解散宣言
――――――――佐倉涼太――――――――
王女に貸し与えられた部屋に戻ると、そこには体育座りでうずくまっているマテの姿があった。俺たちが帰ってきたことに気づくと、立ち上がって取り繕うように表情を作った。
ちなみに、この部屋はサージェスの執務室だった部屋で、内装は豪華だがベッドがなく、雑魚寝をしてたため非常にその時の絵面は汚いものだった。マテが座ってたのはフカフカのソファーの上だ。
「マテ、大丈夫か?」
「迷惑かけてごめんね。それに、黙っててごめん、私が貴族だったって……」
「確かに驚いたけど、私も聞かなかったからね。私だって辺鄙な村の生まれだってことあんまり知られたくないし、冒険者ってのは過去をあまり掘り返されたくないもんだ」
テューンは優しく微笑んでマテを許した。テューンだけじゃない。みんなテューンの言葉に頷いて、気にしてないことを示した。マテもそれに安堵したのか珍しくしおらしかった顔がいつもの元気な笑顔に戻った。
「さぁ、マテ。今後の目的が決まった。今日はその準備にかからないといけない」
「何するの?」
「……正直に言うが、ウルリカ王女の依頼でもある」
マテは露骨に嫌悪感を顔に出した。どうやらまだ引きずっているらしい。無理もない、面と向かってディスられたのだ。本人がそのつもりがなくても少なくとも俺にはそう聞こえた。実際、マテも負い目から来るものもあるだろうが、そう捉えたに違いない。
「別に受けなくてもよかったんじゃ?」
「まあ、そう言うな。本職の仕事なんだから受けないわけにはいかないんだから」
マテがどういうことかと首を傾げる。
「依頼はこの国が利権を得ているダンジョンの探索だ」
エルドリッチの報告と強要とお願いのうち、お願いにあたるものの内容は俺たちが腕利きの冒険者であるということを買っての依頼だった。
「つい最近、我が国が運用しているダンジョンに未踏の区域があることが発見されました。本来ならば今日にでも探索隊が冒険者ギルドと合同で編成されるはずでした。今、我が国は利益拡大に向けたダンジョン探索に人材を登用する余裕はありません。だから、私たちの間では優先度の低い案件でした。しかし、そうもいかなくなりました」
「国お抱えのダンジョンに急を要することか。タイミング的にサージェスが何かやらかしたか?」
当てずっぽうかと思われた師匠の発言にこくりと頷くウルリカ王女。
「サージェスが絡んでいると見ていいでしょう。そうなると、私たちも放置するわけにもいきません」
「なるほど、それで私たちに白羽の矢が立ったわけか。それで、予想される事態はなにが考えられる?」
師匠の問いにウルリカ王女は携えていたケースを開けることで答えを返した。そのケースの中身はエメラルドのブローチ。王族に献上するに相応しい装飾が施されている。
「このブローチを渡さなければならない人がいます。もし貴方がたがこの依頼を受けてくれるなら、そして、もし渡すことができたら伝えてほしいことがあります」
「……何を伝えてほしい?」
「私は貴方を恨んでません、と」
「……なるほど、大体の事情は察した。私はこの頼み事を引き受けてもいいと考えてる。だが、もし私の弟子の中で断りたいと思う者がいるなら、私はそちらを優先する」
師匠は最終的判断を弟子に委ね、満場一致でウルリカ王女のお願いを聞き届けることに賛成した。そもそも俺たちの本業は冒険者で、冒険者はダンジョンを探索するものだ。拒む理由がなかった。
ウルリカ王女は俺たちが寝ている間にすでに冒険者ギルドと掛け合っていて、ギルドのほうではすでに準備に追われているらしい。出発は明日の明朝を予定しているので、今日は顔合わせに一度冒険者ギルドに訪問しないといけない。そこでお互いの役割や必要な物資など細かい調整が行われるだろう。
ちなみに、俺は知らないうちにエルドリッチのお気に入りになったらしく、話が終わったあとにエルドリッチが俺に絡んできた。ちょうどいい機会だったので、俺は彼になぜ地球のことを知ってるのか尋ねた。彼には地球人離れしてる面が多々あったので地球人ではないことを前提にかなり遠回しな聞き方をしてしまったかもしれない。
その質問へのエルドリッチの返答は、「答えられない」というものだった。
「今でこそ俺たちぁ利害関係が一致しているが、これからもそうだとは限らねえ。当面の目標は異世界のやつらがのさばらないようにすることだが、それが最終的な目的ってわけじゃないわけよ。俺の立場は結構特殊でな。話さなきゃいけねえときがきたら話すさ。だから今はすまねえが話せねーんだ」
どうしても聞きたいわけじゃなかったから俺はその言葉を受け入れた。ほんの世間話程度の話題だった。だって、まともに答えてくれるとは到底思ってなかった。だけど、エルドリッチは割かし誠実にそのことについて返答してくれた。だから、話さなきゃいけないときがくることを切に願うことにする。その時までの我慢である。
その代わり、エルドリッチはどうやってあの骸骨姿の神を傷つけることができたのか、あの剣についてのことを教えてくれた。といっても、師匠の入れ知恵でダメ元で聞いただけなのだが。
曰く、元々あの剣は、「魂だけを斬るために作られた剣」なのだが、エルドリッチの世界では実際にそういう使い方をされたことがなかった、とのこと。だいぶ焦点をぼかされた言い方をされたが、魂だけを斬れるならあの頑丈な神様を傷つけることも可能か、と自分を納得させた。
とにかく、そういう流れから俺たちはマテを迎えにきたのだ。そして、しばらくの間とはいえラフィカは別行動することになる。ラフィカもそのための挨拶をしないわけにはいかない。
「みんな、聞いてほしいことがある」
テューンの説明にマテが溜飲を下げたところで、ゼフが話を切り出した。
ゼフは師匠の弟子となる前から俺たちのリーダーだ。だから、ゼフの指示には絶対に従ってきたし、弟子になってからもみんな何となくそうしている。たぶんみんななんだかんだ人間をやめたところで異変が解決すれば元の鞘に収まるんじゃないか、という淡い期待を寄せていたからかもしれない。
「なあなあになってたことをはっきりさせようと思う。正直俺は最初師匠のことを認めてなかった。『夜よりも暗い闇』が晴れればそれでいいと、それだけの理由で契約した。だけど、今はオーステア様以外に俺の師匠はありえないと思っている。みんな、まだ俺のことをリーダーとして見ているかもしれない。だからこそ、ちゃんと口にして宣言したい」
ゼフは続けた。
「このパーティーを本日をもって解散する」
その淡い期待を見事に打ち砕いてくれたのはリーダーであるゼフだった。




