ロマン
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
「これが帝国の技術の粋を集めた最高傑作よ!」
ババーンと誇らしげに胸を張るモニカ。
その背後には戦闘機が一機、重厚で迫力ある存在感が少年心をくすぐった。見たところ、ミサイルも爆弾も装備していないのが残念だったが深緑の機体は地球のものと少し形状が異なっていて見応えがあった。
燃料が魔力のためタンクを置くスペースが小さい分スリムに見えるのかもしれない。代わりに、腹の部分に両翼に伸びるように魔法陣が描かれていた。
「いや……君、開発に携わってないよね?」
「帝国のものはあたしのもの、あたしのものはあたしのものよ!」
「うわー、どっかで聞いた論理だ! どこの異世界でも流行なの?」
俺もまさか異世界でそのセリフを聞くとは思ってなかった。そして、皇帝陛下がすでに耳にしたことがあるのも驚愕である。
さっきのチャーハンといい、以前にも地球から転移してきた人がいるのかもしれない。
「これは……すごいな!」
師匠が目をキラキラさせている。まるで子供のようだ。かくゆう俺も目の前に鎮座してる戦闘機に、はやる気持ちを抑えられないでいた。
この世界出身のメンバーは次々と登場する最新技術に頭の整理が追いついてないようだった。
「な、なあ、これ何なんだ?こ、これで本当に飛べるのか?」
しどろもどろの貴重なゼフを見ることもできた。見たことも聞いたこともない空飛ぶ兵器に好奇心全開なさまは見ていて微笑ましかった。口にしたら怒られるだろうけど。
逆に、マテと篠塚は不安がっていた。
マテはともかく、飛行機を知ってる篠塚が不安を覚えるなんて……いや、現代日本でも怖がる人間はいたな。
ごくごく低確率でも墜落の可能性はある。大丈夫とわかっていても心配してしまう気持ちは、ほんの僅かだけど共感できる。
ましてや、これは戦闘機だ。飛行機の経験があろうがなかろうが怖いものは怖い。
「これ変形とかしないの?人型とかに」
「お、まさかそのロマンがわかる人がいるとはー! だが、残念ながら少年よ。この戦闘機は変形しないのよ! あたしが少しでも絡んでたら……余計な機能を搭載できたのに!」
余計な機能言っちゃったよ、この人。
モニカは非常に悔しそうな表情を浮かべたあと、ちらっちらっと皇帝陛下にアピールした。
「君には別の権限あげたでしょ。これ以上は無理! 無理無理むーり!」
「ケチ! 甲斐性なし! 不能!」
皇帝陛下にケチをつける恐ろしい女、モニカ。
「ふのっ、ふ、ふのふの、ふふふ、不能!?」
動揺しすぎだろ。
皇帝が本当に不能だったら世継ぎの問題が深刻だろうに。
「ちなみにどんな権限を?」
「ふっふっふっ、少年。名前なんだっけ?」
「涼太です」
「リョータ! 我が盟友よ!」
やっすい盟友だ。
ロボットのことを聞いただけだというのに、随分とモニカに気に入られてしまったようだ。あの無駄に存在感のある鼻息を出すリュウガとは別の意味で鼻息が荒い。
「あたしにはもう一つロマンがある! それは! 超大砲主義であるー! でかくて高威力! それこそが正義! 是非とも見せたいところだけどだけどだけどー? 明日のお楽しみ!」
よっぽど自分の趣味趣向の話が出来て嬉しかったのか、めっちゃ早口なうえに一人で話を完結させにいった。下手に突くと疲れそうなので俺は適当な相打ちを打つことにした。