それぞれの戦い その2
ーーーーーーーーラルフーーーーーーーー
「がーっはははは! おまえもやられてしまったか! エルフどもも存外やりおるわ!」
帝都に戻るため、荒野を全力で駆けていると金ピカの鎧を新調した不審者が笑いながらダッシュしていた。純粋に関わりたくない。その巨体に見合わぬスピードで俺と同じ方向を目指しているけど、俺のほうが目に見えて速いのでそのまま無視することにした。
「ぬおー! おまえ俺様を無視するつもりか! 俺様より若干速いからといって良い気になりおって! 待つのだ! まーつーのーだー!」
何もない平原で男二人、もっと言えばガタイが良くて暑苦しい男と追いかけっこをしている絵面はぞっとしないものだ。俺は観念して歩調を合わせた。
「それでよい!」
「すぐにでも戻らないと帝都が火の海になる」
気持ちを抑えられず嫌味を込めた。
すでに帝都は交戦状態にある。戦闘機を襲撃した部隊が引き返さず、そのまま帝都に侵攻したためだ。迎撃に乗り出しているが、モニカの見立てじゃ長くはもたないという。
「戦火は帝都全体に及ぶであろうな。だが、構う時間はないぞ。所詮は目くらましだ。散らばったボヤを消したところで大火は消えん。目指すのはモニカのところである。やつらも承知で帝都に残ったのだ」
ロイアスの提案はすんなり呑めるものだった。ゼフやテューンあたりなら一言二言反発するけど、賢い二人なら苦々しくも受け入れる。
俺は帝国民の命に関心が乏しい。まったくないわけじゃないけど、簡単に切り捨てられる。だから、ロイアスの合理的な判断を支持した。
「君が自由に動ける状況は私たちにとって喜ばしいものではない。申し訳ないが、ここでおとなしくしていてもらえないかな?」
突然、聞こえるはずのない女性の声がした。
咄嗟に防衛行動をとる。隠れるところなんてないはずの、土と草と岩ばかりの平野に一人の女性が突如として出現した。どことなくツェーリと似た顔立ちの女性は銀の甲冑を身に纏い、左手に盾、右手に槍を持っている。
瞬時に察することができた。こいつは『世界樹の担い手』の一人だ。他のエルフたちとは段違いの魔力を所有している。
「おまえは嫌いだ」
ロイアスにも苦手意識があるようだ。素直に驚いた。そして、二人は初対面ではないらしい。
「初めまして、ラルフさん。私はニキ。そこの彼とはアルフォンス皇帝陛下に御目通り願った際に一戦交えてね。私と相性が悪いことは骨身に染みているようだ。なんとしても彼をここに釘付けにしておかなければならない。悪いが君も付き合ってもらう」
「……正直ロイアスのことは置いていっても全然構わないけど」
「おい!」
「エルフにとって都合が良いっていうなら話は別だよね」
俺は改めて剣を構えた。
帝都の上空で煙が上がる。いくつかの戦闘機が撃墜されていた。時間はあまりない。迅速に彼女を仕留める。なんとしても、ロイアスをモニカのところに連れて行かなければならない。
すると、首根っこを猫のように掴まれた。
「やつの相手は無駄である。邪魔されても全力で走るのだ!」
まあ、そうだよね。
俺たちはニキから逃亡し続けることをあっさりと選択した。
ーーーーーーーーテューンーーーーーーーー
悔しさや怒りを飲み込んで今はただひた走るしかない。私をここに連れてきてくれたパイロットは生存していたが、作戦を優先してくれと私を送り出した。自分の命はどうなってもいいという。そんな彼に私は報いなければならない。
「テューン!」
「ゼフ、師匠も」
幸運なことにゼフと師匠に合流することができた。だが、他のメンバーはバラバラだ。みんなを信じて突き進むしかない。再び結集できることを祈って。
「チッ、どうやら敵さんのお出ましのようだ」
武装したエルフたちが私たち三人を包囲する。
雑魚が何人きたところで覚醒したこの肉体はほとんど疲れを覚えないだろう。だが、簡単というわけでもない。ここで手こずっているようなら勝利は遠いところにある。
「突っ切る。二人とも遅れを取るなよ?」
「師匠こそ、本調子ではないのに張り切って躓いても知らないよ」
「言ってくれるな」
冗談を交わし、敵の集団に突っ込む。
ゼフが突き飛ばし、私が撫で斬る。ここにきて初めて師匠の剣筋を目にした気がする。無駄のない剣さばきに見惚れてしまうところだった。全力がだせない体でも、それを技量でカバーしている。私たちに付いてこれるどころか、単純に剣術の勝負なら足元にも及ばないかもしれない。
マテ、リョウタ、トモエ、ラルフ、私たちは先に行く。必ず来てくれると信じているからな。