敵影観測
ーーーーーーーーマテーーーーーーーー
落ち込まないように無理矢理元気に振る舞っても、ほんの少しの静けさで影をおとしてしまう。こんな調子じゃ明日の襲来まで耐えられそうにない。
そんな私の手を握ってくれたのはテューンだった。
テューンをこれほど近くに感じたことは一度もなかった。長い時間……長い長い時を経て、私たちは本当の意味で仲間になったのだ。
私はみんなに感謝しなければならない。私のワガママを許してくれるみんなに。だから、ゼフがまたパーティーを組みたいと言った時は私はすごく嬉しかった。そこはもう単なる逃げ道じゃなく、私の居場所になる。みんながいる場所を私の帰る場所にしたい。
ツェーリとの結末がどんな形で迎えようとも、私はみんなの元に帰ってくる。
すごく怖い。引き返して全てをなかったことにできるならどれほど良いことか。でも、もう逃げてなんかはいられない。私はもう決めたのだから。
『敵影を確認しました!作戦開始まで推定五分です!』
待機している中、通信がはいる。領空侵攻した時点で目の前にある機械は飛行可能になる。この帝国の技術は戦闘の意思がある場合、使用が不可能になる仕組みだ。オーバーテクノロジーを所有する条件として異世界人に付けられた枷である。
始まってしまう。ほんとに始まっちゃうんだ。
心臓が大きく脈を打つ。何度も何度も帝国の主張が嘘であってほしいと願った。そして、無慈悲に現実を突きつけられた。でも、大丈夫。立っていられる。酷い顔になってたとしても涙までは流さない。
私には傍にいてくれる仲間がいる。そのことをツェーリが教えてくれた。私の閉じかけた目を彼女が覚まさせてくれた。
「何も見えない」
「なーに、空を飛べば地平線の先まで丸わかりよ」
ゼフの主張にモニカが答える。
そう、あの地平線の先にツェーリがいる。私はなにがなんでも世界樹に辿り着かなければならない。
「何があっても動じるな、狼狽えるな!常に冷静でいることを心掛けろ!我々が決死の覚悟であるのと同様に、彼らもまた決死の覚悟であることを心せよ!頭に叩き込めた者から戦闘態勢に入れ!」
師匠の号令に応じて戦闘機に乗り込む。
パイロットから通信で、「よろしくね」と声をかけられ、私はぎこちなくも返事をする。まだ出発してもないのに体がガチガチだ。
しっかりしろ、私!
戦闘機の中は最初は窮屈に感じたけど今は快適ですらあった。ベルトを巻いて身体を固定させる。そうこうしているうちに、別の通信が入った。
『君たちはこの世界の希望だ。僕はただ祈ることしかできないが、君たちはすでに英雄だ』
『アルフォンスよ。君はこんなところで油を売ってないで後ろでどっしり構えていると良い。そのほうが士気もあがるだろうに』
『お気遣いありがとう。でも、油を売ってるわけじゃないからね。ここがダメだったら他も全てダメなだけさ。おっと、今のはオフレコで頼むよ。士気に影響がでちゃいけないし』
『がーっはははは! 安心しておれ。おまえはチャーハンを注文しておけばいい。うまいメシさえあれば俺様は無敵だ!』
『みんな頑張ってね! あたしという女神がついてるから!』
『おまえはシャシャリでてくるのではない!』
『ちょっと! なんでよー!』
そんなやり取りがあったけど、右から左へと抜けていった。みんなの緊張をほぐすためにおちゃらけているのかもしれない。だけど、私の眼はすでに空しか見ていなかった。
戦いが始まる。きっと望んだ結末は手にすることができない戦いだ。だけど、私は初めて自分の意思で戦うと決めた。その戦いが、もうすぐ始まる。