地上の死闘
ーーーーーーーーラルフーーーーーーーー
「うがー! しつこい! しつこいのである!」
俺とロイアスはなんとか帝都に帰還を果たすことができた。だが、そこにぴったりと並走してきた敵がいる。
『世界樹の担い手』ニキ。
ロイアスの馬鹿力でも彼女の鉄壁の防御は揺るがない。ましてや、俺の『闇魔法』など蚊を払い落とすがごとく軽くあしらわれる。代わりに、相手からの決定打もなかった。
防御に特化した装備と立ち回りをしながら、素早く移動する足をもつ。ちまちました戦いが嫌いなロイアスが苦い顔をするのも頷ける。戦闘力じゃ遥かにロイアスが上回っていたとしても、ニキとロイアスでは決着がつかないんだ。絶望的に相性が悪い。
「このままついてこられても不味い」
「初めて意見があったね。私もこれ以上進ませるわけにはいかないと思っていたところだよ。もしかして気が合うんじゃないか?」
「笑えるね。センスのかけらもないユーモアをエルフの口から聞けるなんて」
「大抵は堅物だよ。そいつらにイタズラをして喜ぶ悪ガキが私だったのさ。おや、そういえばラルフくんはツェーリとヤンの二人と行動をともにしたことがあったはずだが? もしかして今のは皮肉というものか。なるほど、勉強になる」
素直に感心した様子でいられると俺のほうが気まずくなる。
「もっと話せればよかったが、ここで終わりにしよう」
そう言ってニキは手にしていた槍を捨てた。正確には、槍の穂先をだ。そして、黒いオーラがニキを包み込む。そのオーラには覚えがあった。
「……邪悪に満ちておるな。おまえ自身、無事では済まんぞ?」
「あれがなんなのか分かるのか?」
「いや、直感だ」
ロイアスの発言に一々突っ込むとキリがないと知りつつも、あえて聞き返してしまう自分の理解力のなさにうんざりする。
あれは俺たちを乗せた戦闘機を撃墜させた時に使われた諸刃のつるぎだ。実際に、あれで攻撃してきたエルフが悲惨な死を迎えたのを間近で見ている。徐々に体が腐っていき、最後には全身に行き渡る。おぞましい最期だ。
それを手にニキは俺たちに矛先を向けている。目的は間違いなくロイアス。殺せなくても、傷一つつけられない肉体にダメージを与えることができれば命を投げ出す価値がある。それぐらいロイアスは重要な役割を持っていて、世界樹に行く手段をなくしていたとしても引き止めなければならない事情があるということだ。
「私たちはここでみんな死ぬ。どう足掻いても、どんな結末を迎えても、その現実からは逃れられない。でも、次に日が昇る頃には世界に新しい生命の息吹が誕生する。それは私たちの子供だ。そして、全ての罪は私たちが背負っていく」
「がーっはははは! だからおまえたちは退屈なのだ。だが、俺様の世界にいたエルフは退屈なりに楽しませてくれた。未来のことなど知らん! 俺様を存分に滾らせろ」
「ちょ……先を急ぐんじゃなかったか?」
足をとめ、ニキと対峙するロイアス。さっきまでの毛嫌いした態度とは大違いだ。時間に追われているのに、焦っているのは俺だけらしい。
「落ち着くのだ。どの道アレを無視すれば後ろから串刺しにされるぞ。俺様も無傷ではすまん。邪悪だが神性を持っておる」
「……たしかに」
基本的にむちゃくちゃだけど、戦闘のことになると筋が通ってる。急ぐべきだが、焦るだけじゃ何の解決にもならない。俺も腰を据えなければならない。
この戦いには世界の存亡がかかっているのだから。