ロマン その2
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
「オーステアちゃんから後で話があるはずよ。あたしも協力者に不信感をもたせるつもりないし。敵が知ってて味方が知らないことがないようにしたいわけ。そこに付け込まれる可能性はゼロじゃない。まあ、エルフたちのこれまでの行動からも、それはまずありえないことね」
エルフの世界樹が齎すこの世界の知識が、どの程度こちらの策を看破してくるかは不明だ。モニカは全て筒抜けだと踏んでいる。そして、戦力は圧倒的に劣っている。
それゆえに、結局のところ俺たちが取るべき手段は正面からの一点突破、つまり特攻しかない。
「世界を滅ぼそうとしている割には、優しすぎる」
そう、彼らは優しすぎる。本当ならゲルシュ帝国に戦闘の準備をさせる前に叩ければ、被害を最小限にして勝利を収めることができた。だけど、それをしなかった。それどころか、自分たちの目的すらも隠そうとしない。
ロイアスはそれを傲慢だと罵った。敬意に欠けるとも言っていた。
「ロイアスくんと真逆だよね。ロイアスくんは負けたことがないから、どんな汚い手を使おうが勝ちに貪欲な相手なら褒め称える奴だしさ。あたしの世界のエルフなんかロイアスくんのお気に入りで、地の果てまでじゃれ合いに付き合わされて絶滅したぐらいよ」
「え……なんか聞いてた話と違うような……」
「ああ、ジュウリちゃんもリトゥヴァちゃんもロイアスくんの信奉者だから二人の話ならアテになんないよ」
「なるほど、たしかに」
腑に落ちた。なんという説得力だ。
「あたしの世界でエルフが悪だったのは事実よ。でも、今まさに戦おうとしてるエルフたちは違う。ロイアスくんは柄にもなくそこにわだかまりを感じてイラついてんの。ほんと笑える」
初対面でいきなりロケットランチャーをぶっ放されて殺されかけたし、あのロイアスと血の繋がりがあるし、筋金入りの頭がおかしい人かと思ってた。だけど、今の言葉のニュアンスからは別の面が汲み取れた。
「モニカさんは、この世界に飛ばされていきなりこんなことになって、怖くないんですか?」
「んー? まことに残念なことに、ロイアスくんと同じ血をひいてるだけあって少しワクワクしてるかも。でも、人間としての部分は怖がってるかな。だってあたし戦えないしね! 今までなるようにしかならなかったから今回もそんな感じ。これぞまさに神頼みってね! 本物の神様に頼ることになるなんて思いもしなかったよね。同胞よ、なかなか親切ね。気をつかってくれるなんて」
今度は同胞か……盟友と呼んだり忙しいことで。
「顔は普通だけど、あたしとの間にはかけがえのない絆がある。顔は普通だけど」
「そこ重要なんですか?」
大きなお世話である。
「この戦いが終わったらあたしとともに夜なべしてロマンについて語り合おうじゃーないか!」
「そのセリフ、死亡フラグっぽいですね」
「あたしが製作した大砲にはなんとなんと! ロイアス砲と呼ばれるロイアスくんを大砲で撃ちだす設計が組み込まれているのだよ!」
「えっ、言葉のアヤとかじゃなく、本当に本人を飛ばすんですか?」
「そそ、ロイアスくんが飛んでみたいっていうからロイアスくんを入れて射出できる弾を作った!」
「すげぇ! 人間大砲じゃん!」
「我が心の友よ! その言葉を待っていた! やはり分かってるねえ!」
「えーっと……その話、長くかかる?」
俺とモニカが熱く語り合おうとした矢先、ラルフが会話の輪から逃げる機を逸しないように割って入ってきた。