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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第一章 囚われしサージェス
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暗闇の中で

――――――――ゼフ――――――――



 玉座の間から僅かな光さえも根こそぎ奪われた。あれが異世界の神の力だというなら、その力は死そのものだ。あんなものに触れたら、いや、触れるだけで存在が消滅してしまうだろう。

 その力が師匠とエルドリッチに浴びせられた。その先に待つのは絶望だ。あの巨大なエネルギーに空間がかき乱され、師匠の気配を探ることすらできない。だが、俺はあんな広範囲の攻撃を避けられるはずがないと半ば諦めかけていた。


 (ゼフ、聞こえるか?)

 「……師匠! 生きてたのか。それにこれは……」

 (エルドリッチに助けられたよ。今の私では到底防ぎきれるものではなかった。さて、私が念話で話しかけているのはゼフ、君だけだ。そして、これは私の本来のスキルではなく、『竜体』によるスキル使用だ。だから、私の魔力の関係上手短に話す。早速だが、君には今から覚醒してもらう)

 「状況が呑み込めないんだが……」

 (敵に関しては問題ない。おそらく彼らはこうなることを忌避してこの能力を使用しないでいたのだ。視力だけではなく、聴力や嗅覚、全ての感覚がこの空間から取り除かれた。あのスキルの副作用だろうが、おそらく完全体の奴ならこの空間を自在に動くことができたはずだ)

 「なるほど……だけど、どうするんだ? いくらやっても俺は覚醒できなかった」

 (やり方が間違っている。ゼフ、今から私は君の精神に干渉して覚醒するように仕向ける。だから、君の同意が必要だ。無理やりやってもいいが、それは私の本意ではない)

 「どういう意味だ? やり方? ちっとも分からない。俺は……パーティーのみんなを守りたい。そう強く願っている」

 (ゼフ、君は本音を隠している。君が本当はどうしたいのか、君自身が気づかなければならない。私の言葉ではなく。だから、覚醒できるかどうかは君次第だ)


 俺は言葉につまった。だけど、選択の余地はなかった。師匠がこのタイミングで俺にだけ声をかけてきたということは、起死回生のチャンスが俺にしかないということだ。

 俺が本音を隠している? 一体どういうことだ? 何一つとして師匠の意図がつかめなかった。


 「やってくれ。師匠を信じる」


 返事はなかった。だけど、師匠が何かをやったのはすぐに分かった。

 闇が晴れて、見覚えのある部屋が現れた。その光景に俺は懐かしさとともに悪夢を蘇らせた。なんて仕打ちだ。そう師匠を呪った。だけど、この部屋が映し出されたのには意味がある。だから、俺は意を決して足を前に出した。


 「隊長、少しは休憩できたんですか? 疲れているといざというとき満足に動けませんよ!」


 ああ、レベッカだ。そこにレベッカがいた。俺を庇って死んだ、俺の部下だ。俺は彼女を守るどころか、彼女に守られてしまった。

 言葉にならない感情が渦を巻いた。俺は彼女に近づこうと一歩足を進めた。

 フーゴ、ヨハン、ルーカス、アルフレッド、それにブルーノ。いつの間にか彼女の隣にかつての部下たちが並んでいた。

 ブルーノ、お前は本当に手のかかるやつだったよ。だけど、一番努力したのもおまえだった。ルーカスはブルーノに便乗して悪さをする腰ぎんちゃくだった。アルフレッドに毎回喧嘩で負けてたのに懲りることを知らなかったな。フーゴは仲間想いの優しいやつだった。おまえが怒ってるところ見たことがない。そして、レベッカ。みんなみんな、俺の大切な部下だ。

 

 「おい、やめろ。師匠……オーステア!!」


 その部下たちが全員炎に飲み込まれていく。あの時と同じように、俺だけを残して。炎の中で悲鳴を上げる部下たちの声が耳に届く。

 やめろ。なんでこんなことをする!

 俺は火の中に飛び込んで助けようとレベッカの腕を掴んだ。だが、レベッカはすでに事切れていた。

 そして、俺はここが俺の記憶の中だと理解する。あの時と同じレベッカの焼死体を見て、焼け落ちた屋敷の中、部下たちの亡骸を必死に探した記憶が想起される。

 傭兵という仕事に就いた以上、いつ死んでもおかしくはない。いつだって覚悟してきたことだ。それでも、初めて育てた部下を失った気持ちを整理するのは難しい。俺は罪悪感に苛まれ、無気力に日々を送るしかなかった。

 それが俺の過去だ。それ以外に何があるっていうんだ!

 俺は師匠に怒りをぶつけた。こうすることに何の意味があるのか、いたずらに俺の心を弄んでいるようにしか見えなかった。ようやく、俺はテューンと一緒に新しいパーティーの中で居場所を見出そうとしているのに。

 そこで、ふと俺の心の奥底でくすぶる感情があることに気が付いた。師匠に抱いた怒りじゃない。その感情を自覚するとそれはぐんぐんと込みあがってきて、俺の心に憑りついて離れなくなった。

 それは部下が殺された不条理に対する憤怒だった。

 そうだ、ずっと俺はこの感情を自分自身からもひた隠しにしてきた。傭兵が任務で死ぬのは常だと自分を納得させようとしていた。あの日から犯人が特定されるようなことがあったら俺は感情を爆発させていただろう。だけど、襲撃者は結局判明せずに俺は拳を振り上げることさえできなかった。無気力だったのはこの感情を抑え込むためだった。

 俺は……テューンのことはもちろん、ラフィカのこともマテのこともリョウタやトモエのことも大切に思っている。やっと手に入れた新たな人生のはずだった。

 だけど、それ以上にこの煮えたぎる憎しみを抑えることができない。

 ああ、師匠。今やっと理解した。俺の本当の望みは復讐を果たすことなんだ。あの日起こった出来事の真相を解明して、俺の部下を殺したやつに罪を償わせる。それが、俺の渇望するものだ。

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