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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第二章 天空城の住人と王家のダンジョン
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世界樹とエルフの関係

――――――――佐倉涼太――――――――


 明日からダンジョンだ。

 ここにはふかふかのベッドもないし、全身を抱擁されるような温もりの布団もない。だけど、野営よりは幾ばくかマシだ。そう妥協するしかない。

 エルドリッチとウルリカ王女は俺たちを……言い方は悪いが、監視下に置きたいわけだし、俺たちも王族との繋がりとその庇護を易々と手放せるわけがない。なにせ二人は異世界人に理解がある。

 異世界人がこの世界に渡ってくることは、半年前以前に辺境の村でも噂になるぐらいには何度かあったらしい。ゼフたちもそれで俺と篠塚がどんな存在なのか当たりを付けることができたわけだ。


 「夜風に当たってくる」


 帰ってくるなりテューンはまた外へ出かけてしまった。普通にしているが、やはりいつもの彼女とは様子が違っていた。

 ゼフは気づいているのかな?

 テューンについていこうとしたマテをゼフが制止した。あまりにもツェーリと一緒に居たくないのだろう。その顏は絶望に歪んでいた。

 その一連の流れの後、ゼフがツェーリとヤンに話を切り出した。


 「そういえばこの世界の言葉を難なく話せてるが、どうやって身につけたんだ?うちにも一人転移して間もなく雄弁に語ってみせた人物がいるが……」

 「そいつは今、口車に乗せられた六人と行動を共にしているな」

 「いや、まあ、たしかにそうですけど自分で言っちゃいます?」


 あの時は不安でたまらなかったが、今はそれでもよかったと納得している。ゼフもそうだろう。だけど、他のみんながどう思っているか意思疎通が図れていないのも事実だ。マテなんかは露骨に態度に表れてるが本当のところは聞いてみないと判断できない。


 「六人?五人じゃないの?」


 ツェーリが当然の疑問を投げかけた。彼女はさすがにフードを外していて、長い耳が空気に晒されていた。やはりエルフはいいものだ。鼻の下が伸びていたのか篠塚の肘が俺の脇腹に刺さった。


 「もう一人は借金のカタに奴隷としてエルドリッチさんにコキ使われてます」

 「いや、大筋は間違ってないが……」


 まさかの篠塚のボケに口ごもるゼフ。

 逃亡罪という借金を帳消しにするためにエルドリッチの下で馬車馬のように働かされているのだから似たようなものだ。まあ、想像に過ぎないんだけど。


 「質問にお答えしましょう。僕たちは世界樹から生まれ、肉体が死ぬと魂は世界樹に還ります。僕らと世界樹の関係は、まさに世界樹こそが僕らの世界そのものということです。世界樹には明確な意思はありません。ですが、生存本能と言うんでしょうか、世界樹は自ら膨大な情報を収集します。どういう理屈なのかは僕たちにもわからないんですが、それこそが全知全能と信仰される所以であり、僕たちがある程度言語を理解している理由です。僕たちは世界樹と記憶を共有することができるんです。ですが、世界樹の収集する知識は雑多で分別のないものです。善悪の区別はもちろん、おおまかなカテゴライズもされてません。だから、単語を知っていても僕たちはその単語についての複雑な意味を捉えることができない場合があるんです。そして、それを学習し、補完するために僕たちがいるというわけです」

 「それは……ヤンとツェーリ以外の奴もあの城から地上に来ているってことか?」


 ゼフの質問にヤンがこくりとうなずいた。


 「物事を多面的に捉えるために僕たちは別々に動き、違った解釈を世界樹に報告するようになってます。その全てを閲覧することは残念ながら僕たちには出来ません。担い手と呼ばれている僕たちの長だけがその情報を精査し、僕たちに提供できるんです」

 「つまり、担い手が必要の無いと判断した情報は共有されないってことか?」

 「そういうことになりますね」

 「……それは」


 ゼフは言葉を詰まらせた。

 会ってから今までの彼らとのやり取りや、俺が彼らから受けた印象、それらを排除して今の話だけで所感を述べるなら……彼らは非常に危険な存在であると言わざるをえない。俺だけじゃない。部屋全体にそういう雰囲気が流れている。

 少なくともエルドリッチに喋らなかったのは懸命だった。


 「なぜそれを俺たちに話した?おまえたちからしても隠していたほうがリスクを負わなくて済んだはずだ」

 「エルドリッチさんは好戦的で、おそらく僕たちに聞く耳を持ってくれません。ですが、あなた達なら慎重に物事を進めてくれると判断しました。お恥ずかしいことに、今の僕たちは無知そのものです」

 「庇護者が必要だと?」

 「そのとおりです。ですから、僕たちから提供できる情報は全てお渡しします。その代わりに、しばらくあなた達に付き添わさせてください」


 俺たち四人は視線を師匠に集めた。師匠はおそらく俺たちのうちの誰かが決断を下せば、それがよっぽど道を踏み外したことじゃない限り従ってくれる。だが、そもそもこれは俺たちじゃ持て余すような案件だ。とてもじゃないが自分では決められない。


 「私は世界樹について君たちを信頼してない。だが、君たちを引き入れたのは私だし、君たち自身は害にはならないと考えている。だから、もし世界樹の担い手とやらが私たちと相容れない道を選択するようなら、私は君たちを即座に切り捨てる。それで構わないな?」

 「それで結構です」

 「なら、この話はこれで終わりだ。明日からまた忙しくなる。君たちには感謝しているし、その働きに期待している」

 「ありがとうございます」

 「……ありがと」


 消え入りそうな声ながらツェーリも感謝を述べた。その顔はずっと険しいままだ。マテは彼女の視界にはいらないようにしている。

 そこで、コンコンとドアがノックされた。


 「夜分遅くにすみません。オーステア様に相談したいことがあって来ました」


 声の主はエリニエスだった。

 一番扉に近かった篠塚がエリニエスを招き入れ、彼女はその小さい体躯でとことことみんなに促されるように師匠の対面に座った。

 今日はあのぶかぶかの帽子を被ってない。栗色の長い髪を横に束ねている。


 「人が多くて申し訳ない。飲み物はいるか?」

 「あ、いえ、大丈夫です!それにこんな部屋しか用意できなかったのはこちらのほうですし、本当にみなさんにはご迷惑をお掛けしております」


 なんかええ子やなあ。

 エルドリッチを茶化しているイメージしかなかったので改めてこうして会話をすると、違った印象を受けて好感がもてた。


 「なら、早速その相談とやらを聞こうか」

 「はい、じーつーはー……私エルドリッチさんのことアニキって呼んでるんですがー……」

 「知っている。それがどうした?」


 すると、言い出しづらいのかエリニエスは身体をもじもじとさせて、あーとか、うーとか、言葉にならない声をだした。そして、しばらくすると深呼吸して意を決して口を開いた。


 「アニキとセックスするにはどうしたらいいですかね!?」

 「せせせ、せっくすぅ!?」


 俺も爆弾発言にびっくりしたが、それよりもゼフの上ずった声に驚かされた。

 動揺しすぎだろ、ゼフ……。


 「ねえ、せっくすってなによ?」


 ツェーリがヤンに尋ねたが、ヤンは存じ上げないと首を振った。

 ていうか、君たちさっきの話から知識は共有されてるはずだよね。ツェーリが知らないことはヤンも知らないってことだよね?

 余計に話がこじれそうな気がしたので二人のことはスルーすることにした。

 




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