確認する手続きをとるのか?」

 「はい、師匠は証明する書類や印がないので、よろしければ私が身元保証人という形で滞在許可書の仮発行をしようと考えております。これからの利便性を考慮して師匠には一度冒険者になっていただいて証書を発行してもらいますが、いかがでしょうか?」

 「ありがとう。そのあたりは任せる」

 「ゼフ、その前にメシにしよう。腹が減ってたまらんのよ」

 「おまえは本当に食べることとクソすることしか考えてないよなあ」


 腹が減ったと主張するラフィカに呆れたテューンは逆に感心したように笑った。

 私はラフィカの変わらない態度に安心を覚える。いつもと同じメンバーだけどこれから環境はどんどん変化していく。前みたいにはいられない。だけど、私はそれを心のどこかで認めたくなくて、そのやり取りに少しだけ救われるのだった。



 ――――――――ゼフ――――――――



 普段なら王都を出入りする商人や冒険者などで賑わっている正門付近ががらんと静まり返っている。たいまつの火が燃える音がこっちまで届きそうなほどだ。


 「森の様子を見ただろう? 魔獣でさえ怯え騒いでるんだ。よほど腕っぷしに自信がなければ、多くは早めの野営を選択してるはずだ」

 「その逆も然りってわけですね」


 オーステア様の発言にリョウタが相槌をうつ。

 夜よりも暗い闇の中にいきなり放り込まれ、気が立っている獣たちがうろついている。そんな状況で王都を目指そうという危険を冒す一団はよっぽどの命知らずかよっぽど困窮しているかのどちらかだ。そして、その状況にわざわざ陥りにいこうとする愚か者も王都の中にはいないようだ。

 だから、守衛兵が俺たちを見かけたとき、血相を変えて駆けつけてきたのも頷ける。


 「あんたたち外にいて無事だったのか」

 「ああ、なんとかな」

 「外もやはり王都と同じく……」

 「こんな調子だ。一体なにがなんやらな……とにかくもう今日は疲れたから手続きを手短にすませたいんだが」

 「そうだな、こっちへ来てくれ」


 守衛兵の様子から、案内された先で手続きが完了するまでの間、質問攻めに遭うことは容易に想像できた。とりあえずラフィカが余計なことを言わないように釘だけはさしておかなければならない。

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