涼太、自信をもつ
――――――――佐倉涼太――――――――
「ちぃーす! よろしくおねがいしまーす!」
「あ、どうも。よろしくおねがいします」
俺が配置された分隊のリーダーはロニーだ。彼はギルドの長とは思えない気さくな態度で一介の冒険者に過ぎない俺に接してきた。荒くれものというイメージが強い傭兵ギルドだったが、ロニーにはそういう感じの悪さを一切抱かなかった。
俺だけ覚醒しているということもあって、このグループには俺のパーティーメンバーは一人もいない。見ず知らずの人と組むことに少なからず抵抗があったが、彼がいてくれればうまくやっていけそうだ。
分隊で行動しだしてからも入り組んだ道を進む中、彼は俺に話しかけてきた。
「いやあ、うちのギルドまだ全然活躍できてなくてすんませんねー」
「傭兵ギルドの方の出番は終盤にあるらしいですからね。エルドリッチはあまり多くを話したがらないタイプみたいですし。情報を小出しにされて大変じゃないですか?」
「んー、まぁ今は致命的な問題になってないからね。うちの連中は文句ひとつなくやっていけてるよ。なにせ英雄エルドリッチとの共闘なんだから。むしろモチベーションが高いやつが多いよ」
俺たちは出会いがしらに上下関係を叩き込まれたからあまり良い印象を持っていない。だけど、やはり世間一般にはエルドリッチは竜殺しの英雄なのだ。彼がどれほど傲慢でも、英雄色を好む、みたいな解釈でみんな納得してしまう。まあ、それだけの実績があるわけだから、しかも、エルドリッチは高圧的ではあるが、ダンジョン内での振る舞いはとても仲間想いであるわけだから、彼の好感度はとても高い。
そういえば、俺の最後の斬撃を防いだエルドリッチの手は焼け焦げていないどころか、火傷の痕跡が跡形もなく消え去っていた。篠塚にも確認したが、どうやら治癒魔術をかけた様子もないのに手はいつの間にか完治していたらしい。
ますます謎は深まった。そして、何より不可解なのがエルドリッチが地球のことを知ってることだ。それはいずれ解き明かさないといけない疑問であることに変わりないが、今はまず目の前のことをやり遂げないといけない。
「どうかした?」
「いや、ちょっと色んなことがありすぎて考えを整理してました、すいません」
「ああー、君たちそういえば人間じゃなくなったらしいね」
「え……ああ、まあ、そうです……」
もっと嫌悪感たっぷり表情で拒絶されるかと思ってた。それほどのことをやってしまった自覚はある。だから、こんな世間話みたいな感覚で軽く話題を振られたことに驚いた。
この異世界にはエルフやドワーフ、獣人族などの亜人種は存在しない。期待していただけに落胆の度合いもひどかったものだ。ただ魔族と呼ばれる人とは似て非なる知的生物が遥か東の地に住んでいるという伝承は残っている。
これはかなり信ぴょう性の高い伝承で、巷で噂されてる吸血鬼やダンジョンが生まれた経緯も魔族が関係しているとされている。そういう存在から不思議な力をもらったり、主従関係を築いたりするようなことは忌み嫌われる風潮にある。
「気味悪がられるかと」
「テューンならそれぐらいやりかねないし、てゆーかいつかやると思ってた。魔族の話も時々していたしね。ただ……そうだね。こういう状況だから何も言わないけど、事が終われば問題になる。そのことは覚悟できてるんだよね?」
「もちろんです」
「それならよかった。その件について俺は何もしてあげられないけど、俺自身は別に差別するようなことはないよ。まあ……元身内がいなかったらどうだったか分からないけどね」
「助かります。みなさんのことはしっかり守らせていただきますので」
「おーい、少しは俺の活躍の場を残してくれよ?」
俺たちのパーティーの編成は、冒険者ギルドが4人、傭兵ギルドが6人、そして俺の11人だ。他のグループとは違い、リーダーが傭兵ギルドのギルマスだけあって傭兵ギルドのメンバーに比重を置いてる。普段対人訓練しかしてないギルドなので最初は覚束なかったが、あの犬ぐらいなら彼らでも対応できるようになっていた。
エルドリッチから言わせれば最低限のラインにようやく立ったといったところか。
魔物との戦闘に慣れてないだけで実力自体は両者拮抗しているようだ。だけど、やはり差があるとすれば装備と使う魔術の違いだろう。
冒険者ギルドの人間は複数の武器を携帯して状況に応じて使い分け、魔術にしても多様性がある。傭兵ギルドは剣や斧、槍など様々な武器の心得はあるが、持ってる得物はたった一つで予備に小さなナイフを携帯しているぐらいだ。
「……ちょっとまって」
気配を感じ取った俺はロニーに静止するよう促した。全員に緊張が走る。余裕ができて会話しながら探索してた一行だったが、気持ちの切り替えは非常にスムーズだ。
「今までと違う気配がする」
「こっちは正解の道かもしれないってことか。しかし、厄介だね」
そして、奥から聞こえる鳴き声に、全員の武器を握る手が強くなる。
エルドリッチはよくわからん鳥と表現していたソレの鳴き声は不気味そのもの。声の高い女性が、「おーい」とこちらに精一杯呼び掛けているような声。
どういう攻撃を仕掛けてくるかは事前にエルドリッチから説明を受けている。この魔物が出現するのはまだ先のはずだが、予定外のことが起きる危険性をみんな承知している。ここは天然のダンジョンではなく、最初から俺たちを殺しにきている異世界のダンジョンなのだ。
生ぬるい風が頬を撫でる。あの魔物の攻撃の合図だ。
俺が一番前にでて、その攻撃を見極める。手が震える。ミスは許されない。覚悟していた分だけ身体は動けた。あとは思考をクリアにするだけ。
見える。覚醒したこの肉体なら簡単に反応できた。
鳥は一言で表すなら鳥に近いハーピーだ。人の顔のような造形だが口はマスクをつけているかように嘴の形をしていて硬質だ。サイズは人間より若干小ぶりで、翼もそれほど大きくはない。魔力を使って飛行しているのだろう。
その鳥が6匹。
俺は刀を抜き放ち、流れるような動作で全てを切り伏せた。
「すげー……まったく見えなかった」
賞賛の声に俺は役目を果たせたことの実感を得た。正直、覚醒したはいいがエルドリッチに呆気なく叩きのめされて自信を喪失していた。ようやく俺は自分が強くなっていることを喜ぶことができた。




