エルフの異世界人
――――――――佐倉涼太――――――――
まさか今朝話題に上がった天空に浮かぶ城の住人に、1日も経たずして出会えるとは、これを運命の巡り合わせと言わずしてなんなのか。だが、俺を驚かせたのはそれだけじゃなかった。
ヤンがフードを外すと、そこにはピンっと尖った耳があった。
「エルフだ……!」
思わず俺は声をあげた。
溢れ出すファンタジー! この世界にエルフがいないと聞いた時、少しだけ肩を落とした。だが、今まさに俺の前にエルフがいる。
師匠も吸血鬼で外見もかなり現実離れしていて異世界感でてるんだけど、やはりエルフは王道だ。しかも、あの天空の城が世界樹であることも仄めかしていた。夢が広がるばかりである。
「すいません、僕たちは他の種族との交流をしたことがないので、自分たちがエルフと呼べるものなのか……」
「まあ、耳長いしな」
「えっ、師匠それだけですか!?」
「私の世界にはエルフがいたからな。そんなに珍しいものでもない。というか、リョウタは浮かれすぎだな」
「あ、でも、私少しわかります。私たちの世界だと実在しませんでしたが、ファンタジー世界の定番でしたから」
篠塚が珍しくフォローを入れてくれた。
「その特徴的な耳は少なくともこのへんでは見かけない。魔族ならありえるかもしれないが、御伽噺でしか聞かないような存在を引き合いに出すのは無粋だな。どの道、さぞ奇異の目で見られたことだろう」
「わかっていただけますか! 僕たちも無知ゆえに不用心だったことは確かですが、行くとこ行くとこでちょっかいをかけられ、かけられなくても視線を常に感じました。おかげでツェーリはずっと不貞腐れてて……」
「不貞腐れてなんかない」
「はは、とにかくそれで見られることに敏感になってた次第でして……」
それであんなに突っかかってきたのかと得心する。ツェーリはムキになって認めたがらないけど、そういうことならあの行動に説明がつく。フードを被っていたとはいえ俺がじっと見ていたことは相当なストレスだったんだ。これは反省しないといけないな。配慮に欠けていた。
「なるほど、事情は掴めた。それでどうする、リカルド?」
「え、オーステアさん、俺に振んの?」
「当たり前だ。二人とも冒険者になる手続きをしにきたんだ。君のお客様だし、手続きが終わればギルドの構成員だ」
「あー、まあ、そうなんだが……」
「なんだ、歯切れが悪いな」
テューンがリカルドのはっきりしない態度に目を細める。そんなテューンにリカルドは目を合わせようとしない。さっきは挨拶こそしていたけど、なんだかテューンへの苦手意識があるように見えた。
「テューン。彼にも立場というものがある。サージェスが召喚した異世界人があれほどのことをしたんだ。冒険者の中には偏見の目で見る人もいるだろう。普通の人が問題を起こせばその人間の人格を疑えば済む話だが、異世界人が問題を起こせば承認したギルドマスターも追及される」
「……お恥ずかしいかぎりだが、そのとおりだ。それに、そもそも加入自体に苦言を呈するやつもいる」
「組織の上に立っている以上、その懸念を考慮するべきだ。私は責めていない」
「じゃあ、僕たちはどうなるんでしょう?」
「さて、ちょうど私たちは人手が足らないことについて話し合ってた。そうだろう? リカルド」
「冗談だろ? まさかこいつらをダンジョンに連れてくってのか? そもそも資格の話をしてたのになんでそうなる?」
「資格といえば、私も資格をもっていない。だが、ウルリカ王女からは行ってくれと頼まれた。リカルド、もしや私の分の身分証、もしくはダンジョンに入るための書類をもっていないか?」
「……いや、分かっていたが、よくもまぁ憶測だけでそんだけ的確に当てられるな」
リカルドがことりとテーブルの上に見覚えのあるプレートを置いた。それは俺が首につけてるものと同じもので、冒険者ギルドの構成員ということを示す認識票だ。ウルリカ王女がリカルドにこれを頼んでいたということは、サージェスを退けたあとすぐにダンジョンの異変を察知したということに他ならない。じゃなければ、師匠の名前入り認識票を発行させるなんて発想に至らなかったはずだ。
「無事にダンジョンでの目的を達成できたら否定的な奴も二人を認めざるをえなくなる。なにせそいつらの多くは今回の件について辞退している。リカルド、この二人のことについては私が責任をもつ。もしそれでよければ、各面々に話を通しておいてくれないか? 私は王女のほうに話をつけておく」
「はあ、わかったよ。それでいこう」
「あのー、途中から話が見えないんですが、とりあえずそのダンジョンに一緒にいけば僕たちの身分は保証されるってことはいいんですか?」
「そうなるように運ぼうとしている。だが、これは君たちが協力してくれる前提の話だ。もちろん、断ってしまっても構わない。ただ君たちに提案を持ち掛けてるだけだからな」
「やるわ」
ヤンと違ってフードを被ったままムスっとしていたツェーリが口を出した。誰ともあわさなかった目を師匠に向けて組んでいた腕を膝元に添えた。
「右も左もわからないもの。私たちだけじゃいずれ限界になってた。ご厚意に感謝いたします、オーステアさん。ろくに挨拶もできない不肖の身ですが、何卒よろしくお願いいたします」
ツェーリは立ち上がり、深々と頭を下げた。
先程までのヒステリックな印象を覆す礼儀正しい姿だった。そして、ツェーリは頭を上げると師匠からマテに視線を移した。
「あなたには負けないから。せいぜいその役に立たない小道具でも磨いてるといいわ」
「は? あなたのほうこそ足引っ張らないでくれる?」
結局そうなってしまうのか。
ツェーリとマテの確執は深まるばかりだった。




