悲劇の始まり
ーーーーーーーーマテーーーーーーーー
私の一族は王家と遠い親戚だ。といっても神の血を授かった最初の国王の弟の家系だから、何百年も前なので他人に等しいのだが。とにかくそんな繋がりもあって財務大臣という重要な役割を任されるに至り、現在まで脈々と受け継がれていった。
だから、血へのこだわりがものすごく強かった。それは跡継ぎの問題にも影響した。
私の母は私を生んだあと、なかなか子宝に恵まれなかった。母は厳しい人で、笑うことが少ない無愛想な人だった。でも、時折見せる我が子を慈しむ眼差しに私は愛を感じていた。
父も似たようなもので、仕事ばかりで全然構ってなんてくれなかった。寡黙な人で重ねた言葉の数は決して多くなかった。
それでも、二人は仲睦まじく、確かに私は二人の子供だった。
狂い始めたのは私が八歳になった頃、母が弟を出産してからだった。
ほんのりとあった温もりは徐々に薄れていき、それが弟に流れていっているのを子供ながらに察した。それどころか、私に注がれたことがないであろう溢れんばかりの愛情を、弟は与えられていた。
私も弟のことを愛していたし、最初はそれでもいいと思っていた。だけど、蓄積していったものはそれを否定しつづけた。
何をやっても認められず、全て弟優先で物事が進み、やがて愛されていた過去に縋ることもできなくなって、私は全てを捨てることにした。
ーーーーーーーー佐倉涼太ーーーーーーーー
フリージアからゲルシュ帝国について話は聞いていたが、まさかこれほどとは想像してなかった。その街並みに師匠でさえ驚いている。
「これは……! 何から何まで初めて見る代物だな……!」
その目は爛々と輝いていて、容姿も相まってまるで子供のようだった。
「ゲルシュの文明はもっとも秀でていると噂だったが……これは先の先を行ってるな。理解が追い付かない」
テューンも眉根に指をあてて頭を整理しようと必死である。
地面にはアスファルトが敷かれていて、高層ビルが立ち並び、道路には車が走っている。
ここはまさに現代の地球だった。違うところは、車はガソリンじゃなくて、魔力を動力にしている点だ。ガソリンだけじゃない。電力すらも魔力で賄われている。ロイアスの言うところによれば、国を彩る全ての魔力の動力源はたった一つ。
それを狙って世界樹のエルフが侵攻してくる。食い止めねば、この世界は滅びの時を迎える。