にらみ合い
――――――――佐倉涼太――――――――
「リョウタ、あの二人をここに連れてきてくれるか?ゼフとテューンは打ち合わせがあるからここを離れられない。マテとトモエもついていってやってくれ。エルドリッチやサージェスのように好戦的な様子はないが、くれぐれも穏便に済ませられるように立ち回ってほしい」
エルドリッチとサージェスを師匠が同列に並べたことに失笑を禁じ得なかった。だが、ここで笑ってしまうとみんなから変な目で見られる。突然俺に指示を出した師匠に説明を求める目をみんなは向けていた。
ゼフだけはその顔に緊張感を持たせていた。やはりゼフもあの二人が異世界人であることを感じ取ったのだ。
「わかりました。なんとかやってみます」
俺は席を立ってドア付近まで寄ると、ドギマギしている二人をついてくるよう促した。
「あの二人ってどういうこと?」
「異世界人がこのギルドの受付にいる。敵意は感じられないけど、一応用心しておいたほうがいいと思う」
「えっ、ほんとに?」
篠塚の質問に答えるとマテが素っ頓狂な声をあげた。
「みんなで行けばよかったじゃん」
「数が多いと威圧的に見えるだろ?」
「ふーん、まあ、ゼフもテューンも顔が威圧的だしねー」
めちゃめちゃトゲのある言い方をマテはした。どうやらまだ拗ねているようだ。だが、否定できない俺もまだまだ未熟である。だって、この世界に転移してきたときの最初の二人はまじで怖かった。篠塚もかなり怯えていた。
階段を下りきって、ホールへ足を踏み入れる。エルドリッチが暴れたあとがまだ残っていて、特にマテが蹴り飛ばされた時に出来た風穴がかなり目立っていた。
とりあえず、勇んで出てきたはいいけど、どうやって話しかけるんだ?
あのー、ちょっとすいません、異世界人ですよね? 一緒にきてもらってもいいですか?
これは露骨すぎるか?
すいません、今新人冒険者に対してアンケートに答えてもらうキャンペーンをやっておりまして、少しだけお時間いただけますか? 豪華景品をご用意しておりますので是非協力のほどよろしくお願い申し上げます。
自分でも何を言ってるか分からなくなってきた。
なんて思案していると、当の本人たちと目があった。女性のほうから鋭い眼光が飛んでくる。そして、つかつかと歩み寄ってきた。マテと篠塚は身構えたが、平和的に交渉を進めたい俺はしっかりと相手の眼を見て一歩前に出た。日本にいたときだったらあり得ない行為だった。師匠の眷属になったことによって死の意識が薄れたからかもしれない。
「私たちに何か?」
まさに絶世の美女。混じりけのない金髪に澄み切った緑の瞳。きつい目元だが、完璧だと言わせんばかりの造形。フードを被っていても滲み出てくる美貌に一瞬俺は見惚れそうになった。年は俺とタメか、少し上だろうか。
いかん、俺には師匠が……なんて冗談言ってる場合じゃない。何か気の利いたセリフの一つでも思いつけ、おれ!
「あ、俺、佐倉涼太って言います」
「用がないならこっち見ないでくれる? 迷惑なんだけど」
やっとのことで喉から出てきた自己紹介の場違いさ加減をスルーして、フードの女性は冷たく言い放った。
いや、まあ、ごもっともです。
「何? その言い方、あんたも大概失礼だよね?」
「はあ? なにこの子、私が悪いっていうの?」
「まあまあ、ツェーリ。ここは抑えて抑えて」
マテとツェーリと呼ばれた女性がいがみ合う寸前で、女性のツレの男が止めに入った。それでも、お互いにらみ合うのをやめない。
いつものマテならこんな風に相手に食って掛かるようなことはしないはずだ。やはり朝方のことが影響しているのだろう。こんなマテは初めてだ。
とりあえず、二人の喧嘩を衆目に晒すのはいかがなものかと、男のほうを納得させて師匠のいる部屋に連れて行くことには成功した。




