必殺技
――――――――佐倉涼太――――――――
異変を察知してからすぐに俺はロニーにそのことを打ち明け、ウルリカ王女の元へ戻る決断をした。ロニーがいなければしばらく俺は考えあぐねていたことだろう。それすら許されないほど急を要する事態に陥っていることを知らされたのは篠塚の口からだった。
ロニーはついてこようとしたが、ウルリカ王女の護衛にあたるよう俺が説得した。
ロニーは相当の実力者で、吸血鬼になりたてだった俺なら手も足も出なかったかもしれない。だけど、そのさらに上の段階に今の俺はいる。覚醒して『竜体』のスキルを獲得した際に流れ込んできた師匠の戦闘に関する記憶が、まだ習って間もない俺の剣術の完成度を高めてくれた。
その斬撃が師匠に向かって打ち下ろされる骨の塊を打ち砕いた。両断できなかったのは口惜しいが、確実に俺は成長している。それでも、目の前にいる自称神様のドレス姿のスケルトンに恐怖心を抱かざるを得なかった。あの骸骨が放つオーラは師匠に近く、そして師匠とは違ってひどく歪んでいる。師匠が戦神なら、あれは死神だろう。
「リョウタ、しばらく相手をしてやってくれるか?」
「……師匠、正直あと一発防げるか防げないかなんですが!」
「なら最低一分耐えろ、涼太。一分でいい」
「マジですか」
「そのぐれえの根性みせろ」
エルドリッチの無茶ぶりに顔が引きつる。だが、あの顔はマジの顔だった。肩から腕がもげているのにまだエルドリッチの心は折れていないのだ。心底感服する。ならば、その要求に応えてみせようと俺は恐怖にかたまった身体を奮い立たせた。
二本だった死神の長い腕がさらに四本生える。目を疑いたくなる光景だったが、今はそんなことをしている場合じゃない。
「いや、やっぱ無理!」
俺は防ぐことを諦めて、死神の懐に飛び込んだ。それで一時的にでも師匠とエルドリッチから攻撃の興味をそらせるはずだ。どのみち俺は無事ではすまないだろうけど。エルドリッチが何かをしようとしているならそれに賭けるしかない。
三本の腕が俺を捕えようと地面に突き立てられる。俺はそれを掻い潜って死神との距離を縮めた。
よし、ばっちしだ!
と思ったのも束の間。俺は横から飛んできた別の腕に殴打され壁際まで吹き飛ばされた。想像を絶する衝撃とともに意識が刈り取られかけた。すぐに再生するだろうが、腕の骨は砕けてしまっている。『竜体』で耐久度が増してるほうの腕じゃなかったら俺はしばらく使い物にならなくなっていた。
俺はエルドリッチに頼まれたことを全うしようと顔をあげた。
悲鳴が響き渡る。死神の下半身、頭蓋骨が密集している部分に三本の青色に淡く光る半透明の剣が突き刺さっていた。そして、その剣がもう一本、エルドリッチの手から投げ放たれる。
死神はたまらず後退し、その剣の脅威から逃れた。
「ナイスファイトだ」
一分耐えるというのは方便に過ぎず、どうやらちょっとした隙を作るだけでもよかったらしい。
師匠は師匠でエルドリッチのもげた腕を回収してエルドリッチに投げ渡した。そんなものを回収してどうするのかと思いきやエルドリッチはそれを自分の肩にはめ込んだ。そして、ちぎれ飛んだほうの腕を動かしてみせたのだ。
「手に火傷のあとが残ってなかった時から睨んでいたが……やはりそうか」
「呪われてんだよ、この身体はな」
エルドリッチはあまり面白くなさそうに腕を回した。致命傷を負って起き上がる我らパーティーも大概だが、この男も充分人間離れしている。
「相変わらず忌々しい身体ですねえ。あの時素直に死んでさえいてくれればここまで煩わされることもなかったというのに……」
あれがおそらくサージェスだろう。王座の横で戦いの成り行きを見守っている。彼自身はまったく戦えないわけではないが、エルドリッチに遠く及ばない実力ゆえに邪魔立てしないように身を引いているのかもしれない。いや、ダンジョンを作成して時間稼ぎをしていたことを失念していた。その動機が明らかにならない限り油断しないほうがいい。
「あまつさえ我が神の美しいお姿に傷をつけた! なんという侮辱! なんという冒涜!」
「うるせえ! てめえの信心なんて知ったこっちゃねえ。だがよぉ、てめえの都合でこの世界に迷惑かけるつもりなんなら俺の敵だ。ただそれだけのこった。いまのうちにイキり散らしておけよ、三下。あとでてめえの顔面にクソ塗りたくってやっからよ」
「うちの弟子に一時間に一回クソしてる戯けが一人いるが、貸そうか?」
「やべえだろそいつ」
ラフィカのことだと一発で分かった。
「ほほほほざけ、ゴミクズどもが! 今こそ! 我が神の裁きを今こそ受けろ!」
サージェスが叫びに呼応して、死神が頭蓋骨を抱えた本体のか細い腕を前に突き出した。すると、頭蓋骨の口の先に真っ黒な球体が生成された。膨大なエネルギーを内包している。今までの攻撃とは明らかに一線を画する一撃が待っていると確信する。
「……ありゃやべえぞ。オーステア、防ぐ手立てはあんのか?」
「控えめにいって、無理だな」
「控えめじゃなかったら?」
「死ぬ」
極限まで凝縮された黒い球体が爆ぜ、そのエネルギーが師匠とエルドリッチに向けて放たれた。その範囲から辛うじて離れていた俺は師匠たちが壊した壁からちょうどゼフとテューンがやってきたのを見た。




