お風呂場にて その2
ーーーーーーーーマテーーーーーーーー
「私にはもう後がなかった。精神的に追い詰められてたんだ。ゼフのことにしたってそうだ。村でまともに私と張り合えたのはゼフだげだった。だから、私は自分の目的のためにゼフを村から連れ出した。全部打算で動いてた。トモエとリョウタが突然現れた時、村に保護してもらうのではなく、パーティーに招いたのはトモエの治癒魔術に目が止まったからだ。親切心や情ではなく、自分のためにやったことだった。みんなに優しくしていたのもパーティーを抜けてほしくなかっただけだ。本当の意味ではみんなと向き合ってなかった。言い換えれば、接待みたいなものだな。どうであれ、まともではない。擦り切れて中身がなくなった夢に縋って、漫然と形を整えてたに過ぎなかった」
テューンは続けた。
「でも、これからは違う。私は仲間のことを尊重する。そんな当たり前のことが出来てなかったのが恥ずかしい限りだが、上辺だけではなくちゃんと向き合っていきたい。だから、マテ。必ずツェーリのところに連れて行ってやる」
真摯な眼差しをテューンに向けられる。あまりの男らしさに目を逸らしてしまった。
嬉しかった。私のことを真剣に考えてくれているのだと伝わってきた。この世界が滅びることに比べれば、私のことなんて瑣末なものだ。だけど、私にとっては大事なことで、ワガママであったとしても譲れないことだ。
「ありがとう、テューン」
私は自分の真情を吐露することにした。
「正直私、家族から逃げられるなら何でもいいと思ってた。だから、自分の意見なんていらないって思ってたし、必要以上にみんなと仲良くならないようにしてた。師匠が現れてからみんな変わっていった時も変わらないほうがいいって思ってた。でも、きっと変わっていったみんなだから、私は自分の気持ちを素直に伝えることができたんだと思う。そしてね……私をこういう風に変えてくれたのはツェーリなんだよ……だから、もう一度ツェーリに会いたい! きっとどうにもならない。辛い目に遭うだけだって分かってても私はツェーリに会いたい……あんな風に別れたままじゃ嫌。怖くて怖くて仕方ないの。でも、会わないのはもっと後悔する」
堪え切れずに涙を流す。湯気で隠れてくれないかなというちょっとした期待もテューンに抱き締められたことによって泡となった。私には崩壊した涙腺を止める手立ても、震える唇を静める鉄の心もなかった。裸同士で恥ずかしいとか、トモエちゃんに見られてるとか、そんな細かいことは全部置き去りにして私はテューンの温かさに甘えた。
それは、師匠が全裸で隠すところを隠さずに堂々と風呂場に乗り込んできた時まで続いた。そして、その頃には私たちはすっかりのぼせてしまっていた。
「し、師匠! タオルないんですかタオル!」
「千年も生きているのだ。今更隠さなければならないほど恥ずかしいところなどあるまい。しかも、女同士なら尚更だ」
「あります! ありますからぁ!」
トモエちゃんの慌てっぷりにちょっとだけ私は笑わせてもらった。