慟哭
ーーーーーーーーマーリンーーーーーーーー
幻覚を操る狐、戦況を俯瞰する鷹、硬い角でツェーリを守る牡鹿、鋭い牙で噛みついた相手を決して離さない狼、それぞれが役割を持って統率されている。今、目の前に現れた初見の熊も何かしらの役割を持っている。
出し惜しみなく総攻撃をかけるんじゃなくて、最後の最後まで切り札を隠し持ってるなんて……やっぱりツェーリはさすがだ。
私にはもう危険を顧みず飛び込むという選択肢しか残されてない。ここまでの私の手は間違いなくツェーリに刺さっている。
隠蔽の魔術を施した最後の仕掛けを解き放った。唯一ツェーリが鷹の目をもってしても見抜けなかった私の最後の仕掛けだ。横方向から飛び出た『魔鉄錬成』で急造した鉄片が、牡鹿の精霊の首に突き刺さる。
これでツェーリを守る精霊はたった一匹。
『探求者』が高速で熊の精霊を解析する。そして、交わる直前、能力が判明する。
私はジャンプをして、下から私を捕まえようと伸びる蔓から逃れた。そのまま迎え討とうとする熊の首を切り裂く。
やっと……やっとたどり着いたよ、ツェーリ。ここは私の間合いだ!
ツェーリは諦めなかった。弓を捨て、短剣を握って応戦しようとする。少し前の私なら、短剣で戦うツェーリにすら勝てるか怪しかっただろう。でも、覚醒した今なら私は絶対に負けない!
ツェーリもそれは分かっていたはずだ。それでも、立ち向かうのは背負ってるものの大きさゆえ。だからこそ、私は改めてあなたを尊敬する。
私は震える唇を抑え、ツェーリの心臓にナイフを突き刺した。
精霊たちの動きが止まる。『世界樹の担い手』であるツェーリの力が弱まったのだ。それは、決着がついたという証明に他ならない。でも、ツェーリの顔を見るのが怖かった。殺し合いをしてもなお、ツェーリは私の友達だ。こんな顔、見せたくなかった。
そんな私の頬を撫でるモノがあった。顔を上げると、穏やかな表情をしたツェーリが私に触れているのだとわかった。
「つらい思いをさせてごめんね……ごめん……私は……ずっとマーリンのトモ……ダチ……」
言い終えるよりも先に崩れるツェーリの体。その体を支え、その瞳から流れる一滴の涙を拭った。
彼女との出会いはまるで嵐のようだった。最初は分かり合えないと思っていた。でも、ツェーリのことを知る度、彼女は私のかけがえのない友達になっていった。その気持ちはツェーリも一緒だったんだ。それなのに、私たちの結末は悲惨なものとなってしまった。
堪えていた涙が溢れだした。
「う……あああ……ツェーリ……私も……ずっとあなたの……友達でいたかった……!」
生気が失っていくツェーリの体は、二度と彼女の笑顔を見ることができないのだと知らしめた。手に残った殺した感触が気持ち悪かった。彼女から多くのモノを貰った。私は与えるどころか命を奪ってしまった。もうツェーリは戻ってこない。帰っては……こないんだ。