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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第四章 第二の厄災、天空の世界樹
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無力なる者

ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー


 ヤンの剣筋は数えるほどしか見たことがない。それでも、以前のものより格段に進歩しているのが分かった。ドロテアと対峙した時よりも凄まじい圧迫感。刃を交えた瞬間殺されてもおかしくなかった。

 でも、そうはならなかった。


 「どういうことだ?」


 ヤンの警戒が瞬時に高まった。衝撃を受けたのは俺も同じだ。少なくとも、ラルフに訓練された時じゃ絶対に捌けなかった。

 たった数秒の打ち合いだった。

 剣を受けるだけじゃなく、手首を切り落とそうと滑らせた剣にすら反応できた。篠塚の足を撃ち抜いた精霊の狙撃でさえ回避した。

 そして、息を吐いた瞬間、左肩を中心に激痛が走る。それが何を意味しているのか、俺はなんとなく理解した。問題は俺の挙動をヤンが見落とさなかったことだ。


 「そうか……『竜体化』のスキルをもっていたね。扱いきれてはいなかったけど。リョウタがそのスキルを会得したのもまさに生命の危機に瀕した時と言える。でも、体の変化にリョウタ自身がついていけてないようだね」

 「それも、世界樹から得た知識か。はぁ、まるで出会う前から親しい間柄だったみたいで、ちょっと気持ち悪いな」


 冷静に分析され、俺よりも詳しく俺の状態を解説された。そう、激痛の原因は俺の左腕に眠っていた竜の細胞が全身に行き渡ろうと侵食しだしたことにある。

 俺はその痛みに耐えられないだろう。今はまだこの程度でも、これからさらなる痛みが俺を襲うことになる。だけど、俺はこの力に頼るしかない。むしろ、上等だ。

 『竜体化』にこの窮地を脱するポテンシャルがあるなら、俺は必ずモノにしてみせる。

 後ろにいる篠塚を意識する。ヤンがいつ俺をすり抜け、篠塚に刃を向けるかもわからない。やつの最終的な目的は篠塚の覚醒を防ぐことだ。

 ヤンの斬撃が迫る。

 大丈夫だ。見えている。ラルフの剣より遅い。それでも、前だったら受けるだけで精一杯だっただろう。体がついてきてくれている。反撃もできる。だが、ここぞという時に精霊の邪魔が入る。遠くから刃を飛ばす精霊。暗闇に紛れてその正体が掴めなかった。竜の細胞が活性化し、暗闇まで見通せるようになって初めてその姿を捉えた。

 そいつは猿だ。しかも、一匹じゃない。世界樹の根の合間に大量のそいつらが見え隠れする。


 「リョウタが放った竜の炎は思わぬ弊害を生んだよ。僕の精霊はツェーリに渡した。代わりに、僕はこいつらに頼ることにしたんだ。だけど、火の手が回って完全に足止めをされた。それが今追いついた」


 やばい、囲まれてる!

 猿の精霊は手に持った筒を器用に口へと運び、そして、それに息を吹き込んだ。

筒から飛び出してきたものは吹き矢なんかじゃなく、魔力から発生した見えない風の刃だ。それが俺の急所を狙うように、あるいは、俺の逃げ道を塞ぐように放たれた。

 それを全て避け切る実力は俺にはなかった。

 だから、俺はヤンの追撃に備え、ダメージを最小限に抑えるべくあえて前に出た。だけど、それすらもヤンに読まれていた。


 「リョウタの生きたいという強い気持ちは尊敬に値するよ。実際そのおかげで乗り切れた苦難もあった。みんなとの実力の差に悩んだろうけど、もう安心していい。これでもう終わりだから」


 詰め寄られ、無慈悲に振りかざされる剣。不死をも殺す一刀。目の前にある確実な死。

 ああ……もう少しやれると思ったんだけどな……。

 どうにもならない。首元に吸い込まれるように美しく弧を描く剣の軌道を俺はただ見ることしかできなかった。だが、ヤンの剣が鮮血の飛沫を浴びることはなかった。そして、どういうわけか俺が事切れて地に伏すこともなかった。


 「なんだって!」


 取り乱すヤン。

 確かに刀身は俺の首を通過した。だけど、通過しただけで何も起こらなかった。すり抜けたのだ。訳がわからない。

 でも、俺は生きている。生きているならやるしかない!

 前に出た勢いをそのままにがむしゃらにヤンに斬撃を繰り出す。冷静な判断を欠いたヤンは堪らず後ろに引いた。せっかくのチャンスを手放すわけにはいかない。俺は必死で食い下がった。


 「そうか、そういうことか!すでに覚醒していたのか、トモエ!」


 俺の後方を苦虫を噛み潰したような顔で睨む。その先にいるのは勿論、篠塚だ。

 そうか、覚醒したのか。そうじゃなくても、俺のやることは変わらない。終わったはずの命を掬い上げてくれたことに感謝し、ただひたすら目の前の敵を討つことだ。


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