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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第四章 第二の厄災、天空の世界樹
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探究する者

ーーーーーーーーマーリンーーーーーーーー


地面を蹴る。

遠距離はツェーリの間合いだ。自分の間合いにツェーリを入れなければならない。彼女に不足しているものがあるとするならば、それは経験だ。いくら世界樹から知識を得たところで、それを自分の手札として扱い切れなければ意味がない。

だけど、逆を言えばツェーリがそれらをモノにした時、私の敗北は確定する。

放たれた矢がこれまでとは違う鋭さを伴う。以前の私なら触れることすら出来ずに心臓を射抜かれてた。彼女の矢は精霊の加護により変幻自在で、その気になれば標的に命中するまでその存在を完全に消すことだって可能だ。

『探究者』。師匠から賜ったこのスキルは全てを看破する。矢から僅かに漏れる精霊の力を解析し、未来予知のレベルで回避する。

ツェーリが大きく目を見開いた。

これまでとは違う一つの隙もない攻撃だった。それを私があっさりといなした。その一撃で私も理解する。『世界樹の担い手』に選ばれたツェーリは以前よりも格段に強くなっている。早く決着をつけなければどんどん自分が不利になっていく。

あと一歩。あと一歩で自分の間合いに踏み込むことができる。でも、そうはならなかった。


「くっ……精霊……!」


ツェーリと私の間に巨大なツノをもつ雄ジカの精霊が出現する。いや、それだけじゃない。ツェーリの背後では様々な動物の形をした精霊が私に敵意を向けていた。鷹、狼、梟、狐、栗鼠のような小動物まで。それらが行く手を阻まれた私に一斉に襲いかかる。

焦りを抱いて闇雲に押し進むことはできない。私は引かざるをえなかった。そして、そこは再びツェーリの間合いである。

矢を弾いたとこで狼が私に噛み付こうとする。防御はダメだ。動きがとまったところでツェーリの矢が飛んでくる。

ギリギリで躱し、狼の首を切り裂く。血は飛び散らない。代わりに、狼の形をしたモノが霧散する。追撃はやまない。矢、鷹、猪、休む間もなく私を追い詰める。そして、猪を仕留めるために振るったナイフが空振りに終わった瞬間、私はバランスを崩した。

『探究者』のスキルで何が起こったかすぐに分かった。精霊は実体をもたない霊的な存在だ。だけど、ナイフで切った時に手応えはあったし、相手からも物理的に干渉してくる。それが一切なかった。

つまり、猪は幻覚だ!

ちょっとのことだけど振り抜いてしまった私は次の動作にはいるのが遅れた。そこに容赦なくやってくるのはツェーリの矢だ。

私は態勢を立て直すために無理矢理『魔術』を行使した。

元々貴族として魔術の素養があった。冒険者になってからは使わないでおこうと決めた。それに、結局誰にも褒められなかった私は中途半端にしか魔術を習ってない。途中で諦めた私なんかよりみんなのほうがよっぽど才能がある。

だけど、今は違う。『探究者』は私の記憶の奥底まで魔術の知識を呼び起こし、私の肉体をもってそれを現実に体現させた。そう、忌々しい過去でもちゃんと私の体の一部になってくれていたのだ。

灼熱の炎を身に纏い、迫り来る全てを私は焼き払った。

ねえ、ツェーリ……私強くなったよ。やっとあなたと肩を並べられる。もう足手纏いになんてならないから。一緒にいられて楽しかった。嬉しかった。マーリンという人間はあなたに助けられた。

だけど……あなたはもう隣にはいない!


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