過去を知り、未来を望む
ーーーーーーーーツェーリーーーーーーーー
すごい、すごいよ! あの子、私の友達なんだ。マーリンって言うの。外の世界で出来た私の初めての友達なんだ。
みんなに自慢したかった。この世界には私たちの世界にないものがたくさん存在する。私にとってマーリンはその象徴とも言えた。そして、この異世界でのたった一人の友達。彼女とこれからも旅を続けることができたら、それは本当に素敵なことだ。
炎が揺らめく中にいる友人の姿は、かつては投げやりだった心を凍らせた女の子じゃなく、魔術に才を見出した立派な冒険者のものだ。
魔術師として名高いフリージアでさえ魔術の可能性を最大限引き出すために錬金術の力を借りていた。そのぐらいこの異世界の魔術は不安定なものだ。それをマーリンはこの一瞬で究極にまで達した。神に近い存在であるオーステア様の血を分けていただいていたとしても、それを成し得たのはマーリンだからだ。
辛かった記憶も楽しかった記憶も、その全てをぶつけて私に挑んでいる。そんな彼女が愛おしくなかったらなんだというのか。
マーリン、私ね……冒険者になるのも悪くないなって思ってた。マーリンと一緒にこの世界のありとあらゆる場所にいって……そうやって一生を終える人生があってもいいかもしれないって……そんな夢みたいな話が頭をよぎったこともあったよ。
『世界樹の担い手』にならない私がいてもいいんじゃないかって……でも、もうそんな未来はありえない。ううん、最初から存在しなかった。
エルフと呼ばれた私たちには未来も……明日すらもない。だって、私たちの最大の願いである同胞との再会は絶対に叶うことはない夢物語だから。
世界を喰らう蛇によって散り散りになった仲間なんていない。みんな死んでしまったんだ。7つあった世界樹は無残にも食い散らされ、生き残ったのは私たちだけだったんだ。漂流していると教えられた異空間は私たちの世界の成れの果てだった。
なんて仕打ちなんだろう。救いなんてどこにもない。歴代の『世界樹の担い手』たちは、たとえそれが虚構であっても、みんなの支えになるならばと真実に蓋をしたんだ。クレイオス様があの日泣いていた真相を突きつけられて、私の世界はぐにゃぐにゃになって崩れていった。だけど、同時に強く思ったこともある。
確かに、私たちに明日はこない。でも、明日生まれてくる子供たちには希望がある。未だ見ぬ未来がある。それがたとえおびただしい犠牲の上にあったとしても、その責任は全て私たちが持っていく。
今ここでマーリンを殺したら、もう私は役目を終えるまで……役目を終えたあとも、笑うことはない。感情は全て置いていく。
皮肉なことだ。ドロテアもこんな気持ちを抱いているのかもしれない。彼女も魔族という種を守るために人類を滅ぼそうとしていた。最後まで本音を口にしなかったあの魔族は、それでも悲痛な表情を浮かべていた。
炎を纏ったマーリンが私に接近する。そう、マーリンが私に勝つにはそれしかない。接近を許した瞬間、私の敗北が確定する。
だから、近づかせるわけにはいかない!
私は弓を引く手に力を込めた。