動きだす局面
――――――――篠塚友恵――――――――
探索の効率化を図って4つのグループに分類された中の本隊に私は指名された。それはつまり、ウルリカ王女が乗った馬車を護衛する隊であり、エルドリッチさんと師匠がいるグループだ。ついでに、エリニエスさんも。二つのギルドのメンバーも五人ずつ選出され、王女の護衛も兼ねるとあって士気は上々だった。エルドリッチさんの脅迫まがいの激励がなければ。
吸血鬼になった私の治療魔術は魔力がずば抜けていて、ギルドの上位のメンバーよりも高度なことはできないが単純な魔術なら中位の魔術に匹敵する効果を生み出していた。
私も覚醒することを求められている。そうしたいのは山々だし、同じ日本人である、しかも近しい同級生である涼太に先を越されて焦ってもいる。
覚醒の条件は、強く願うこと、というひどく曖昧なものだ。だけど、それは師匠の弟子となる前から口を辛くして言われていたことでもある。
渇望せよ。そう師匠は再三に渡って私たちに告げた。
私が願うこと。それはみんなの役に立ちたい。ただその一点に限る。それを人じゃなくなってまで求めるというのは自分でも歪んでいると思う。だけど、それだけじゃ足りないらしい。
涼太にこっそり尋ねると、その願いが自分の死よりも優先されるものならもしかしたら覚醒しやすいかもしれない、と教えられた。それは本当に難しいことだ。私は自分の命が大事ではあるが、限りなく優先順位の低いものでもある。私なんかよりこの世界の役に立つ人間なんてそこらじゅうにいる。私は平凡な人間だけど、せめて涼太たちと肩を並べて歩ける程度には強くなりたい。
私は涼太の言った条件を満たしているかもしれないが、きっと私は自分の命について軽薄すぎるんじゃないか。そんな気がしてならない。
「おかしい」
エルドリッチさんが唐突にそんなことを言う。
一体何のことか首を傾げるが、師匠はエルドリッチさんの感じた違和感を理解しているらしい。同様にエリニエスさんも険しい表情をしている。子供っぽい外見とはつらつとした所作に騙されかけたが、彼女は私よりも腕の立つ魔術師だ。雰囲気を一変させたその表情が物語っている。
「この気配は私も身に覚えがある。予想は裏切られたな、エルドリッチ。歩く死体がくるぞ」
私は目を大きく見開いた。
エルドリッチさんの説明では、ゾンビは異世界の神の恩恵を多く授かっていて、戦うための知能が備わっているとのこと。しかも、そのゾンビは元々王直属の近衛兵の肉体を再利用したもので、数は少ないが屈強で抜群の戦闘センスを有してる。それが百人いるらしい。
それが今近くまで来ている。
「あんたは魔力を回復できねえんだろ? ここは不本意だが俺もやり合うしかねえな」
「いや、要は魔力を使わなければいいだけの話だ。剣術ならそれなりに嗜んできたつもりだ。加勢させていただこう」
師匠は空間収納スキルで何もないところから腰の高さほどの黒い剣を取り出した。なんだかサマになっててちょっと羨ましい。
「助かる」
「ここで攻勢にでたとなれば、やはり狙いは王女だな」
「ああ、違いない。だが、腑に落ちねえな。タイミングがよすぎる。ダンジョンまで作っておいて守備一辺倒だったのになぜ今攻勢にでやがった?」
「それについてはかなり高い確率で私の推測が的中するだろう」
「……どういうこった?」
「私がハリボテだとバレたんだ」
エルドリッチさんは否定しなかった。敵の懸念材料が一つ消えたのだ。しかも、最大の障害ですらあったはずだ。
それが何を意味するか想像に難くない。
ここから先、サージェスの手が緩むことは絶対にないということだ。




