散開
――――――――佐倉涼太――――――――
「そろそろみんな慣れてきたころだ。ダンジョン攻略を効率化するためにグループを分けるつもりだ。次の階層にいくまでの間だけどよ」
「三種類の敵がいるって話ですよね」
「おう、涼太。よく覚えてんじゃねえか。神様ってやつの能力の効果に距離の制限があるのか、奥に進むにつれて敵の種類と強さが変わってくる。ここはまだ優しい。だから、早いとこ奥に抜けるために出来れば四つのグループに分けたい。まあ、傭兵ギルドの連中は戦えるやつは戦ってもらってるが奴らは基本対人がメインだ。この先のことを考えりゃ体力を温存してもらったほうが助かる」
「今まで安全策を取っていたのに先を急ぐのはなぜだ? 私も一刻も早く収束させたいのは同じだが」
「なにも理由もなしにリスクをおかすわけじゃねえ。最初慎重だったのは、あの犬は対処こそ簡単だがよ。実際経験してみねーと無駄に犠牲を増やすことになったからだ……俺が見た敵が三種類だっただけで他にもいるかもしんねーし、リスクはかなり高い。が、どうにもきな臭くてな、あのサージェスの野郎の動向がな」
「というと……?」
テューンの問いにエルドリッチは素直に答えた。
「タイミングがそうなった可能性もあるにはあるが、あの野郎がダンジョンを作成しだしたのはおたくらが王都に入った直後だ。俺が嗅ぎ取れたんだ、野郎に嗅ぎ取れないはずがねえ」
「つまり、このダンジョンは何かしらの時間稼ぎということか? ありえないことではないな。王都に近づいた瞬間、だだ洩れだったオーラがナリを潜めた。それで、エルドリッチ殿は奴の時間稼ぎをしてまでやりたかったことを阻止しようとしているわけだ」
「そう! あんたはガキっぽい外見だけど、やっぱ中身は老練だな。伊達に長いこと生きてねえな」
「女性に年齢のことを言うのはデリカシーにかけますよ、アニキ!」
「エリニエス殿、気持ちはありがたいが、私は年齢に関してそれほど気にしていない。過去には気にしたこともあったが、私もその時はまだ若かったのだろう」
「それを若かったって言えるのにそんなにぴちぴちなのうらやましいです!」
「あー、おまえが絡むと話が長引く。いいからちょっと黙っててくれねえか?」
「え! ひどくないですか!?」
ひどいもなにもほっとくとその通りになりそうなので誰もエリニエスの味方をしなかった。沈黙こそが俺たちの最良の選択だった。あのテューンでさえそうなのだから間違いない。ちなみに、ラフィカとマテは前線にでていて、篠塚は後方支援に回っている。この場にいる俺たちのパーティーはゼフ、テューン、俺の三人だ。
「とにかくここで初めてリスクをとる以上、これまで以上の注意を払わないといけねえ。何事も最初が肝心だ。っても、このダンジョンにいる間、ギルドの連中は初めて尽くしっつーわけだが。まあ、予定どおり、俺とあんたは王女様護衛もかねて本隊、ほかのやつはバラバラにわかれて各グループにサポートをしてくれ。振り分けは俺で考えた」
「一応伝えておくが、私には不満はない。多少情報の扱い方が雑なことを除けばな」
「俺ぁバカなんだ。別に他意があって後出ししてるわけじゃねえ。そこはあんたがうまく俺から引き出してくれると助かるわけだが?」
「なるほど、その割には情報の大切さを知ってる節があるから手に負えないな」
師匠とエルドリッチは不気味に笑った。いくら協力関係にあるといっても気まで許したわけじゃない。当然、腹の探り合いはする。口ではああ言ってるが中々エルドリッチは食えない男だ、頭がよくないことは事実だろうけど。
俺たちはエルドリッチの指示に従ってグループをまとめた。滞りなくできたのはロニーとリカルドの助力あってのことだった。