服を買わねば
――――――――佐倉涼太――――――――
ゼフの発言によって一同に動揺が走った。
俺は覚醒したあとのゼフの挙動、特に師匠と接する時、の変化に合点がいったため、多少は驚いたもののすんなり納得できた。まだチームに加入して日が浅いこともある。それは篠塚も同じことで、篠塚も自分がどうこうよりも周りの反応が気になるようだ。
ラフィカはかたまっていた。彼は自分の許容量を超えるとフリーズすることが多々ある。
テューンは複雑な表情を浮かべていた。彼女はこのチームを結成させた立役者だ。だけど、ゼフが解散を宣言せざるを得ないことも理解している。それに二人は幼馴染だ。俺には想像できない心の機微があるに違いない。
一番ショックを受けていたのはマテだ。ラフィカ同様かたまっているが、絶壁から突き落とされたかのように呆然としている。
「解散といっても、おまえたちはオーステア様の弟子である以上、かけがえのない仲間だ。ただ俺がリーダーじゃなくなる、それだけのことだ」
「簡単に言ってくれる。まあ、最初からそういう話だったんだ。自分のことは自分で決める。自分の望みを叶えるために……私も覚悟が足らなかったみたいだ」
ため息を一つ漏らしてテューンはすっとゼフから視線を逸らした。
信念を貫き、ただひたすらに渇望せよ。
その言葉が脳裏をよぎった。俺たちはパーティーとして行動するのではなく、あくまで個々の意思を尊重しなければならない。オーステア様と言葉でのみ交わした約束事だ。師匠との血の契約には関係のないことだ。拘束力はそれほどない。なぜなら、師匠はその反面で、好きなように生きろ、と最後に俺たちに告げたのだ。
その発言の意図は未だに俺の知り及ぶところじゃない。
「さぁ、今日も忙しいんだ。いつまでもしみったれた空気しょってる場合じゃない。まずは冒険者ギルドでミーティングだ。準備だ、準備!」
リーダーじゃなくなると言いつつ、率先して指示を出すのはもはやゼフの性分だろう。その勢いに流されてみんな準備に取り掛かった。といっても、荷造りするほど荷物はないのですぐに終わるのだが。荷物といえば、新しい服を冒険者ギルドへ行ったあとにでも揃えたいところだ。
マテとラフィカと俺、師匠の元の服はもう着れたものではなくなってたので、ウルリカ王女から頂いたちょっと高級そうな生地の服を着るしかなかった。特にマテは身長が低い分、サイズが合う服がなく、だぶだぶの服を無理やり着ているので非常に歩きづらそうだ。どうやらウルリカ王女がお忍び用に隠してあった服らしく、材質はともかく民衆に紛れても目立たないファッションなことが救いだ。
俺は兵士が着ていたであろう布鎧などを拝借し、女性ものの服を着させられるという暴挙をなんとか阻止することができた。
師匠は白を基調とした黒のラインが入った清楚だがちょっと堅い感じの服装をしていたが、今は普通のどこにでもいる町娘の恰好をしている。それでも、悪目立ちしているのはあまりに白い肌と髪、そして、可憐な顔立ちのせいだろう。
早いとこ、自分たちのセンスにあったものを買い直さないといけないな。
空間収納スキルのおかげで担いだり腰に巻いたりしなくていいので、他の人から見たら本当に冒険者なのかと疑ってしまう身軽な格好になってしまった。覚醒した俺とゼフはともかく、マテはすでに空間収納スキルをマスターしていた。たった一日でマテほど達者に空間収納スキルを使いこなせるようになる人はそういないらしい。
テューンと篠塚は辛うじて、自分の持ち物ぐらいなら収納できるスペースを習得していた。ラフィカは苦手らしく少しも空間収納スキルを使えそうな様子が見られなかった。
「あれ? ラフィカ、準備しないの?」
マテは突っ立ってるだけのラフィカに声をかけた。
「ああ、俺はいけないんだ。しばらく別行動することになった」
「え……」
マテの元気がみるみるうちになくなっていった。一番仲が良いラフィカと離れ離れになるのが辛いのだろう。マテからしてみれば今日は朝から踏んだり蹴ったりで最悪な日なのかもしれない。
さりげなくマテの肩に手を回して宥めるテューンは惚れてしまいそうなほどイケメンだった。




