無謀な作戦
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
「白けた空気は得意じゃないんでー……本筋に戻ろ?」
誰もその空気が得意なやつなんていないと思う。
モニカの意見自体には同意だ。マテの気持ちにも配慮してやりたいのは山々だけど、いかんせん状況が差し迫ってる。ロイアスの話じゃ明日にも世界樹のエルフたちは帝国に攻め入ってくる。そして、その結末は占領ではなく、滅亡だ。
ヤンとツェーリとは短い間だったけど、仲間意識が芽生えなかったわけじゃない。ようやくヤンのことがわかりかけてきたところだったのに。薄っすらと感じているそれを、マテは強く心に抱いているんだろう。
「情報があまりにも乏しいんだよね。君らエルフと一緒にいたらしいね?どんな些細なことでもいいから教えてほしいのよ」
「そう言われてもお互いの事情には深く突っ込まないでいたからな。精霊を従えているが、実際に戦ったそちらの二人のほうが詳しいのではないか?」
「あたいらっすか?」
急に振られて退屈そうにしていたリトゥヴァが居住まいを正した。振ったテューンもそのやる気のない態度に目を細めた。ジュウリも同様で眉間に皺を寄せている。
「いやー、やばかったっすね、あれは。精霊の全容ははっきりしないっすけど、それ以外にもなんてーか……ものっすごいカンが鋭かったっす。学習能力が高いんすかねえ。ジュウリのおかげで結構押せてたっすけど、次やるときはやられちゃうかもっすね」
「軽いねー……相変わらず」
「考えても仕方ないことは考えても仕方ないっすからね!皇帝ももうちょっと肩軽くしていくべきっすね」
アルフォンス皇帝陛下の乾いた笑いが居た堪れない。
「リトゥヴァの弱点を的確に狙ってきました。あれが精霊によるものなら、決して侮れるものではありません。ましてや、『世界樹の担い手』ではないあの二人があれほどの手練れだというなら帝都の防衛は相当厳しいものになるでしょう」
「そうか……そうだよねぇ……」
ざっくばらんなリトゥヴァの説明に補足するような形でジュウリが報告する。
「それで、私たちに具体的にどうしてほしいんだ?敵は空の上にいる。対策がないと雑兵と変わりない」
「オーステア殿、その点については安心していただきたい。我が帝国はすでに空戦の準備が出来てる。それはつまり、君たち全員を搭乗させられるだけの機体を確保してあるということに他ならない」
「機体……?なんだそれは?」
「待ってくれ。もしかして私たちに敵陣の只中に乗り込めと言っているのか?」
聞き慣れない単語なのにテューンは思惑を察して、ゼフの投げかけた疑問に割って入った。
「そのとおりだ。君たちにはロイアスとともにあの世界樹に侵入してもらうつもりでいる」
「あえて聞かせていただきたい。私たちはそれほどの信頼を得ていないはずだ。その作戦は、私たちに命を預けると同義であると理解したうえで言っているのか?」
「オーステア殿……そのつもりだよ。見ず知らずの者たちに預けなければならないほど、僕たちの命は風前の灯火なんだ。君たちかロイアスが、エルフの長の首を討ち取るまで、僕は彼らの侵攻を全力で阻止する。だから、お願いだ。僕に力を貸してほしい」
アルフォンス皇帝陛下は深々と頭を下げた。
なんだか頼りなさそうな外見と振る舞いだったけど、その思いっきりの良さと懐の深さにほんの僅かに王の風格を感じ取った。