助太刀
――――――――オーステア――――――――
対抗できている、と言えば聞こえはいいかもしれない。触手のようにうねる骨の集合体をかい潜り、爆ぜるように飛散する骨のかけらを払いのける。本体の懐まであと一歩。その寸でのところで阻まれる。
あと一歩近づけられればエルドリッチの刃が届く。だけど、その僅かな距離が敵と私たちの絶対的な差だった。
「火力がたらん」
エルドリッチでさえあの高密度の骨を魔力で塗り固めた壁をぶち抜けない。四方に張り巡らされた無数の骨が縦横無尽、変芸自在に組み換えられる。休む間も無く猛攻が繰り出される。
私でさえ驚いたことはエルドリッチの体質である。私の弟子たちとの戦闘ではその性質に気付けるほど彼は消費していなかった。彼の魔力は大技を繰り出したとしても、ものの数分のうちにほとんど回復してしまうのだ。そして、それは体力も然り。竜殺しがどう為されたか想像ができるというものだ。そして、彼はその底なしの魔力と体力をもって異世界の神と対峙している。
「その様子じゃ温存しておく意味はなかったのでは?」
「全快とまではいかねえ。大技を打ち込むためのストックがいるんだ」
「それで、その大技を打ち込んであの防御を崩せるか?」
「あるように見えるか?」
真面目なのかおどけてるのか分からない表情と口調だ。
空間収納スキルで貯蓄してある私の剣もすでに三つ目を取り出したところだ。失敗作とはいえ『魔鉄錬成』で極限まで精錬した剣をこうも叩き壊されていては認めざるをえない。あれをまともに食らうようなことがあれば、私の身体でさえ無事ではすまないだろう。
今のところ打つ手はなし、か。
「一つ試したいことがある」
「ほう」
「この世界に来てから意外なスキルが役に立つことがあってな。エリニエスにゃ度肝を抜かされたもんだ。だからよ、ここは一つあいつに倣ってみることにした」
「なるほど、つまりもう一度アレに近づかせればいいわけだ」
「お、よくわかってんじゃん」
「さっきからそれしかしてないからな。先ほどとは違う結末になることを切に願うよ」
私は剣をぎゅっと握る。
今はまだ魔力の消費を最小限に抑える必要がある。やけになってはいけない。好機の到来を辛抱強く待つ。だが、同時にできることは全てやらなければいけない。私はエルドリッチの提案に乗ることにした。とは言っても、先程とやること自体は変わらない。
敵の攻撃をお互い避けつつ、エルドリッチの攻撃の瞬間だけ彼への攻撃を私が肩代わりする。その攻撃を受け流す際に私の剣は二本も折れた。
「学習しない方々ですね! もう通用しないとお分かりでしょう?」
「わりぃがもう少し付き合ってくれっか? あんまり雑なことしてっと弟子に後で煽られるんでね」
最高速まで最短でギアを上げ、敵の懐へ飛び込む。骨の破片が腕に突き刺さろうとも、尖った肋骨が肩を掠め血が吹き出ようとも、エルドリッチの足は止まらない。出遅れたが私はその動きにきっちり合わせた。今やエルドリッチを傷つけるものは何もない。私が全て遮断する。
まったく無茶をする!
射程に入り、エルドリッチは武器を出現させる。刀身が淡く青色に光る半透明の美しい剣だ。
「サルの一つ覚えがっ!」
サージェスの怒号が響く。その攻撃は無意味だと。だが、私は確信する。
この刃の一閃はあの神に通る!
そして、その斬撃は格子のように組み立てられた骨の壁をするりと抜けて、やつのドレスを肩から袈裟に切り裂いた。甲高い悲鳴が部屋全体に響き渡る。それがあの神のものだと判断するには申し分のない傷があの骸骨の胸元にはあった。
初めてダメージを与えられたのだ。エルドリッチの口元に笑みが浮かぶ。だが、その喜びも束の間のこと。彼の表情が一変する。
今まで玉座に座って動きもしなかった敵の本体が、骨がきしむ音と擦れる音を同時に大きく立てて立ち上がったのだ。やつのドレスに隠れていた下半身は大量の頭蓋骨でひしめき合っていて、その全てが声にならない絶叫を上げている。
「はっ……動けんのかよ!」
つよがりとも受け取れる発言のあと、エルドリッチは腕のように形作られた密集した骨に殴られ、後方に大きく叩き飛ばされた。壁にたたきつけられないようにエルドリッチの身体を受け止める。だが、支えきれずに私たちは部屋の中央に投げ出された。
それでも、攻撃の手は緩まなかった。怒りに任せて振り上げられた腕が打ち下ろされる。
まずい! あれは受け流せない!
そして、はっと気づく。エルドリッチの右肩から先がなくなっていることに。それほどの威力の攻撃を受けたのだ。彼にはまだ意識があったが到底回避できるような状態ではなかった。だが、エルドリッチにはアレにダメージを与えられる手段をもっていることが実証された。
魔力を……使うしかないか。
私が覚悟を決めようとした矢先、白い刃が迫りくる一撃を打ち砕いた。
「師匠、お待たせいたしました」
「……待たせすぎだ、リョウタ」
明らかに目の前の圧倒的存在に怯えながらも、勇敢に剣を振るう弟子の姿がそこにあった。




