奇襲
――――――――マテ――――――――
ラフィカとともに次から次へと湧いてくる鳥のような魔物をばったばったと倒していく。対空魔術をもつラフィカと飛び道具を扱える私がいれば難易度は激下がりだった。しかも、私はパーティーの中でおそらく空間収納スキルを一番早くマスターしたかもしれない!
みんな『魔鉄錬成』のほうにすっごく食いついてたけど、毎回飛び道具の携帯数を工夫して増やせないか悩んでいた私からすれば、どう考えても空間収納スキルのほうが画期的だった。最初は全然感覚がつかめなかったけど、今は自分の身体の一部のように使いこなすことができる。
これはもう才能なのでは?
こういうところですぐ調子に乗るのが私の悪い癖とよく言われることがある。でも、私は今完全に舞い上がっててラフィカに五分おきぐらいに自慢してる。ラフィカはこういうとき絶対に否定的なことは言わないし、親みたいに興を削ぐようなことも言わない。将来的に見てこれは大したことのないちょっとした通過点に過ぎなくても私はそれを喜んでいたいのだ。
なにせ、私が些細なこととはいえゼフやテューンの先を越したのだ。すごいことなのだ!
「どんだけ武器隠し持ってるんですか……」
「へへー、すごいでしょ?」
傭兵ギルドの一人が声をかけてきたので早速私は自慢話を聞かせてあげるとする。
彼らの装備と魔術ではあの鳥を安定して倒すことは難しいようだ。それもそうだ。傭兵ギルドは対人の訓練をしているから空にいる敵への攻撃など想定しているはずがない。
彼らが何のためにこのダンジョンへ連れてこられたかというと、このダンジョン終盤にいるゾンビ兵士と戦うためだ。だから、今は役立たずでも仕方がないのだ。
「……そういえば、近衛兵ってラフィカの元仲間?」
「脈絡なさすぎじゃない?」
「なんか気になっちゃって」
「……元仲間だよ。でも、変に気をつかわなくていいからね。まったくなんにも感じてないわけじゃないけど……まあ、とにかく大丈夫」
「本当に? 人間やめたからとかじゃなく?」
私は念のため他の人に聞こえないように声を潜めた。
「感情が抑制されてるとかそういうこと? そういうのじゃないよ。安心して。そうじゃなかったらマテもそんなに舞い上がったりしないから」
気分が浮ついてることを指摘される。でも、確かに人間じゃなくなってから別段私が私じゃなくなっていくとか、そういう人格の変化は見受けられなかった。ただちょっと血に対して抵抗がなくなったことぐらいだ。いや、飲む欲求がある時点でちょっとではないのだけど。
私は流れでみんなについていっただけなので、師匠がどうとかはまだ何もわからない。願いがあるとすれば、これからもみんなと一緒にいられたらいいな、とこの期に及んでなんとなくそう考えてるだけ。私だけじゃなく、この国全体が危機に瀕しているというのにだ。
だけど、リョウタくんが覚醒してからみんなに心境の変化があったのは嫌でも分かった。特にゼフとテューンはわかりやすい。それぞれ別の思惑があってのことだろう。
私は私自身のことを先送りにした。だって、私にはまったくイメージできない出来事だからだ。
ラフィカは一体どう思っているのだろう?
「……ねえ、ラフィカ?」
「これは……!?」
誰かが叫んだ。
誰なのかはもうわからない。だって、その誰かはすでにいなくなっていたから。
「ようこそ、おいでくださいました。そして、我が神への感謝とともに喜んでその身を捧げてください」
見ていた光景は、ダンジョン化した王宮の通路ではなく、玉座がある大きな一室に代わっていた。
玉座の隣で壮年のふてぶてしい面構えのおっさんが礼儀正しくお辞儀をしていた。そして、玉座にはドレスで着飾った骸骨が座っていた。そのミイラからはオーステア様と似た禍々しいというか、神々しいオーラを纏っていて、オーステア様と違うところといえば、その暴力的な力が異世界にきてからもまったく失われてはいないことだった。
おそらく宰相サージェスと思われる男はニタァと笑みを作った。狂信者の笑顔とはこういうものなのだろう。私の背筋に冷たいものが走った。
私とラフィカだけがこの空間に転移したんじゃない。
他の十二人のメンバーはすでに神と呼ばれる存在に食われていた。ドレスの下から根のように分岐する
絡まった夥しい骨の先。そこに息絶えた冒険者と傭兵たちがぐちゃぐちゃに潰されて骨の中に埋もれていく。彼らはこれからその骨の一部となるのだろう。
そして、私たちもそうなるのかもしれない。
そこで私の意識は途切れた。




