地上の死闘 その3
ーーーーーーーーラルフーーーーーーーー
とても心強い加勢だ。特にジュウリがいれば、あの鉄壁の防御を確実に切り崩すことができる。勝機が見えてきた。四人で一気に畳み掛ければニキを仕留められる。
だけど、ジュウリの口から予想外の言葉が発せられた。
「早くモニカ様のところに行ってあげてください。ここは私たちが食い止めてみせます」
「な……二人じゃ危険だ!」
「存じております。この四人ならばあのエルフを倒せることも。ですが、それは我々の勝利ではありません。早く倒す賭けにでるよりも、ここを私とリトゥヴァの二人で抑えたほうが確率は高いです」
「あたいらも義理とはいえ、戦神の妹っすよ? かっこつけられる時につけさせてほしいっすね!」
謎論理を展開するリトゥヴァだが、その目は本気だった。正直、自分の命を犠牲にしてまでもこの世界を守る義理は二人にはないはずだ。この戦いに負ければ全員が死ぬとしても、自ら率先して命を危険に晒すような真似はしないと、どこかで勝手に決めつけていた。
「ぬう! 妹たちよ、反対したいのだが、致し方あるまい。おまえたちの決意を無碍には出来ん。となれば、必ず生きて帰ってくるのだぞ?」
「ロイアス様も途中でお腹空かせて駄々こねないでくださいっすよ?」
「がーっはははは! 言うではないか! 頼んだぞ」
「お任せください」
「任せるっす!」
後を追おうとするニキの足元に剣撃が走る。ロイアスの攻撃でもモノともしなかったニキがはっきりとそれを嫌った。
「……やむを得ないな。彼を追うには二人を相手にしなければならないか」
「エルフは私にとっての悪です。さっさと斬られてください」
戦いを背に俺とロイアスは駆け出した。すぐに豆粒ほどの大きさになる。だけど、依然目的地は遠い。
「着いたはいいが、全滅していたらかなわん。ラルフ、先に行ってモニカの手助けをするのだ」
「は? 別にいいけど。そもそも正確な場所知らないよ」
「問題ない。俺様の投擲に敵う者などおらん」
「……それってどういう」
言い切る前にロイアスに担がれた。お尻をがっつり掴まれて持ち上げられている様は緊急時じゃなければ御免被る気恥ずかしさがあった。いや、緊急時でも勘弁してほしい。
ロイアスが何をしでかそうとしているか大体察した俺は、なんとか思い直してもらえないか懇願しようとする。
だって、こいつくっそ重たい槍をとんでもない距離からとんでもない速度で投げてきたことがあるんだもん。その槍が俺に代わったという話だ。
「せめて心の準備を……おぁああああああ!」
躊躇なく空に向かって投げ出された俺は地獄と化した帝都の様子を一瞬だけ見ることができた。ありとあらゆるところから火の手があがり、空からはエルフが大挙として押し寄せてくる。そして、その戦力がもっとも集中している場所が俺とロイアスの目的地だ。
そこは帝都を一望できる高所にある宮殿のかなり大きな中庭で、真ん中には花園の代わりに巨大な大砲がどっしり鎮座していた。大砲の周りを囲うように戦闘が繰り広げられており、その中にはモニカと皇帝陛下の姿もあった。
大砲の砲身めがけて着地をし、すかさず俺は『闇魔法』を展開した。
「うへえ! イケメンが空から降ってきたよ!」
モニカが何か言ってるけど、無視を決め込むことにする。
『闇魔法』の中でも格下を一斉に始末する時に便利な術、『影奪』が発動する。範囲内にいる敵の影を乗っ取り、実体を得た影に敵を殺させる。ある程度の技量をもった相手には通用しないが、どうやらエルフたちには効果があったみたいだ。
中庭にいたエルフたちが自分の影に無残に殺されていく。
「か、かっこいい……胸キュンだよ……!」
「こりゃたまったもんじゃないね……」
その惨状に皇帝陛下は一瞬だけ顔をしかめた。でも、すぐに顔を引き締める。
まだ終わってない。範囲内にいなかったエルフが押し寄せてくる。ロイアスがくるまで、ここを死守しなければならない。