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異世界不死者と六人の弟子  作者: かに
第四章 第二の厄災、天空の世界樹
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先制攻撃

ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー


 高度が増し、帝国が瞬く間に遠ざかっていく。

 代わりに現れたものは、地平線に隠れて見えなかった空飛ぶ世界樹の姿だ。トリュン王国でアレが漂う壮観な光景を目にしたけど、二度目でもその存在感は神秘的で圧倒される。

 エルフたちの信仰の対象。彼らの魂は死した後、世界樹のもとに還る。世界樹の名はイスル・イシュル。

 七つの世界樹から創造されたエルフたちは、世界を喰らう大蛇を滅するべく団結した。その戦いの結末は、エルフたちにとって決して良いものじゃなかった。

 イスル・イシュルは他の世界樹と隔絶され、何もないただ魔力だけが滞留する空間に投げ出された。そこで彼らは膨大な時を漫然と過ごすことになる。だからこそ、彼らは同胞と再び出会えることを夢見て、同種として恥じぬよう気高くあることを教えにした。


 『私たちは誠実さを重んじる。裏切ったりなんか絶対にしない』


 ツェーリはエルドリッチに対してそう言い放った。その気持ちは本物だろう。

 だから、疑問が尽きなかった。なんで世界を滅ぼそうとするのか。ヤンとツェーリはそれを受け入れたのか。彼らはこの世界と協調を望んでいたはずだ。そして、帝国に対して戦いに備える猶予を与えた。

 それらの意図は何を意味しているのか。二人に会えばはっきりするのだろうか。

 

 『みんな! 敵に動きがあったよ! 世界樹を囲むように陣を展開してる。絶対に近づかせないつもりね』


 モニカの通信のとおり、精霊の加護で飛行する万を超えるエルフが各々武器を持ち、俺たちを迎え討とうと待ち受けている。その陣形とは別に、俺たちに向けて進軍する部隊を捉える。その数は千を超える。

 その集団を前に、俺たちの戦力はたった八機。それも、武器を備え付けていないただの飛行物体だ。俺たちはこれからこの布陣を掻い潜り、世界樹に到達しなければならない。そして、それすらも始まりに過ぎない。

 俺たちの目標は帝都が壊滅すると予想される四時間よりも出来るだけ速やかに敵の親玉の首を討ち取ること。それがどれだけ無謀なことかは、今目の前の光景から明らかである。


 『敵の武器は弓や剣だ。そんな原始的なものでこいつらが破壊されるわけがねえ』


 パイロットの一人が言う。

 確かに頑強な装甲は剣を弾き、矢を通さない。俺が抱いた懸念は杞憂に終わると思いたかった。だけど、俺たちはまだ『世界樹の担い手』と遭遇したことがない。彼らのうち一人でも先陣を切っていたなら、むしろ安堵していたかもしれない。

 もしも、そうする必要すらないと判断していたなら……もうすでに手を打たれているということだ。そして、知識の神たるイスル・イシュルはそれを可能にするだけの能力がある。実際、モニカはそれを想定していた。


 『がーっはははは! まるで蚊の群れのようだな! こんな図体ばかりでかい乗り物に乗ってさえおらなんだら叩き潰してやったものを』


 ロイアスの高笑いが耳に響く。

 できないことも出来るかのように嘯く。ロイアスの才能である。だけど、彼ならありえるかもしれない。そう思わせるのもまたロイアスの才能である。

 距離を詰まり、そして、矢が放たれる。放物線を描く無数の矢。それらが降り注ぐ。

 何の問題もなく、意に介さず八機は突き進んだ。矢を放ったエルフたちの横を抜けて世界樹を目指す。


 『なんだ……拍子抜けだな』

 

 テューンがそう言うと、何人かが安堵の声を上げた。だけど、俺はまったく安心できなかった。テューンだって口じゃそう言ってるけど、声色は疑念と警戒を滲ませていた。

 そして、その予感が的中する。

 突然、八機のうちの一機が爆発したのだ。


 『どうなってる!? 状況は? 一体何が起こった!』


 パイロットの一人が動揺して捲し立てた。混乱が広がる。だけど、俺は身を委ねるしかなかった。空は彼らの専門だ。無駄に煽ってさらに状況を悪くさせるわけにはいかない。


 『墜落した機体は、一号機。一号機です……ロイアス様の乗っていた機体です!』


 よりにもよって……いや、エルフは狙っていたのだ。最初の一撃は必ず彼……ロイアスに対して行わなければならなかった。それを心得ている。焦燥感だけがただただ膨れ上がっていった。

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