それぞれの戦い その3
ーーーーーーーーマテーーーーーーーー
残骸の中から必死で抜け出すと、そこは巨大な蔦か根っこか分からないもので埋め尽くされた空間だった。衝突の混乱で少しだけ頭の整理が必要だったけど、ようやく私は一人になってしまったことを把握する。
早くみんなのところに行かないと……!
みんなのところに行くということ。それはこの世界樹のもっとも深い場所に向かうということだ。みんなそこを目指してる。そして、そこに行けば会えるかもしれない。
ツェーリ。私の友達。かけがえのない私の友達。必ず助けにくると約束してくれた。なのに、こんなことになるなんて……一度でいい。ツェーリの気持ちを知りたい。ツェーリと話がしたい。それが無意味なことでも、私はそうせざるをえない。
一歩踏み出そうとした瞬間、私は呼び止められた。
「……マーリン」
私の本当の名前を呼ぶその声には何が込められているのだろう。親愛、悲哀、また会えたことに対する喜び、それとも怒り。そのどれでもないかもしれない。とにかくその声は私が待ち焦がれていた人物のものだった。
振り向くと、そこにはツェーリがいた。
「ツェーリ!」
駆け寄ろうとした私は足を止めた。差し込む光の陰にいるツェーリの顔は見えなかった。だけど、彼女がツェーリであることは間違いない。その彼女が矢をつがえた。矢の先にいるのは私だ。
ああ、その結末は……わかってた。
「マーリン・エドニス・ファーレンハルト! 守りたいモノのためではなく、守るべきモノのために戦いなさい!」
ツェーリらしい言葉だ。彼女は世界樹の住人としての責任を果たすため、私たちと敵対することを選んだ。家を捨て責任から逃げた私とは真逆だ。そして、その言葉は私に対しての最大の敬意と最後の優しさを込めたものだと悟った。
わかってたはずなのに……やっぱりこんなにも胸が苦しい。
短い付き合いだった。長い人生の中では稲妻のように一瞬で、だけど色濃く鮮やかな日々だった。その日々の中心にいたのはツェーリだ。暗くて深い心の奥底、私がずっと目を背けていた過去を掬い出してくれたのは彼女だ。ツェーリがいなかったら、みんなと仲間としての絆を深めることもなかった。ツェーリがいてくれたから、マーリンとしての人生に少しだけ向き合うことができた。
「やだ……できないよ……」
ツェーリは俯き、そして首を上げた。
「私たちには未来がない。明日がない。それでも、今日産まれてくる子供たちのためにも戦わなければならない。私たちはこの世界に適応することができなかったの。いずれ世界樹は枯れ、私たちは滅ぶ。だから、私は戦うのよ」
そして、ツェーリは矢を放った。私の心臓めがけて。