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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第四章 第二の厄災、天空の世界樹
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ダンジョン攻略開始(天空の世界樹)

ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー


 矢が降り注ぐ中でも、彼らはしがみつこうと飛びかかってきた。大したダメージを負わなくても、必殺の一撃がどこからくるのか目くらませには充分だ。師匠のように感じることはできなくても、あのおぞましいオーラを放つ矢の存在は視界に入れば見分けがつく。


 『分かってると思うけど、もう無事に着陸できるなんて考えないでくれ! このまま世界樹に突っ込む!』

 『……はい!』


 そんなことしたら自分の命がない、なんて言うだけ野暮だ。彼らはとっくに覚悟してる。だから、俺はただ返事をすることしかできない。彼らの犠牲が無駄にならないよう、必ず『世界樹の担い手』の首を討ち取らねばならない。


 『くっ! ちくしょう……! こいつ、くそったれ!』

 『合流しようとするな! 各自迅速に敵の心臓部を目指せ! 必ず私はそこに辿り着く。待っているからな』


 パイロットの一人の悪態と師匠の命令のあと、通信が途絶えた。そして、視界の隅から差し込む爆発の光。どの戦闘機が狙われたか理解するのは容易だ。

 俺なんかには目もくれない。適切にエルフたちは俺たちの急所を突いてくる。ラルフの次に師匠が狙われたのもただ攻撃に感づかれて順番が逆になってしまっただけに過ぎない。

 悔しくて仕方ない。悔しいけど、それが現実だ。俺はもっともっと強くなりたい!


『衝撃、くるぞ!』


 そして、俺を乗せた機体は世界樹に突撃した。

 世界樹の根を薙ぎ払いながら進む。両翼はすでにもがれ、次に魔力による推進力が損なわれた。停止する頃には、ただの鉄くずになっていた。

 そこは想像していたよりも広い空間だった。何万人というエルフが暮らしているのだから、こういう場所があってもおかしくはない。仄かな光を放つ照明らしきものと、地面に規則正しく植えられた植物があることから、ここが畑であることがわかった。

 こうして生活の営みがあった場所を目にすると心にくるものがあった。


 「大丈夫か!」


 もはや原型を留めていない戦闘機から辛うじて抜け出すと、パイロットが手を差し伸べてくれた。

 なんという奇跡だ。生きている!


 「ありがとうございます。生きててくれたんですね」

 「ああ、びっくりしすぎてエルフに転生してしまったのかと思ったよ」

 「それは……ちょっと笑えないですね」

 「そうだな……」


 お互いに苦笑いする。改めて周りを見回してみると、もう一機の存在を確認できた。俺たちはその戦闘機に急いで駆け寄った。


 「おい、生きてるか!」


 運転席はぐちゃぐちゃに潰れていて、もう助かる見込みはなさそうだった。だけど、彼は必死に呼びかけて安否を確認しようとした。最後まで諦めたくなかったのだ。そんな彼の姿勢に俺も倣うことにした。

 そうしている間に後部座席から這い出してきたのは篠塚だった。

 若干の気まずさに息を詰まらせたが、今は四の五の言っている場合じゃない。それにこれは俺が勝手に抱えている悩みで、篠塚にはまったく身に覚えのないものだ。

 俺は篠塚に手を差し伸べて、彼女はその手を掴んで立ち上がった。


 「……ありがとう」

 「どういたしまして……」


 ぶっきらぼうな返し方になってしまった。別に嫌いというわけじゃないし、むしろ彼女は俺が死んでも守ろうと誓った相手だ。だけど、この半年間篠塚とまともに目を合わせたこともない。彼女を守る動機は不純なもので、この世界において彼女だけが地球にいた頃の記憶を思い出させてくれるからに他ならなかった。そう、結局は自分のためだ。だが、それもラルフから告げられたフリージアの推測によって前提が崩れつつある。

 篠塚友恵は異世界人ではなく、元々この世界の人間である可能性がある。そして、俺が異世界に転移させられたのは彼女の巻き添えをくらったからかもしれない。

 止そう。今はそれを考える時じゃない。


 「……先を急ごうか」

 「いいんですか?」

 「どの道死ぬ覚悟で来たんだ。遅かれ早かれこうなってた。それに、あんたらの師匠も言ってただろ? 遅れれば遅れるほど犠牲は大きくなる」

 「……そうですね。行きましょう」

 「ああ!」


 世界樹の構造がどんなものかは詳しくないけど、より強い魔力の反応は微弱ながら辿れる。そこを目指していけば世界樹の心臓部に向かうことができるはずだ。そして、みんな無事ならそこで再会を果たせる。


 「なんだ……? 危ない!」


 俺が魔力の気配を探ってるその一瞬を突いてその一撃は放たれた。

 それに反応できたのは俺たちに命を預けてくれた男ただ一人だった。篠塚を庇うように前にでた男の喉元を引き裂き、鮮血が吹き出す。彼はもう助からないだろう。俺が不甲斐ないせいで。

 正体不明の斬撃。近くには敵の姿は一切見当たらない。だけど、その気配には身に覚えがあった。知らないはずがない。そいつは少し前まで俺たちと一緒にいたのだから。


 「ヤン……おまえなのか」


 一切の感情を殺した顔をして、かつての協力者は姿を現した。

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