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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第一章 囚われしサージェス
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焦燥

 ――――――――オーステア――――――――


 私は瞬時に理解した。ラフィカとマテはまだ生きている。しかし、あの化け物の中で、だ。微弱になった気配が今にも消え去りそうだ。それが痛ましくて仕方ない。

 サージェスの崇拝する神は一言で表せば死神だ。

 骨だけになった自分の首を大事そうに胸元で抱えている。その抱える腕さえも肉と呼べる部分がなかった。一見ただの白骨死体だ。だけど、その身体から湧き出るオーラはそれを否定している。禍々しく底が深い闇のオーラ。アレを直視するだけで常人ならば意識を持っていかれるだろう。

 そして、目を瞠ったのはその下半身。夥しい種類と数の骨がひしめき合って地面に根を張っている。注意深く観察すると、骨の集合体は壁をつたってこの広い部屋全体に張り巡らされていた。この敵は見た目よりもずっと巨大だ。この部屋全体がやつのテリトリーとみていい。


 「中々にしぶといですね、あなたは。御見それいたしました」

 「心にもないことぁ言うもんじゃねえよ。いやぁ、そんなことよりおめえさんの顔がひきつってるのがたまんねえな。そのツラ拝めただけでも壁ぶちやぶってきた甲斐があるってもんよ。それによぉ、あんたらのスキルお粗末すぎねえか? 自分のいる部屋ごとテレポートしてきて再利用にクールタイムが必要とか、自称神様はやることが違うねえ?」

 「あぁああああ!? キサマッ、我が神を愚弄するのかっ! キサマさえいなければこのような! このような不完全な形で降臨されなかったのだ! ただ殺すだけではぬるい。ぬるいィ! 我が神の偉大さに泥を塗ったキサマを! ちっ、ち、恥辱のかぎりを尽くして! 裁いてやる!」


 サージェスとエルドリッチがにらみ合う。その間も骸骨の顔は私のほうを向いていた。ただの頭蓋骨だというのにみられている感覚がねっとりとこびりつく。

 窮地に立たされるというのはいつまで経っても慣れないことだ。それに、この身震いは戦神と呼ばれてから久しく経験していなかった。だけど、その反面私は奮い立ってもいる。今は亡き仲間たちとの無謀な挑戦。それが私の中で呼び起こされようとしている。

 さて、今の私でどこまでできるか。リョウタが取得した『竜体』のスキルだけでは遠く及ばない。ゼフ、おまえだけでも覚醒してくれることを心より祈ってる。


 

 ――――――――ゼフ――――――――



 また俺は仲間を見殺しにしてしまうのか。ラフィカとマテの気配が消失して、俺は傭兵時代の悪夢をフラッシュバックさせた。

元々俺とテューンは同郷の仲でお互い出世を夢見て傭兵ギルドに入った。将来的には冒険者になるつもりだった。冒険者には資格が必要で、そのためのお金を工面するために審査の緩い傭兵ギルドに所属する人間は少なくない。オーステア様の試験は俺がお金をだすことにしていた。師匠の異世界での知識はそのまま冒険者の資格試験で応用できたから何の問題もなかった。俺とテューンの故郷は貧しい田舎で、勉強する環境も整ってなかった。

傭兵ギルドは好きな相手とパーティを組めるわけじゃない。ギルドから指定された隊に配属される。俺とテューンは離れ離れになった。

 配属された隊のメンバーとともに起きてから寝るまでを過ごし、軍隊のように規律を重んじる。上官の命令は絶対で、訓練は個人のスキルアップよりも連携に重点が置かれた。

 俺がチームのリーダーに任命されたのは三年目だった。

 テューンは資金ができたら早々に冒険者に転向した。だけど、俺はなんだかんだ傭兵としての仕事が気に入ってしまった。テューンはそのことを怒ったが最後には折れてくれた。

 傭兵ギルドには金がないから仕方なくギルドを頼った跳ねっ返りが多く、俺の隊にも例外なくそういう連中はいた。非常に手がかかるやつらだった。だけど、一年もすれば共同生活を営む者同士、一体感が芽生えてくる。それでも、褒める回数より殴る回数のほうが多かったが、部下たちは多少の自重と勤勉さを学んだ。決して良い人生とは言えなかったが俺なりに充実した日々だった。

 だけど、そんな日々は唐突に終わりを告げた。

 傭兵ギルドは自分らに罪がなすり付けられないように護衛する人間や団体を事前に調査する決まりがある。社会的に恨みを買っている人間や、きなくさい団体と関わり合いになるのを避けるためだ。だけど、その調査は完璧ではない。誰だって見落としはある。

 ある夜のこと、商人の屋敷の警備を担当していた俺のチームと他にいた三チームは、大挙して押しかけてきた武装した何者からによって最後には屋敷に火をつけられ、商人もろとも焼かれてしまった。

 俺が生き残ったのは、俺のチームの魔術師が商人ではなく俺のために命懸けで魔術を行使してくれたから。その彼女も俺に覆いかぶさるような形で息絶えていた。俺はそれから自分だけが生き残った罪悪感とチームを守れなかった無力感に苛まれた。あれほど好きだった仕事が全て嫌になった。

 俺が引きこもっていた宿にテューンが現れるまで、俺は生きる気力を失った廃人だった。


 「ゼフ! 落ち着いて! 取り乱す気持ちはわかる。だからこそ、冷静になるべきだ」

 「冷静? ああ、そうだな。だが、どうすりゃいいんだ? こんなことだったら……いや、なんでもない。わがままを言うところだった」

 「わがまま? 部下を守って先に死ぬようなことのこと?」


 テューンが咎めるような視線を俺に向ける。テューンは基本的に仲間に甘く、自分に厳しい。だけど、俺にだけは辛辣になることがある。大抵痛いところを突いてくるので俺はまったく言い返せたためしがない。今だってそうだ。あの時の光景が脳裏をよぎったということは、いまだに俺はあの日から決別できていないのだ。テューン以外に言われたら俺は激高していたかもしれない。


 「自分もみんなも助かるやり方を考えて。確かに私たちは無力かもしれない。でも、自棄になったらダメ。今の私たちにはオーステア様だっている。とにかく今はオーステア様の気配を追いましょう。リョウタもきっとそうしてる」

 「ああ、わかった」


 テューンに諫められ、冷静さを少し取り戻せたが、俺の気はまだ急いていた。

 自分が死ぬ覚悟はできている。パーティーの全員にその覚悟を持つことを指導してもいる。いつだって何が起こるか分からないのだ。だけど……それでも、あの時の思いが去来する。自分の仲間が死ぬことは耐えられなかった。

 

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